私の知人で数学塾をしている人がおられ、数学がよくわかるようになった、子どもはもう来なくてもいいと断ったという人がおられる。
自分にもう教えられることはないし、生徒が自分でできるようになったからという理由である。しかし、その場はなかなか塾として勉強の雰囲気があるので、来させてくれと親御さんに頼みこまれたという。
そういう塾を数学者の遠山啓が生前したことがある。夏休みだったかに塾の生徒を募集したが、入塾のときに面接があって、数学がわかっている生徒には入塾をお断りしたというからふるっている。
なんでも、試験はいい成績でないと学校には入れてくれないのが普通である。これは東京大学を目指す生徒を受け入れている、駿台予備校のようなところもそうである。
たとえばの話だが、テニススクールを開いて、「普通にストロークを打てたり、ボレーができたりする、生徒はスクールの入学をお断りします」なんてテニススクールなど聞いたことがない。
先生が自分で教えられないことは、もう生徒が自分で一人で学ぶことができるのだから、塾に来る必要はないというのはいかにも良心的な先生である。
なんでも生徒が来て、その月謝が入れば、もっとハッピーだという風には考えていないところがおもしろかった。この方は小学校の教員を長年されていた方であるが、小学校で塾に来た生徒が中学生になり、高校生になったときにやはり頼まれてそれらの生徒を続いて面倒をみるという体験をされた。
そして、それを愛媛県数学教育協議会の機関誌「研究と実践」にその様子を連載された。小学校の先生があまり自分に得意ではない高校数学まで自分なりの理解をしていくという体験を読ませてもらえるのは興味深い。