パンセ(みたいなものを目指して)

好きなものはモーツァルト、ブルックナーとポール・マッカートニー、ヘッセ、サッカー。あとは面倒くさいことを考えること

1976年のバイロイト

2013年12月03日 20時55分38秒 | 旅・旅行
本棚をゴソゴソとしていたら、こんな冊子(パンフレット)が見つかった


1976年、バイロイトに行った時に購入したもの
音楽祭の全体を紹介するパンフレットで
この年はちょうどバイロイト音楽祭100周年の年にあたっていたので
音楽祭の歴史やら、歴代の歌手が網羅されている

このパンフレットをめくっていくと小さなチケットが
ページの間に挟まっていた(写真の左下)


8月19日の日付が記入してある
うっすら思い出すと公演のチケットではないようだ
確か本番のチケットはもう少し詳しく席の表示がしてあったはず
公演が休みの時に祝祭歌劇場を見学した際のものと思うしかないが
劇場を見るだけで入った記憶はどうも怪しい
でも、多分そのチケットだろう

この年のトリスタンとイゾルデ、パルジファルを
見ることが出来たのだが、今にして思うと本当にラッキーだった
自分にとっては遅く訪れた疾風怒濤の時代の無鉄砲な旅で
バイロイトのチケットなんて当然手にはしていなかった

それどころか、ユースホステス泊の旅を続けて
バイロイトに来た時は電車で降りる時になっても
泊まるところは確保していなかった

ところが、電車で隣に乗り合わせたおばあさんと
親しく話すうちに彼女も泊まる場所が決まっていないという
そこで、それなら一緒に泊まりましょうということになって
見ず知らずのひとと一つの部屋を借りることになった

でも色っぽい話はなし
着替える時は「出て行って!」の一声
部屋の外で終わるまで待つだけ

でもこの人はとても品の良い方で
ご主人は確か化学者だったと記憶している
彼女との会話は英語で名前はキャサリン・デイワットさん

このキャサリンさんのおかげで貴重なバイロイトのチケットを
手にすることができることになる

翌日祝祭歌劇場近くに二人で行き
そこで行ったのは「Suche Karte」と紙に書いてチケットを売ってくれる人を探すこと
周りには自分たちだけでなく沢山の人が同じようにしていた
ユーゴスラビアだったかルーマニアだったか、とにかくそちらの方から来た人と
並んで待っていた

キャサリンさんの年齢は70歳くらい
それが幸いしてか、それともお金がありそうに見えたのか
一人の男が声をかけてきた
結論から言えば
100周年の記念のシェロー演出・ブーレーズ指揮の指輪のチケットを
譲ってもいいとのこと
それで、自分は彼女の隣にいたから同行者として譲ってもらえることになった

その価格は、一体相場より高いのか、そうでないのかは
わからなかった(本当の価格も知らなかったから)
でもそんなに理不尽な値段ではなかったような気がした
男に言わすれば
「彼女は歳をとっているから、これから先は
 この公演を見る機会は少ない、だから若い他の人ではなくて
 彼女に譲ることにする」とのこと

というわけで、自分も指輪の4日分を手にした
彼女は更に運の良いことに、当日の「トリスタンとイゾルデ」
のチケットも手にすることが出来た

100周年のバイロイトらしい画期的なシェローの演出
ブーレーズ指揮の指輪
普通なら大喜びということになるのだろうけれど
手にしたのはいいけど自分はガッカリ
なぜなら自分が見たかったのはヴィーラント・ワーグナーの演出のような
抽象的な真っ暗な舞台での指輪で
タキシードを着るようなヴォータンの演出ではない

それでまた紙に書いて会場付近をウロウロ
「Tauche karte」チケット交換して下さい

結局、交換に応じてくれて手に入れたのが
「トリスタンとイゾルデ」2日分と「パルジファル」2日分
このホルスト・シュタイン指揮のトリスタンが自分にとっての歌劇体験だったので
それはそれは印象的なものとなった
本当に感動した

今年読んだ吉田秀和氏の本に
彼もこの年のバイロイトにいってトリスタンを聴いたが
ホルスト・シュタインの指揮は平凡でつまらない
と酷評されていたが、比較対象出来ない自分はそんな耳もなく
ひたすら音楽だけに集中して充分過ぎるほど堪能できた

そういえばキャサリンさんが見たトリスタンは
カルロス・クライバー指揮したものだった
見終わって感想を聴くと「beautiful」彼女は何度もそうつぶやいた
でもなんだか「beautiful」の表現ではなんか違うんじゃないかな
というような気持ちになったことを覚えている

今年37年ぶりにドイツ・オーストリアへ行って
昔訪れた個所を廻ったわけだけれど
その場に経つと記憶は割と鮮明によみがえり
今の年齢のことをすっかり忘れてしまう自分がいた

バイロイト、仮にもう一度自分を振り返る旅をするなら
ここは外せない!

しかし、あの時バイロイトを体験できたのは
本当にラッキーなことだったとつくづく思う



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする