「歌舞伎俳優の片岡愛之助が2日、東京・歌舞伎座で初日を迎えた「四月大歌舞伎」(26日・千秋楽)の昼の部「夏祭浪花鑑(なつまつりなにわかがみ)」に出演した。」
昼の部のラストは、「夏祭浪花鑑」である。
毎年5月、歌舞伎座では「團菊祭」が開催されるのだが、今年は4月に「愛菊祭」というか、むしろ「ラブリン祭」とも言うべき愛之助の独壇場が出現した。
それにしても、この演目は人間関係がややこしい。
私は、職業柄、人物相関図をつくるのが得意なはずなのだが、それでも完成させるのに5分くらいかかってしまった。
「泉州浜田の家中 玉島兵太夫の忰磯之丞は、堺の遊女琴浦に溺れて放埒を尽くし、勘当される。兵太夫の恩を受けていた堺の魚売団七九郎兵衛は、琴浦と添わせるべく磯之丞の世話をする。
磯之丞の恋敵大鳥佐賀右衛門は、琴浦を手に入れようと奸計し、一寸徳兵衛を味方につける。団七と徳兵衛は達引きとなったが、徳兵衛も玉島家の恩顧を受けたものであることが判明し、団七と徳兵衛は義兄弟の契りを結んで、磯之丞を守ることになり、釣船の三婦の許に磯之丞と琴浦を匿う。
徳兵衛の女房お辰は、磯之丞を備中玉島へ送り届けるため、自らの額に焼き鏝を当てて、醜婦となる。
団七の舅三河屋義平次は琴浦を奪い、大鳥に渡して金にしようとするが、追付いた団七はさまざまな恥辱にたえ、歎願するも聞入れぬので、思わずも舅を殺してしまう。
舅殺しが露見した団七は、一旦玉島に逃れるが、自ら名乗って縄目にかかる。大鳥も旧悪が露顕して磯之丞は帰参が叶う。」
もとは浄瑠璃で、全9冊あったそうだが、今日では序幕、二幕と大詰めの3冊のみが上演される。
それでも十分ややこしいストーリーではあるが、登場人物は「お世話になった人のために恩返しする」という江戸時代(あるいは日本の歴史全体)の行動原理を忠実に守って動くので、これを押さえてしまえば理解は容易である。
そうした中で、唯一の例外として、団七(愛之助)が「親殺し」という、当時におけるもっとも重い罪を犯すという点が特色となっている。
団七は、恩義のある磯之丞のために、彼の愛人である傾城琴浦を、舅の義平次から金で買い取ろうとする。
団七が、
「わしの顔が立たぬ。頭を下げて頼む。・・・慈悲じゃ情けじゃ・・・」
と懇願するので、義平次はいったんこれを請け負う。
ところが、実は団七は金を持っていないことが判明したため、激怒した義平次は団七を打ち据え、更に挑発を重ねる。
これに憤慨した団七は、はずみで義平次の肩を斬ると、義平次は、
「親殺し!」
と叫ぶが、団七は逆に覚悟を決めてとどめを刺す。
ポトラッチと関連するのは、この「親殺し」の場面と、磯之丞を預かりたいというお辰(愛之助)に、三婦が「あんたには色気がある」と言って断るのに対し、お辰が自らの頬に鉄弓を押し当てて火傷を作り、「美貌を損なう」場面の2つである。
ということで、「夏祭浪花鑑」のポトラッチ・ポイントは、
① 「親」の威光を笠に着て、団七に執拗かつ非情に金を要求し続け、団七の磯之丞に対する”恩返し”を妨害したことの代償として自身の命を失った義平次→ 5.0ポイント
② 自傷行為によって自身の美貌を損なったお辰 → 1.0ポイント
の計6.0ポイントとなる。