C.N. Yangは1922年の生まれというからもう今年には90歳になるが、最近、物理の歴史についての論文を書いた。それがInternational Journal of Modern Physics Aの最近号に出ている。これはFermiのベータ崩壊の理論について書いたものでとても面白かった。
Yangは1970年代のあるときにWignerにあって、「Fermiの一番優れた仕事(研究)は何か」と尋ねたら、即座にそれはベータ崩壊の理論だとWignerから言われた。
Yangはベータ崩壊の理論がFermiの重要な業績であることには同意したが、それでもその頃にはすでにGlashow-Salam-Weinbergの電弱理論で、Fermiのベータ崩壊の理論は今から見ると過渡的な理論であったことがわかったので、Wignerの意見には心底からは同意できなかったらしい。
それでそういうことを趣旨のことをWignerに言った。そうすると、そのときにWignerはこのFermiのベータ崩壊の理論は当時の物理学者たちに与えた衝撃の大きさを語った。
それでこの感覚のジネレーション・ギャップを埋める話をこの論文に書いている。そしてやはりWignerのいうことが正しかったという。
そのYangの言い分を正しくわかってもらうには彼の論文を読んでもらうのがよい。ここで私が下手な要約をするよりは。
さらに、それに加えてYangらしさがこの論文の末尾に出ている。それはP. Jordanの業績の評価である。Jordanは量子力学に重要な寄与をしただけではなく、場の量子論にも重要な寄与をしたのに正当に評価されていないという。
現在ではJordanの評価が正しくなされなかったのはJordanがナチを政治的に支持したことによるものだということが言われており、このブログでもそのことがインタネットのサイトで言われているといつか述べたことがある。
科学者の政治的な立場はその業績の科学的評価にも及ぶ。しかし、Yangはそのことにはあまり賛成ではなく、評価をすべきは評価すべきだと考えたらしい。
他にもYangはOppenheimerのblack holeやneutron starの研究業績を評価していることやDysonが量子電気力学の研究でノーベル賞をもらえなかったことは、ノーベル賞は3人以内という内規があるとはいえ、残念だと他のところで述べている。