片山杜秀さんの文芸時評(朝日新聞2014.7.30)を見ていたら、バナールの著書『宇宙・肉体・悪魔』のことが一部紹介されていた。
バナール(Bernal)はイギリス人の結晶物理学者であるが、彼は科学史家としての著書の方がよく知られている。
その主著『歴史における科学』(みすず書房)は私ももっている。もっともあまり詳しく読んだことがないのだが。
そのバナールが若いときに書いた幻の書として『宇宙・肉体・悪魔』がある。一度この書は翻訳されて出版されたらしいが、私などは一度もお目にかかったことがない。
以下は片山さんの簡単な紹介を引用する。
1929年、バナールは著書『宇宙・肉体・悪魔』で、人類の未来を思い描いた。科学は進歩し、知識は増大し続ける。人間の寿命では勉強が追いつかなくなる。どうするか。人間を脳だけにし、血液に相当する培養液の海に漬ける。さらに、無数の脳を電気的に連結して群体化し、思考や意識を共有する。脳だけになれば、身軽になって老化が遅れ、長生きできそうだ。個々の脳が死んでも、その思考や意識は群体脳のどこかに転写できるから、不老不死も同然。人類の叡智の蓄積は無限に続く。(引用おわり)
上の文章は上田岳弘の『惑星』という小説の導入のための記述であるが、はじめてバナールの未来予測の一部を知った。
もっとも脳だけで人間が生きていることになるのかという素朴な疑問がわく。多分脳だけでは人間が生きていることにはなるまい。
それに「科学は進歩し、知識は増大し続ける」ことは多分まちがいがないが、いつでも知識習得のショートパスを人間は見つけてなんとかするであろうから、心配には及ばないという気がする。
そうはいうものの数学などでは大学院の2年くらいまでは研究をすることはできないとかいわれている。もっともどこにも秀才や天才はいるもので、小さいころから高等な数学だって学ぶ人もいる。
物理学だって場の量子論をきちんと学ぶにはやはり大学院の2年くらいまで普通の人にはかかる。もっともこの分野だって優秀な人は学部段階でマスターする人だっているだろう。
それにテキストも要領よくなっている。しかし、それでもやはり場の量子論を学ぶには時間がかかると言われており、演習形式で学ぶ場の量子論のテキストが柏太郎さん(元愛媛大学理学部)によって書かれている。
(2020.9.10の注)最近、上記のバナール『宇宙・肉体・悪魔』は再刊されたようだが、まだ私は購入していない。