【元日経新聞記者】宮崎信行の国会傍聴記

政治ジャーナリスト宮崎信行、50代はドンドン書いていきます。

第174通常国会が閉会

2010年06月16日 23時59分59秒 | 第174常会(2010年1~6月)空転政治主導

[写真]第174通常国会最終日に内閣不信任案否決で礼をする菅直人首相ら=衆院本会議場、東京新聞から

 第174通常国会が6月16日、閉会しました。召集日の1月18日から150日間ピッタリ、延長なしで終わりました。

 民主党政権になって初めての通常国会でしたが、政府提出法案の成立率は55・6%という極めて低い数字で、過去最低だったようです。

 衆議院の議案のホームページ(http://www.shugiin.go.jp/itdb_gian.nsf/html/gian/kaiji174.htm

 参議院の議案のホームページ
http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/gian/174/gian.htm

 非自民政権にとっては鬼門の当初予算は3月24日という早い時期に成立しました。しかし、後半国会で一般法案が難航しました。

 野党時代の民主党の税制チーム(古川元久さんら)が野党時代から取り組んできた「租税特別措置の適用状況の透明化に関する法律」は日切れ法案(予算関連法案)だったこともあり、3月24日に、あっさり成立しました。しかも野党・自民党も賛成しました。これにはビックリ。野党時代はのれんに腕押しだった法案が、与党になったら魔法のようにあっさりと成立しました。

 国直轄公共事業への地方自治体の負担金を廃止する法律も公約通り成立しました。まあ異常事態を正常化しただけという感じもしますが、自民党政権のドブさらいが進みました。改正独立行政法人通則法(第174回第21号議案)は、これから先、独法の預貯金や保有国債などの埋蔵金、たまり金をを召し上げる、国庫に返納させることが可能になる法律だと思います。今後、事業仕分けの成果をしっかりと目に見える実績にすることが、求められます。

 このように政権交代を感じさせる法律が成立しました。

 ところが、税収難から、野党・民主党のガソリン値下げ隊が2008年4月に25円程度の値下げに成功した揮発油税(ガソリン税)の暫定税率分の引き下げは失敗しました。

 このように与党になると、カンタンに成立する法案がある一方で、野党で実現したことが与党になると実現できない、というキミョー奇天烈な現象が起きました。なぜ、このような現象が起きたのでしょうか? その理由は、いまだに分からないのですが、政権交代の記録として、こうやってブログに書き残しておきます。

 もう一つ、おかしな現象がありました。

 2007年7月の第21回参院選(逆転の夏)の後に、野党・民主党が参院で通過させた最初の法案は「年金流用禁止法案」(筆頭発議者・蓮舫さん)でした。ところが、平成22年度予算では国民年金特別会計・厚生年金特別会計から1000億円以上の保険料が他会計に繰り出されています、つまり、“年金ファンド”のダムの底からの水漏れが続いています。衆院予算委員会で、自民党の大村秀章議員が衆院予算委員会で指摘し、厚労相の長妻昭さんが認めました。野党として参院可決に持っていった法案が、与党として組んだ最初の当初予算に反映されなかったのはおかしな話です。

 推測ですが、おそらく長妻さんら厚労省政務三役は忙殺されて“忘れていた”のではないでしょうか。このような政策のプランと実行のちぐはぐさは、政調(政策調査会)があれば、誰かが指摘したかもしれません。

 後半国会では、与党の政府外議員が自らの意見が政府に反映されないことを不満とし、農水委員会や国土交通委員会などで、閣法の審議を遅らせたり、骨抜きしようとする動きがみられました。官僚出身者が多いので、“骨抜き”の技術はお手の物です。これが法案成立率を下げた原因の一つです。

 第175臨時国会からは政策調査会(政調)ができますから、政調でドンドン意見を言って、決まればスッキリ従って、法案成立に努める全員野球に期待します。

 このほか、野党時代は福山哲郎さんが筆頭発議者となり、昨年、一昨年の通常国会に提出された「地球温暖化対策基本法案」が、閣法となり、第174回第52号議案として、衆院環境委員会、本会議を通過し、参院環境委員会に付託されたのに、審議未了で廃案となってしまいました。これは地球温暖化対策本部長として、野党時代の岡田克也さんも3年にわたり取り組んできたので残念です。答弁にあたった環境相の小沢鋭仁さんら環境省政務三役もさぞ残念がっていることでしょう。小沢大臣におかれましては、もうちょっとムダのない切れの良い答弁を、次の機会では、期待ところです。

 地域主権に関する3法案や、労働者派遣法改正案が廃案になったのは残念です。ただ、郵政改革法案(ゆうちょの預け入れ限度額を2000万円に引き上げ)や、独立行政法人地域医療機能推進機構法案(社保病院存続&独法新設)だとか、国家公務員法改正案(人事一元化)に関しては、私自身、あまり賛同できない部分がある法案だったので、廃案ということで、仕切り直ししてほしいと考えます。

 また、政務三役の定員を増やす、政治主導確立法案と国会法改正案は、またしても審議できずに終わりました。私は、これは、第172特別国会で処理しておくべき法案だったと思います。ちなみに議員提出である「国会法改正案」(筆頭発議者・小沢一郎氏)の中に、国家行政組織法の改正も盛り込むという法案で、これは私は大ざっぱな雑な法案だと考えます。臨時国会では、国会法改正案と行組法改正案に分けて提出すべきでしょう。

 前半国会では、子ども手当法案が成立しました。これは公明党からの修正を受け入れ、賛成を得たので、これまでの児童手当からこれからの子ども手当への継続性ができてよかったと思います。

 後半国会では、政権交代前からの積み残しだった「国連安保理決議1874にもとづく(北朝鮮特定船舶の)貨物検査に関する特措法」(閣法173回12号)が5月28日にようやく成立しました。

 それと、この国会の特徴として、自民党が衆院で、常任委員長を解任すべきとする決議案を連発しました。人事案件は本会議で優先議題になることから、戦術として取り入れたようです。提出順に、予算、議運委員長、衆議院議長、内閣、環境、総務、経産の各委員長の解任決議案が出ました。そして、口蹄疫に関して、赤松広隆農相(当時)の不信任決議案が採決されました。そして、一つの会期では同じ議案は2回審議しないとする「一事不再議」の原則に反して、2度目の議長不信任案がでましたが、「鳩山内閣不信任案」はついに出ずじまい。もったいぶっていて、タイミングを逃してしまい、会期末に組閣直後の菅内閣不信任案を提出し、否決されました。

 自民党にとって、これはまさに画竜点睛を欠いたミス。議長に2回不信任案を出したのに、首相への不信任案は1回も提出できずに退陣されてしまった。理由はどうであれ、マヌケです。

 自民党は前半国会から、「政治とカネ」の問題で、鳩山首相(当時)を「平成の脱税王」と呼んで激しく攻めましたが、小沢一郎氏についての質問は少ない印象を持ちました。これは、小沢氏が閣僚でないから答弁を引き出しづらいという理由はあるでしょうが、小鳩体制のまま参院選に臨んで欲しいという自民党の思惑が大きかったのでしょう。その結果、小沢氏の退場は6月まで持ち越されてしまいました。自民党がもっと攻めてくれれば、もっと早い時期に小沢氏が失脚し、国民も議員もストレスから解放されたのではないかという恨み節を言いたくもなります。

 二大政党の一翼を担う自民党に関して言えば、今通常国会を見ていて、「今まで知らなかったけど、この人が小泉チルドレンでもっとも鋭いな」と感じた自民党の赤沢亮正議員が、最終日の内閣不信任案の趣旨説明の演説に立ったので、自民党執行部も同じように考えていたのだなと感じました。赤沢議員は全国的にはほとんど知名度がないでしょうが、やはり国会審議をみていると、出世する議員は分かってくるし、小泉チルドレンでも外野で目立とうとした議員が振るい落とされていることを実感します。内閣不信任案の賛成討論に立ったのも、上でふれた大村秀章議員でした。よちよち歩きの政権政党である民主党は、野党・自民党の指摘をしっかりと受け止めた方が、与党・民主党の進む道も見えてくると思います。

 そういう意味では、野党・自民党は参院選を見越して、小沢氏を攻めなかったのと、内閣不信任案をもったいぶった打算が今国会での「攻め切れなさ」につながったのだと考えます。やはり、政権50年の実績を踏まえて、健全野党として、目先の国民生活の安定を考える施策を国会で打ち出していくことが、自民党の政権復帰、つまりは政権交代可能な二大政党デモクラシーの完成につながるのだ、と主張したいです。

 それにしても、政務三役は国会答弁に長時間拘束されていました。「政治主導」は国会での長時間拘束をもたらし、官邸・各府省で仕事をする時間がなくなってしまい、かえって官僚主導になってしまうのではないかと心配してしまいます。文科相の川端達夫さんは今国会で500回以上答弁に立っているようです。

 秋の臨時国会では、まず政務三役の増員が必要です。また、自民党も提案型の質問をしてほしいと思います。政策も大事ですが、「国会改革」など統治のしくみ・システムそのものを見直す斬新な発想が民主党政権に求められます。