パンセ(みたいなものを目指して)

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メルヘン 目の見えたモグラ

2007年06月13日 20時18分15秒 | 創作したもの
 昨日に引き続いて若い時に作ったものを!
             
  目の見えたモグラ
        
 ある時、ある所で、目の見えるモグラが生まれた。目の見えるモグラは、両親のもとで大切に育てられ、幾年かが過ぎた。
その間、目の見えるモグラは、近所の普通のモグラからは、
「かたわものやーい、かたわものやーい。」
 と、いつもいじめられた。
 そんなある日、目の見えるモグラは、ある決心をして両親にいった。
「お父さん、お母さん、僕は今日『太陽』というものを見に行きます。」
 すると、お母さんのモグラは
「なんてことをおいいだね、この子はそんなものを見たらお前は死んでしまうに決まってるよ。
 いったい、お前は何が不満だというのかね。ともだちがお前の悪口をいうのかい。それなら私が守ってあげるよ。
 だからね、お前、そんなばかな考えは、もうよしておくれ。」
 と、涙を出しながら訴えた。
「お母さん、そんなに心配しないで、僕が居なっくたって弟や妹がいるじゃないか。それにね、僕は何も不満だからこんなことをしたいんじゃないんだ。ここはすごくいい所だよ。お母さんもいて、何もしなくても暮らしていけて、でもね、もし不満があるとすれば、実はそう言うことに対してなんだ。僕の目は見えるけど見えるということを少しも活用していない。ただ、普通に目の見えないモグラと同じ生活をしている。それで、僕は考えたんだ。何故、僕の目が見えるように生まれたのかってね。その結果、目が見えるってことは、何かを見なくっちゃいけないんだって事に気がついたんだ。そこで、僕は、僕に悪口を言ったりする友だちを見たんだ。すると、今まで強そうに見えた彼等は、実はすごく悲しそうに見えたんだ。そして、僕は感じたんだ。彼等も目が見えるようになりたいんだろうって。でも、いったい何が見たいのだろう。土の中のみんなの顔、それとも毎日の食べ物、、、そうやって考えているうちに僕はわかったんだ。『太陽』を見てみたいってね。ほら、あのなんとか言う草が言ってたじゃないか『太陽ってものは、あんた達には鬼のようなものかも知れないけど、そりゃーすばらしいものだ。』って『ある時は、赤く、ある時は黄色く光り輝いてすばらしいって』って
 僕はね、お母さん、どう考えても草に優しい太陽が、僕達に冷たいなんて考えられないんだ。僕達にも、もしかしたら優しんじゃないかって気がするんだ。
 それにね、仮に、又どこかで目の見えるモグラが生まれたら、、彼は又同じように思うんじゃないかって気がしてならないんだ。
 とにかく、何故だか解らないけど、目の見えるモグラは、太陽を見なくっちゃいけないって気がしてならないんだ。
 大丈夫、心配するなよ、お母さん、僕は死にやしないよ。絶対戻ってくるよ。」
 そういって目の見えるモグラは、よく晴れた日の昼頃、地上にもっこりと体を出した
 モグラは自分の真上から、ゆっくりと自分をあたためている優しいものを見上げた。
 目の中に眩しい光が一瞬入った。光が丸い形から四方八方に、公平に拡がっていた。
 するとすぐに、目に痛みを覚えて、モグラの目は見えなくなってしまった。
 モグラは呟いた。
「僕は盲になりに来たんじゃない。僕は今目が見えなくなってしまったけれど確かに見たんだ。あの四方八方に、どこの方向にも、何に対しても公平に光を発している太陽を。僕は目の見えなくなることでみんなと同じになったんじゃない、反対だ。今まで以上に、目が見えるようになったんだ。そして、自分がどうして目が見えるように生まれ、何故、太陽を見なければならなかったかって事もわかったんだ。」
 そしてモグラは、再び土の下の世界に戻って行った。
 それから、目のみえたモグラは、自分の見た太陽について、ほかのモグラたちに述べ始めた。
 どこにも公平で、美しく光を与える太陽の事を。
 やがて、彼が見た太陽は、目の見えないモグラたちの中にも続々と見えるようになった。
 それから、また数年すると、目のみえたモグラは死んだ。 
そのモグラの墓標には、目は見えなかったが、いまでは物事がすっかり見えるようになったほかのモグラたちの手で、「愛を説いたモグラ、ここに眠る。」
と、しっかりとした、モグラの字が刻んであった。

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