男性版『白鳥の湖』の熱狂から5年。
全英を虜にした鬼才マシュー・ボーンの野心作、ついに日本初上演!
2020年に予定されていた「赤い靴」の来日公演がコロナで中止となったため、今回は2019年の「白鳥の湖」以来5年ぶりの公演となる。
マシュー・ボーンのバレエはどの作品もそうだが、本作も原作が換骨奪胎され、およそ異なる設定・ストーリーとなっている。
時は近未来、場所は「ヴェローナ・インスティテュート」という、反抗的な若者を収容する矯正施設である。
「王室」(「白鳥の湖」)、「孤児院」(「くるみ割り人形」)と同様、「閉鎖的・抑圧的な空間」という設定が採用されている。
彼の一大テーマは「抑圧からの解放」であり、その手段の一つがダンスなのである。
「抑圧」を体現する「支配する大人たち」としては、我が子を見捨てるロミオの父(上院議員)と母、施設の看守でジュリエットに性的虐待を行うティボルトなどがいる。
ここでは、「虐待」という、原作には見られなかった現代社会の大きな問題が取り込まれている。
そこに、原作でも核心を成していた”ボーイ・ミーツ・ガール”ストーリーを組み込んだのが、「ロミオ+ジュリエット」である。
但し、マシュー版では、それなりに精神的に成熟したジュリエットは、ピュア(つまり精神的に未熟)なロミオのそのピュアさに惹かれるという仕立てのようであり、ここには若干問題があるかもしれない。
というのは、「若い女性は、同年代の男性より精神的に成熟しており、分別が備わっている」という思考は、一種のジェンダー・バイアスと言いうるからである。
それはともかく、ラストは衝撃的で、原作とは全く異なるのだが、これはネタバレになるので、さすがに書けないところである。
ちなみに、音楽はオーソドックスにプロコフィエフを採用しているが、実はひねりを利かせてある。
というのは、マシューによれば、「音楽は、プロコフィエフのオリジナルのオーケストレーションを簡略化したものではなく、このプロダクションのために特別に考案された新しい編曲です」ということで、室内楽版に近い。
これが可能なのは、プロコフィエフの孫ら(英国で財団を運営)がマシューの「シンデレラ」の大ファンであり、原曲の編曲を許可してくれたからであった。
クラシックの曲でも権利関係は結構大変なのである。