体は数の演算のしたがう法則を抽象化したものであり、べクトル空間の公理は平面上のべクトルとか空間内のベクトルのしたがう法則を抽出したという。
ベクトルとしてn個の数の組を集めた数ベクトルがあるが、この数ベクトルの特殊な場合として、成分が1個しかない1次元ベクトルを考えると、これは普通の実数である。
そうすると、この場合には1次元のベクトルは普通の実数と同じなので、ベクトル空間として普通の実数を考えることができる。
ということでこの場合には実数における体の公理とベクトル空間の公理が一致するであろう。
また、複素数とか四元数もベクトルの公理を満たすらしいので、これらもベクトル空間とみなすことができるだろう。そういうことをぜひ小著『四元数の発見』にも書いておくべきだったと今にして思う。
少なくともポントリャーギンはそういうことを知っていて、彼の『数概念の拡張』(森北出版)の四元数の章をベクトル空間の話からはじめたのであろう。それもただのベクトル空間ではなくて、四元数は計量ベクトル空間をなすという、認識がはっきりあった。