ソーヤー『線型代数とは何か』の複素数のところを読んでいて、もちろん級数の収束の話が出てくる。
1+x+x^{2}+x^{3}+・・・=1/(1-x)
といったような式が出てくる。ー1<x<1のところで左辺の値は右辺の分数式の値と等しいが、この値をはずれると右辺と左辺の値が一致しなくなるということを示している。
こういうことは普通の数学の本では図を描いて示したりしないことなので、こういう実際との不一致を示すことでソーヤーの数学への姿勢を示していると感じた。
昨日書いたことも今日書いたことも線形代数とは関係ないことではあるが、数学のテクストを書くなら、こうでなければならないだろう。
もっともこういう書き方をすると自然とテクストのページ数が多くなるのでその辺から、こういうテクストの書き方は一般的にされないのであろう。
複素解析では解析接続という手法があることも一言だが、注意しておくべきだろう。これは本来の関数の定義域を広げる手法である。その手法にはいくつかあり、それについては金子晃さんの『関数論講義』(サイエンス社)を参照されるとよい。
(2023.2.25付記)
以前にこのブログでいつか書いたことだが、解析接続の手法をいくつか紹介してあるのが金子晃さんの『関数論講義』(サイエンス社)である。他には松田哲『複素関数』(岩波書店)が解析接続の手法のいくつかを説明しているのでよいと思っていた。二つを参照するとさらによいかもしれない。
私は複素関数のテクストについて一つの偏見をもっていて、一つは解析接続についていろいろな例を挙げている本であること、もう一つは分岐点の説明がわかりやすいことが大切だと思っている。
最近購入した石井俊全『大学の複素関数』(技術評論社)は解析接続を正則拡張という語で説明がしてあり、目新しかった。いろいろな手法を説明してくれるともっとよかったのだが、残念である。またこの本にはリーマン面の説明はあるのに、分岐点のあからさまな説明がないのはどうしてなのか。
また、分岐点については「数学・物理通信」9巻1号の投稿された「分岐点の定義(新版)」を読むといい。「数学・物理通信」でインターネット検索すると出てくるはずである。