【元日経新聞記者】宮崎信行の国会傍聴記

政治ジャーナリスト宮崎信行、50代はドンドン書いていきます。

◎ねらいは農協はずしの「農民分権」だった!篠原孝さん 長野1区

2008年09月20日 11時30分00秒 | 農業

 民主党の「農業者戸別所得補償」の真の狙いが、国→農業者(農家、農民)へお金が流れていくプロセスから農協(JA、全農、農業協同組合)を外して、農業者の自由を高める”農民分権”だということが初めて明らかになりました。

 戸別所得補償(直接支払い)制度の日本での発案者である篠原孝前ネクスト農相が長野市内で当ブログの取材に答えましました。

 これまで戸別所得補償について自民党は「バラマキだ」という批判を繰り返してきましたが、農業予算の一部、1兆円を組み替えて、国→自治体→農業者というスムーズなお金の流れをつくることで、農協・JAバンクの影響力が低下することを自民党が恐れて批判を繰り返していた実態が浮き彫りになりました。

 自民党農政は、

 国→県→市町村→農協→農業者
        ↓
         →農業土木者

 という風にお金を流していますが、

 民主党農政では、

 国→県→市町村→農業者 →農協
              ↓
               →農業土木者


 という流れに変わります。農業者主権の農政に変わることは一目瞭然です。

 
 篠原孝しのはら・たかし) 1948年長野県中野市生まれ。京大法学部卒業、73年(昭和48年)農林省入り。91年~94年、フランス・パリにある経済協力開発機構(OECD)内の日本政府代表部に勤め、直接支払い(戸別所得補償)に出会い、日本での導入を決意。2000年、農林水産政策研究所長。農水省を退職し、民主党長野1区総支部長。2003年衆院議員初当選、現在2期目。2006年9月から1年間、「次の内閣」
ネクスト農相を務め、第21回参院選(逆転の夏)での一人区の圧勝を政策面で支えた。

 それでは、篠原前ネクスト農相に聞いた話を再現します。篠原さんの発言の部分は緑色に塗ります。

(質問)農業者戸別所得補償制度は篠原さんの発案だとされていますが?

 「私が考えた訳じゃなくて、OECD(経済協力開発機構)の経済学者たちが考えてやり出したんです。欧州ではとっくの昔からやっていますそれを日本にも導入した方がいいんじゃないかと言ったのは私です

 農業者戸別所得補償制度は先進国クラブといわれるOECD加盟国の中で、「いまだに導入していないのは日本だけです

 欧州(EU)が雪崩を打って農業者戸別所得補償を取り入れたのはWTO(世界貿易機関)の交渉(ウルグアイ・ラウンド)の必要性からだったそうです。

 「国の農林水産予算の3兆円のうちの1兆円を捻出して農業者戸別所得補償に回しましょう。だから農林水産予算の中で財源はあるんです。
 お金の流れを変えるんです。そのときに、(現状は)農家に補助金と言っても、

 農家のところになんか全然入っていない

 途中の農協、土建屋、資材会社に行っている

 それを農家に直接行くようにして、農家が基盤整備に使っても良いし、田んぼからぶどうに(転作)するのに使っても良い」


 さらに言えば、「もう農業はやめた!」と言って遊んじゃってもいいそうです。もちろん農業をやめたわけですから、翌年以降はもらえないでしょうが、新生活の足しにしてもいいというわけです。

 民主党提出の農業者戸別所得補償法案は第168臨時国会で参院可決、第169通常国会で衆院で否決・廃案となりました。

 私がこの法案を読んで、気付いた“あること”を篠原さんに直接ぶつけてみました。

 (質問)「農業者戸別所得補償法案のなかには、農協という文字が一つもでてきません。なぜですか?」

 「それは中間のところを省いて、農家に直接(お金が)行くようにしますから

農協なんかまったく関係ない

 (質問)「(農協を)外すということですか?」

 「ええ。でも農協にもメリットがあるんですよ。農家が何に使ったっていいんですから。

 農家の自由なんですから。農協からどんどん資材を買ったっていいんです。何に使ったっていいんです


 「それが、これまでの補助金は、ふたがはめられて、『これじゃないと使っちゃいけない』という補助金だった

 「地方分権ならぬ農民分権だと考えています

 
[JA全農長野の看板前で、堂々と農民分権を訴える篠原孝さん]

 生産額と販売価格の差を補償する「農業者戸別所得補償制度」は、原油高による資材高にも自動的に対応できるしくみですが、篠原さんは「さすがに今年の原油高には、別途の追加的な財政出動が必要だ」との認識を示しました。

[追記2009-8-10]
 こちらもごらん下さい。
 ↓
解説動画)農業者戸別所得補償のしくみ 発案者の篠原孝・前ネクスト農相
[追記おわり]

【都会育ちにも分かりやすいTVドキュメントの感想を記したエントリー2本です】

 偽りの豊饒(2008年9月20日)
 NHKスペシャル「ライスショック」に大ショック!!(2007年10月14日)

【「農業者戸別所得補償」関連エントリーのご紹介です】

衆院本会議、農業者戸別所得補償法案を否決、廃案に(2008年5月9日)
衆院農水委、農業者戸別所得補償法案を否決、廃案(5月8日)
農業者戸別所得補償法がなんとか継続審議に 衆院農水委(2008年1月13日)
【衆院農水委】農業者戸別所得補償法案で与野党質問(2007年12月20日)
衆院の委員会でも「農業者戸別所得補償法案」が審議入り(12月5日)
【国会傍聴記】民主党の「農業者戸別所得補償法」参院可決 衆院で「品目横断」と激突へ(11月9日)
【国会傍聴記】農業者戸別所得補償法案が参院農水委で審議入り(10月30日)
政権交代へついに切り札登場! 民主党、農業者戸別所得補償法案を参院に提出(10月18日)
◎民主党、「農業者戸別所得補償法案」(仮称)を参院に提出へ(2007年9月22日)


偽りの豊饒

2008年09月20日 03時30分00秒 | 農業
 山形県の「さくらんぼテレビジョン」がつくった「偽りの豊饒~コメ農家に迫る廃業の危機」という映像ドキュメンタリーが、フジテレビジョンの「第17回FNSドキュメンタリー大賞」に選ばれたようで、7月の土曜日の深夜3時半というえらく深い時間に放送されました。

 大変よくできたドキュメンタリーで、農業経験がない私にも現代の農業者(農家、農民)がかかえる苦労を目で感じることができました。

 録画していた番組内容から、私が驚いた部分をご紹介します。

 登場人物は日本有数の米所、山形県鶴岡市の高橋さんです。



 農業だけでくらしていくのが苦しいという高橋さん。

 カメラが写した高橋さんのJAバンク(農協金融)の通帳をみて我が目を疑いました。



 高橋さんの通帳は一番上の残高が「マイナス1,866,812円」となっています。これをみると、これは総合通帳で、定期預金を担保に普通預金残高の不足分を融資されているのかと思いますが、違うようです。


 高橋さんが「営農口座はマイナス300万円まで下ろせる」と言うようにJAバンクでは農業者向けに「営農ローン」という商品をほとんどの単位農協が持っていて、無担保で農業者に貸し付けているのです。


 「俺の通帳はマイナス280万円」と語る高橋さん、ピンチですね。


 高橋さんは農閑期は東京に出て、タクシー運転手として働いています。


 まじめな高橋さんは、短期間とはいえ良い歩合を得ているようです。生活の足しだけでなく、営農ローンの返済も早く進むといいですね。


 廃業に追い込まれた農業者は「自分の子どもにも農業をやれとは言えない時代」。私には農業者はJA全農・農協=農業協同組合グループの“奴隷“のように思えるのですが。農地解放前の小作人さんもこんな感じだったんではないでしょうか?


 地方局の勇気ある告発。フジはもっと視聴率の高い時間に放送してほしかったです。
 大変考えさせられました。



         ◇

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