パンセ(みたいなものを目指して)

好きなものはモーツァルト、ブルックナーとポール・マッカートニー、ヘッセ、サッカー。あとは面倒くさいことを考えること

セミと風鈴(追加と変更)

2014年08月01日 20時37分27秒 | 創作したもの

余りにも一本調子すぎるので少しエピソードを追加してみた

風のない暑い日
風鈴は自分では音を出すことができない

夏休みの少年たちの定番も少し加えてみた
多少の矛盾点は無視することにする

追加変更したもの、最初から!
まだ少しあちこち直さなければならないが
とりあえず現時点でのもの



セミと風鈴

セミは少し悔しかった
今も小さな女の子のつぶきが耳に残っている
「涼しそうな風鈴の音。とても気持ちがいいわ。
でもセミたちはなんて賑やかでうるさいこと
どうしてあんなに必死に泣き続けているのかしら?」

その林道の中腹には小さな古びた休憩所があった。
旅人は疲れた体を休め、眠りについたり、時には食事をしたが、その軒先に風鈴が吊るしてあった。
風鈴は日が傾き始めた頃、チリンチリンとなった。
「ほう、いい音だ。」
年老いた旅人がつぶやく。
セミはそのつぶやきを耳にした。
セミは「羨ましいなあ。自分の鳴き声があのように褒められるようになりたいものだ」
最初は何気なく思っただけだった。が、そのうちに褒めてもらえる鳴き方をすることがとても大事な、
もしかしたら生きているうちで一番大切なことではないかとも思うようになった。
そして、そのためにはどんな努力もいとわないと考えるようになった。
それからは前にもまして、体全体を震わして大きなで声で鳴くのだった。

朝から晩までセミは鳴き続けた。
近くの木に止まったセミが助言した。「そんなずっと必死に鳴いてばかりじゃ命がもたないよ!」
セミは頷いたが、全力で鳴くことをやめることはしなかった。
美しく鳴く、ただひたすらそれを求めて。

来る日も来る日もセミは鳴き続けた。
そんなある日、太陽は見えなかったがひどく蒸し暑い一日があった。
休憩所に入り込むと旅人はみんな首元、額の汗をせわしく拭きとった。
セミはいつもよりは疲れるような気がしたが、それでも力を振り絞って鳴いた。
そのうちセミはいつもと違うことに気がついた。風鈴の音が聞こえない。先程からずっと静かなままだ。
そのうちある旅人が「こんなところに風鈴が吊るしてある。それっ」と言って、
風鈴に向かって団扇を扇いだ。すると風鈴はいつもの様にチリン、チリンとなった。
「音だけで涼しくなれるようだ。本当にいい音だ。」
旅人は今度は少し強めに風鈴に向かって風を送った。風鈴はチリリン、チリリン。
そんなことを数回繰り返すとやがて飽きてしまって、また額の汗を拭い取るのだった。

ゴソッ。
セミの直ぐ下で急に大きな音がした。
下で一緒に鳴いていたセミの声が一瞬悲鳴に様に聞こえたと思うと静かになった。
樹の下では少年の声が聞こえる。
「やった。上手くやらないとおしっこかけられるけど、今のは大成功」
そういって捕虫網を得意げに引き下げた。別の少年が捕虫網の中を覗きこんでいる。
「でも、まだあそこに一匹いる、いそがないと逃げちゃう。」
少年が背伸びしてセミの止まっているところまで捕虫網を伸ばそうとするよりほんの少しだけ前に
セミは逃げることができた。風鈴が見えて旅人の話し声が聞こえる場所を離れたくなかったが。
そのうち少年たちは他の場所のセミを探しに足早に走り去った。
次の日、いつもの場所で鳴いていたセミは、今日も少年たちが捕虫網を持ってやって来たのに気づいたがこの場所は離れたくなかった。
「あれっ、あそこにセミがいる。昨日と同じ場所だよね。同じセミかな。」
「そんなことないだろ、違うセミだよきっと。それよりさっさと捕まえよう」
少年たちが自分に捕虫網を伸ばそうとしたのを確認するとセミは素早く木から飛び去った。
「ちえっ!まあいいや。別のところへ行こう」
少年たちは昨日と同じように場所を移してセミを探しに行った。
子どもたちは翌日も捕虫網を持ってやって来た。今度は一人増えている。前日までの手柄話を新しく加わった仲間に自慢している。
「不思議なんだよな。またあそこにセミがいる。昨日も一昨日もいたけど、やっぱり同じやつかな」
前の日と違ったのは今度は少年たちはそのセミを捕らえようとはせずに前日収穫の多かった場所に直ぐに移動した。
しばらくして満足そうな子どもたちの声が耳に入った。
「だから言ったろう。あそこはいい場所だって。」虫かごには数匹のセミが閉じ込められている。
「それにしても、あー暑い!」少年たちは旅人が涼んでいる軒下まで急ぎ足で向かった。
そこで軒に吊るされた風鈴に気がつくと手で軽く風鈴を押した。
チリリーン。もう一度別の少年が押した。チリリーン。「自分ちのやつよりいい音だな。」
もう一度今度は強めに押すと少年たちは勢い良くその場所を離れていった。
それからもう少年たちは来なくなった。そしていつもと同じように時が過ぎていく。
セミはいつもの場所でいつものように鳴き続けた。


どのくらい時間が経ったのだろう。セミの一生と言う時間をはるかに超えてそのセミは鳴き続けた。
親切に助言したセミは少し前に木からポトリと音を立てて落ちて今はその亡骸を蟻たちが運ぼうとしている。

しかし、そのセミは相変わらず朝から晩まで泣き続けるのだった。
ところが林道の休憩所から聞こえる声はやはり風鈴の涼やかな音を褒める言葉ばかり、
蝉の声については何の言葉を発せられなかった。

鳴き方がまずいのか?音が大きすぎるのか?音の高さを工夫することはできるのだろうか?
セミは考えついた全てのことを試みた。
しかし、やはり旅人にはただ騒がしいセミの鳴き声にしか聞こえなかった。
いやそんなことすら感じてもらえなかったのかもしれない。

ある日の午後、遠くに見えた雲が急に黒っぽく変わり、あたり一面が暗くなった。
冷たい風も吹き始めた。突然、激しい雨が降り始めた。
雷もなり始めて、はじめは遠く聞こえたのが徐々に近づいて来ている。旅人は先を争って家に飛び込んだ。
ピカっと光った瞬間、ガシャーン!と大きな音。近くに雷が落ちたようだ。
「クワバラ、クワバラ!」旅人は口々に呪文を唱える。
軒先に吊るされた風鈴は強い風にさらされて右に左に大きく揺れている。間髪おかず金属音を鳴らし続ける。
チリ、チリ、チリリーン。チリ、チリ、チリリーン。
「うるさいな!」旅人の中の一人がつぶやいた。とその瞬間、風鈴を吊るしていた紐が切れた。
風鈴が落ちたところは少しばかり坂になっていた。おまけに風に押されて風鈴はころころと転がっていった。
豪雨と雷の中、誰も風鈴を取りに行こうとはしない。
コロコロ、コロコロ、風鈴はしばらくすると見えないところまで転がっていき、ようやく草むらに入って止まった。
風鈴はそこで人々の記憶の中から消えてしまった。かつて休憩所にあったことも、その涼やかな音も。


雨が上がった。
ホッとしたような雰囲気が漂い、旅人たちは各々それぞれの方向に歩き始めた。

しばらくして雨を避けていたセミは休憩所が見えて、人々の会話が聞こえるいつものところまで戻って
いつもと同じように鳴き始めた。
以前と同じように来る日も来る日も。

しかし何かが前とは違っていた。風鈴を褒める声が聞こえない。セミの目にも風鈴は見えなかった。
セミは少し寂しかった。
やがて多くのセミが生まれ死んでいく季節も終わりを告げようとしていた。
ずっと鳴き続けてきたセミもとうとう声が小さくなってきた。
チチチ、チチ、懸命に鳴こうとしてももう体がいうことをきかなくなっている。
「あと少し、、、」意識が遠くなりそうな瞬間、「あっ、セミの声。すごい今まで鳴いていたんだ。頑張ったね」
小さな女の子の声が耳に入った。その声をセミは木から落ちながら聞いたような気がした。


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