パンセ(みたいなものを目指して)

好きなものはモーツァルト、ブルックナーとポール・マッカートニー、ヘッセ、サッカー。あとは面倒くさいことを考えること

メルヘン「イルカのエリア」

2015年11月07日 09時02分14秒 | 創作したもの

昔、手がけて完成できなくて、そのままになっているメルヘン
どうやらまとまったものとして完成できそうにない
しかし、少しもったいないので、未完のままこっそりとアップしよう

相変わらず時代背景も場所もいはっきりしないが、読んだ人はどんなイメージを
自分のなかに思い浮かべるか、、(自分のイメージと同じか?)

イルカのエリア(メルヘン)

イルカのエリアはいつもと同じように思いっきりジャンプしてみた。

そして、いつもの様にななめになった視界にアレを見た。

ジャンプするとアレは少しだけ余分に見える。でも、それは一瞬だけ、ザブーンと大きな音をたてて再び水面に顔を出した時、アレはしっかりと大地に根をはやしているように見えた。

昨日より少し進んでいるようだ。エリアは丘の上に出来上がりつつある大きなアレを今度は大きく背伸びして眺めた。

空はここ数日ずっと晴れていた。今日も太陽は真上から照りつけ、丘の手前に茂ったオリーブの木は、時々、風に揺れカサカサと乾いた音をたてた。

それにしても、、、、エリアはいつもの様に考え込んでしまった。

エリアには人間たちが今取り組んでいるアレがなんであるかが解らなかった。これまでにも人間たちのする事はよくわからなかったが、今まではなんとか想像ができたり、どこか納得できるような気持ちになれたのだった。ところが今度のアレは全然違う。それが何であるか、と云うより、何故アレを皆で作っているのかが全く解らなかった。エリアの知っている人間はあんな事をするようにはとても思えなかった。今彼等のしている作業がとつもなく大変であることがエリアの目からも想像がついた。半端な事ではない事は、エリアが時々眼にした葬式のシーンの多さが物語っている。きっと彼等はアレを造っている間に何か事故にあってその命を失ったに違いない。それに遠めから見てもその作業は体力的にもかなりの負担を強いているのが解った。にもかかわらず、歳のいった連中としか見えない人々もいた。彼等は、本当は足手まといの様だ。しかし、何故かそれを解った上でそのままにしている。

エリアは、海中に潜って熱くなってしまった体を冷そうとした。が、先ほどのアレが気になって仕方なかった。

何故人間たちはアレを造っているのだろう。しかも、あんなに大勢で。

エリアの知っている人間たちときたら喧嘩ばかりしているか、自分の事しか考えない連中で、人間は自分達イルカとは違って平和に暮らす事ができない生き物だと思っていた。時には、船に乗った若い女や子供が我々を見つけては優しそうに接してくるが、それも、自分の思うようにならないと急に我々を脅かしたりする。そんな人間たちが何故かいつもの人間ではないように思える。みんなが協力して作業している。笑い声さえ聞こえてきそうな気がした。

 

 

エリアは最近いつも同じ1日を過ごす。いつもと同じ場所でしっかりお腹をふくらませた後は、仲間と分かれてアレが見えるところに近寄ってじっと見ている。なにもしないで見ているだけ。それは前の日と少しも変わりないように見える。しかしエリアは少しも退屈はしなかった。でもこの調子では自分の生きている間には出来上がった姿は見ることができないかもしれない、それが少し残念な気がした。

 

その時だった、どこからか、もの凄い音が聞こえて急に体のバランスが取れなくなってしまった。体が海中に引き込まれ右に左に揺れ始めた。そのうちに海底の砂が巻き上げられて海中は薄暗くなり、全然視界が利かなくなった。エリアはとにかく海上に出ようと試みてみた。しかし、どういう訳か全然体が思うように動かない。それどころか、自分の体というのにまるで固まった棒のようにしか感じられない。どんどんと海中に引き込まれていく。波は信じられないくらいの高さまで上がり、ますますその高さは高くなるように思えた。その時になってエリアは初めて恐怖を感じた。こんな事は初めてだ。今は上も下も解らない。体の自由が効かない。それに薄暗くて目の前が何も見えない。必死になって生き延びるためのことだけを考える。思いつくいろんな試みを試してみる。仲間が今どんな状態か確かめる余裕はない。いつまで続くのだろう、今はまだ体に力が残っているが、長く続いて疲れが出てきてしまったら。エリアは頭に浮かぶ不安な思いを無理やり打ち消すように今のことだけを考えた。
 

どうにかまだ呼吸は余裕があるようだ。パニックになった時は少し焦ってしまったが冷静になってみると先ほどからたいして時間は経過していない。エリアはそのまま体を勢いに任せてみた。すると、始めはでたらめに思えた体を引きずり込むような動きも、短い間隔のサイクルで変化しており、タイミングを見計らって海上にでて呼吸する事ができる様になった。すると、同じようにほかのイルカたちも大きな声を出しながら海上に顔を出しにきていた。彼等は、興奮ぎみに話していた。「長年生きてきたがこんなのは初めてだ。」「子どもたちは大丈夫かしら」「これからどうなるんだろう」そんな時落ち着いた声が聞こえた。「みんな慌ててはならんぞ。とにかく慌てない事じゃ」いつもと違って長老の話にじっくりと耳を傾けている。少し落ち着けたような気がしたが、それでも先ほどの衝撃を思い出すとつい恐怖心を覚えるのだった。

一体どのくらいが経ったのだろう。一週間、それとも一ヶ月。エリアは自分の意志とは関係なく流されるようにいろんなところを彷徨った。原型どころか痕跡すら見せない破壊された村や平原だけがあちこちで見えた。太陽は以前と同じように真上から照りつけているが、人っ子一人見えない。

エリアは思い出したようにアレが見える場所に向かった。ようやく波はいつもの高さに落ち着き、海水の色もまた同じ深い碧に戻っている。太陽は少し西に傾いている。エリアは丘の上を見上げた。だがそこには在るべきものは見えなかった。大きくジャンプしてみたが視界には何も入らない。この間までは大きな存在感のある建造物があったのに、下から見上げるこの角度では一体なにがどうなっているのか全然解らない。何度大きくジャンプしても目に入る風景変わらない。丘の上には何もない。エリアは認めたくはないがあの建物たちは倒壊してしまったのだろうと考えた。

あんなに必死に建ててきたのに、こんな事になるなんて。エリアは、少しだけ人間たちが可愛そうに思えてきた。どんなに希望を持って事を行っても、先の事なんて誰も解らない。生きているうちにする事なんて膨大な時間の中からすれば何の意味も持ち得ない。エリアは沈みがちになる気分の中で、そんな風に考えた。エリアはあの壮大な建物に、どんな意味と目的が在ってみんなで造ろうとしているかは解らないが、無意識の内に期待していたにかも知れない。なにかが、自分の中で変わるかも知れない。アレが、自分に勇気や希望を与えてくれるかも知れない。しかし、やはりもう駄目だ、何もかも破壊されてしまった。エリアは水平線に赤い太陽が沈むのをチラッと見て海中に潜りどんどんと岸から離れていった。

 

いくつもの季節がやって来て幾つもの季節が過ぎていった。いつの間にか出会うイルカが自分より年下になっていた。自分のことを振り返っても許される年令になった。エリアは自分の見てきたもの、感じたこと、そして生きていく上で困難に直面した時にどのように立ち向かったかを若いイルカたちに話した。だが言葉は若いイルカ達の耳を通り過ぎるだけの様に思われた。しかしエリアは気にかけず繰り返し繰り返し話し続けた。それは自分への言葉でもあった。

エリアはアレの事はすっかり忘れてしまっていた。悲しすぎる記憶は無理やり思い出さないようにしていた。そのうち、そんなことがあったということすら忘れてしまっていた。だから、断崖の近くに近寄る事もなく、毎日沖の仲間がいっぱい居る所でも過ごしていた。

そんなある日、エリアは不意に仲間のイルカが話す気になる噂を耳にした。どうも人間たちは訳の解らないものを造っているらしい。それもなんだか必死で、その目的は解らないが人間たちにとっては極めて大事なものらしい。エリアは急に懐かしい想い、憧れ、確かに若いあの一時期持っていた感情を呼び起こさされた気がした。そして大急ぎで岸に向かって泳ぎ始めた。アレを、造っている、人間たちはまた、アレを造っている。エリアは、自分の心が高揚してくるのを感じた。何故かは解らないが、エリアにとってもアレは大事なものの様に思えた。アレができれば、自分も変わるかもしれないと思ったアレは、アレは。

エリアは、昔よくきた場所まで泳ぎつくと思いっきりジャンプをしてみた。すると、水面からでは見えなかったアレのようなものが丘の上に建てられつつあった。今見たばかりの建造物は、以前よりももっと大きそうに見えた。前のものよりもっと丈夫に、まだ未完成だが観るものに畏敬の念を呼び起こしてしまいそうだった。今は丘の上に多くの人間たちが居る、女の連中も見える、子供すら見えたようだ。エリアは何度もジャンプを繰り返し人間たちの姿を眺めていた。

それから、エリアは毎日その場所に来て、日がくれるまで飽きもせずに、その進み具合を眺めていた。ほとんど昨日と同じ様子でもエリアは全然気にならなかった。早く出来てほしい、と思う反面ずっとこのまま造り続けていてほしいとも思うのだった。(おわり)

                                           
自分勝手になっているところが多いので、全体的な手直しは必要だが
ブルックナーの初稿みたいなもので、荒々しい直截な力も捨てがたいし、、
それに、何よりも力量がないから仕方ない
生きてるうちに機会があったらより洗練されたものに、、、できるかな

ところで、このメルヘンのきっかけは西脇順三郎のambarvalia
ギリシア的抒情詩から「皿」と題された詩

黄色い董が咲く頃の昔、
海豚は天にも海にも頭をもたげ、
尖つた船に花が飾られ
ディオニソスは夢みつゝ航海する
模様のある皿の中で顔を洗つて
宝石商人と一緒に地中海を渡つた
その少年の名は忘れられた。
麓(うららか)な忘却の朝。

(いいなあ~) 

何の関係もなさそうだが、インスパイアされたのは間違いない
ところで、拙い他のメルヘンのきっかけは
「春の夢」はトーマス・マンのトニオ・クレーゲル
「目が見えたモグラ」はH・Gウェルズの「盲人の国」
そして「セミと風鈴」は かもめのジョナサン


 

 

 

 

 

 

 


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 「法の上では、、、」誤進入... | トップ | 新城市庁舎建設見直しについ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

創作したもの」カテゴリの最新記事