はい。わたしは、マンガとテレビで育ちました。
それでもって、活字よりも、すぐに絵の方に目がゆきます。
ということで、世界文化社のグラフィック版「徒然草方丈記」(1976年)
をひらくのは、絵巻までが載っていて、たのしめるからでした。
その6~7ページに「徒然草絵巻」の絵があります。それは、
海北友雪筆「女の白い脛(はぎ)を見て通力を失った久米の仙人」。
さてっと、この絵は印象深く、何度もひらきたくなります。
それより、ここでは、ほかの話題をとりあげます(笑)。
「枕草子」の116と117には、
『絵にかきおとりするもの』
『かきまさりするもの』がある。
うん。森三千代さんの訳で引用。
「 絵を描いて劣るもの
絵に描いて、じっさいのものより劣るものは、
なでしこ、しょうぶ、桜です。
物語のなかに出てくる男や女も、
挿絵に描かれたのを見ると、
文章でほめあげているほどには美しいとも、
すぐれているとも見えないのが、ふつうです。」
「 絵に描いて引き立つもの
絵に描いて、じっさいのもの以上に引き立って見えるものは、
松の木、秋の野原、山里、山路です。 」
(p140~141・「日本古典物語全集」岩崎書店1975年)
ここを引用していたら、思い出す本がありました。
庄野潤三著「前途」(講談社・1968年)。
ここには、庄野氏の先生・伊東静雄に、
夜、酒を飲み、教えてもらった指摘があるのでした。
ちょうど今日、改めて思い出した印象深い箇所です。
「話は国文学の読みかたに移る。先生はこう云った。
和文脈の中心となるものは、先ず
源氏物語、伊勢物語、枕草子、徒然草、倭漢朗詠集の5つ、
日本の美感はこれに尽されている。
このうち源氏物語は大本であるが、全部読むのは面倒ゆえ、
好きなところを引っぱり出して読めばいい。
特に大切なのは枕草子と徒然草で、これは是非とも読む必要がある。
・・・通読しなくてよいから、気の向いた時、
すぐ出して、そこだけ読む。こんな本を(と伊東先生はそのあたり
に積んであった本の中から受験生用の薄い『奥の細道』を取り上げ)、
注釈書のようなものでも、小さいのでも、何でもいいから見つけ次第、
買って来ておく、そして、どんどん読み散らす。
知っていればいるだけ得という風な態度で読めばいいのです。
枕草子は、その書きぶりが賢そうで嫌いだったけれども、
書いてあることは非常に大切。日本の美感の源泉で、
これを知っているといないとでは大へんな違いとなる。」
(p117~118)
はい。源氏物語は、まず敬遠している私ですが、
『これは是非とも』と伊東静雄先生がいうところの、枕草子と徒然草。
こちらなら、私にも読めそうな気がしておりました。
酒に酔って、『日本の美感』がスラスラと口をついて・・。
そんな場面を思いながら、どんどん読み散らせますように。