怖くて読み返せない本がある
その世界にどっぷりと浸かって、自分も同じようなことをしてしまうのではないか
そんな気がしてしまうから
それは高野悦子の「20歳の原点」
手にしたのは大学の入学の頃だったと記憶している
よくわからないまでも心とか感情が揺さぶられた
それで2つ上の姉にも興奮してなにか語りかけたが、姉は大して関心がなさそうで
なぜ、そんなに心を動かされすにいられるのか不思議に思った記憶が残っている
高野悦子さんは自ら命を断った
その理由は、今もわからないかもしれない
でも全体を覆う若い日のトーン「未熟であること」の痛切な生き方は
いま「ボーッと生きてんじゃねーよ」と言われそうな自分らに今一度
何かを感じることを要求しているような気さえする
(なぜ急にこの本のことを思い出したのか)
この本の最後に詩が掲載されている
怖いほどに、感情に訴える
まだ感じる感覚が残っているのかと安心もするが
生き延びてしまっていて申し訳ないような気も、、
読むのが怖いその詩は
旅に出よう
テントとシュラフの入ったザックをしょい
ポケットには一箱の煙草と笛をもち
旅に出よう
出発の日は雨がよい
霧のようにやわらかい春の雨の日がよい
萌え出でた若芽がしっかりとぬれながら
そして富士の山にあるという
原始林の中にゆこう
ゆっくりとあせることなく
大きな杉の古木にきたら
一層暗いその根本に腰をおろして休もう
そして独占の機械工場で作られた一箱の煙草を取り出して
暗い古樹の下で一本の煙草を喫おう
近代社会の臭いのする その煙を
古木よ おまえは何と感じるか
原始林の中にあるという湖をさがそう
そしてその岸辺にたたずんで
一本の煙草を喫おう
煙をすべて吐き出して
ザックのかたわらで静かに休もう
原始林を暗やみが包みこむ頃になったら
湖に小舟をうかべよう
衣服を脱ぎすて
すべらかな肌をやみにつつみ
左手に笛をもって
湖の水面を暗闇の中に漂いながら
笛をふこう
小舟の幽かなるうつろいのさざめきの中
中天より涼風を肌に流させながら
静かに眠ろう
そしてただ笛を深い湖底に沈ませよう