これは私たちの先生の一人数学者のT先生から、大学院の数理物理学の授業で聞いたこぼれ話である。
T先生は相対論の数学を専門とする数学者であったが、8月6日にはたまたま所用で広島市にはいなかったので、原爆を被爆することからはまぬかれた。だが、先生の親族の多くは原爆を被爆して亡くなった。
これは後年彼がアメリカのテクサス州であった、一般相対論の国際会議に招待されたときのことであるが、そのときのはまだ健在であった原爆の父といわれたオッペンハイマーも出席していたという。
帰って来られたときに、「オッペンハイマーも来ていたが、親族の多くが原爆でやられたので、一発食らわしてやりたかった」と半ば冗談、半ば本気で話しておられた。もちろん、オッペンハイマーが優れた学者であることは間違いがないのだけれどと付け加えるのは忘れなかったが。
このとき国際会議にはじめ出席できないと一度は断ったらしい。旅費を出すから出席しないかと再度言われて引っ込みがつかなくなり、彼は重力崩壊(gravitatinonal collapse)の講演をしたのだと言われていた。
Before collapsing myself, I will stop my talk・・・とかいって話を終わったのだと話されていた。これはもちろん重力で星が崩壊するということに引っ掛けたジョークであろうか。
このT先生から私の先生の一人、S先生が原爆に会われたことを知った。このS先生は運のいいことにちょうど塀によって原爆の熱線の直撃を受けずにすみ、80歳過ぎまで生きられた。
S先生は物理学者だったが、私の大学院生のころはもう物理よりは原爆禁止運動の方に熱心であった。