(裁判官の採用について)
岡口氏 「・・・で、いきなり実務でしょ、ときどき教官が来るくらいだから。あれで人となり分かれって言っても無理で、今聞いた話だと、『四大の内定者から選んでる』とかいういう話があります・・・」(21:43付近~)
三輪氏「・・・四大とか五大とか言われる事務所がもう超巨大化していて・・・大企業を顧客にいっぱい抱えていて・・・大企業をかなり多くの弁護士が、大企業の代弁者みたいになっているんじゃないかって、私は懸念していて・・・」(22:30付近~)
岡口氏「・・・四大の内定者から選んじゃうと、どうしてもね、目指してきたものが違うのでね、・・・ミスマッチがありますよね」(25:40付近~)
「・・・中学生の夢は、『四大に入ること』なんですよ・・・」(27:40付近)
裁判官のリクルーティングに関する衝撃的な話である。
現在の司法修習システムだと、司法研修所での集合研修の期間が短く、最初から実務修習で全国各地に配属され、(裁判官である)教官はときどき出張で来るくらいなのだそうだ。
これだと、修習生の人となりなど分かるはずがなく、裁判官のリクルーティングは難しい。
そこで、裁判所は、四大事務所の内定者(「サマー・クラーク」などで、司法試験を受ける前から能力や人となりを吟味されている:ロースクールにおける人格蹂躙とクソな競争)をターゲットとして、採用活動を行っているようなのだ。
これを私は、「四大内定によるカウベル効果」と名付けたい。
「カウベル効果は呼び水効果と言い換えられることもあり、新聞記事や政府の公開資料・政府系金融機関のパンフレットの中によく登場する用語です。カウベル効果を世界で最初に命名した日向野幹也氏のブログによれば、カウベル効果は「金融市場でよく見られる模倣現象のこと」で、同氏の書籍「金融機関の審査能力」(東京大学出版会刊)にて、「貸手Aの融資行動自体がAの行なった審査の結果を顕示(reveal)してしまうので、これに追随するBやCは、ある条件のもとで情報の外部性を利してAの審査能力にいわば便乗する機会を得ること。これをカウベル効果と呼ぶ。」と定義されています。」
「カウベル効果」というのは、うんと分かりやすく言うと、ある製造業者の工場建設資金を、審査能力に優れた日本政策投資銀行(ドラマ「半沢直樹2」にも「開発投資銀行」の名前で出て来る政府系金融機関であり、竹中平蔵氏の古巣でもある)が融資した場合、「サクギンのお墨付きがあるくらい良い企業なんだから、うちも融資しよう!」という風に、他の金融機関が「右に倣え」をする現象を指す。
これと似た現象が、裁判官のリクルーティングでも起きており、「四大内定」という能力のお墨付きを得た修習生は、「カウベル効果」によって裁判所からの信用も得るわけである。
だが、岡口・三輪両氏が指摘するとおり、ここには大きな落とし罠がある。
最大の問題は、「目指してきたものが違う」こと、つまりミスマッチである。
そもそも、司法の最大の目的が「少数者の権利保護」であることは法学部で必ず習うことであり、木庭顕先生によれば、「法曹」は、「『最後の一人』を守る専門家ないし職業」と定義される。
私見では、裁判官に最も求められる資質は、「最後の一人」を守るという基本姿勢・気概だと思う。
ところが、現在のリクルーティング方法だと、そのような人材を取り損ね、逆にそうでない人材を集めてしまうことになりかねない。
若手裁判官の離職率の高さは、このミスマッチに基因している可能性も考えられる。
これ以外の問題として、やや些末となるが、四大側の抵抗がかなり強力で、裁判所が負けるケースもあるのではないかという点が挙げられる。
私の同期でも、検察に引っこ抜かれそうになった内定者を何度も呼び出して、あの手この手で翻意を促した事務所があった(「ふつう」のこと)。
母集団が「四大内定者」で、その中でのパイの取り合いになるとすれば、裁判所側は数の確保が難しいのではないだろうか?
いずれにせよ、現在のやり方では早晩行き詰りそうである。