幼児のころは朝鮮に住んでいた。今でいうと韓国でプーサンに近いチネというところである(注1)。
そのころ家には風呂はなく、銭湯に行くのが普通だった。そして風呂に入ると体にあつい熱というかある種の痛みというかがしみ込んでくる体験をした。
今から考えるとこれが私の熱の伝わる現象を意識的に体験した初めだったと思う。でもその頃には熱とかいうことを知っているわけではないから、お風呂に入るとしばらく皮膚が痛いと思っていた。じりじりと音がするわけではないが、音がするような感覚をもっている。
これは熱の伝達のしかたで言えば、熱伝導である。中学校の理科で学ぶように熱の伝達のしかたには接触したものの間にその温度差に応じた熱が伝わる、これが熱「伝導」である。
熱の伝わり方は何もない空間をわたって電磁波(赤外線)として伝わる「熱輻射」もあるし、また風呂のお湯が沸くという現象のような「対流」もある。
よく晴れた冬の日の夜に気温が下がるという現象が起こるが、これは地球やその周りの空気が持つ熱が地球の周りの空間に放射で熱を放出するから、晴れた日の夜などは放射冷却が起こるのである。
もしか空が曇っていたりすると、地球とかその周りの空気のもつ熱の放射が雲にさえぎられて減り方が少なくなる。
最近話題の気候変動だと地球のまわりに炭酸ガスが地球の大気上層に多くなり、熱が地球から放射されにくくなって、それで地球全体の平均気温が2度以上も上がることが予想されている。これは炭酸ガスによるある種の保温効果といっていいであろう。
これは地球のもつ熱の放射による熱の減少を防ぐためである。一般に熱の減少を防ぐというといいことのように思われるが、地球は太陽から四六時中、光による熱を受けている。その熱の供給と放射によるバランスが大切なのである。
私の友人のTさんは地球の上空に薄いアルミかニッケルかなにかの金属の広い薄膜を赤道上に打ち上げてそれを移動させることによって、それで地球に来る太陽の光を反射させて、結果として地球への熱の流入を防ぐという卓抜なアイディアを出しているが、こんなアイディアが技術的にも経済的にも可能なのかは誰にも今のところ分からない(注2)。
(注1)チネ(鎮海)は桜の名所として有名なところである。春の桜の季節には100万のオーダーの観光客が訪れるという。私の幼少のころにもそれで有名であったが、現在の方がもっと有名になっているらしい。
(注2)このアイディアは「数学・物理通信」に発表されている。「数学・物理通信」はインターネットで検索できる「はず」である。