国勢調査(Census)は明治維新によって、欧米からわが国に入った制度。元々、わが国は徳川家康の寺請制度や、中華文化圏に特徴的な戸籍制度があったので、ヨーロッパ大陸・北アメリカ大陸のようにセンサスをする必要は少なかったわけですが、殖産興業・富国強兵に向けた、国家のグランドデザインを描く上で、国民=人口をはじめとする「国勢」の調査・統計のために始まりました。2010年のように、10の倍数の年に本格調査、2005年など5年ごとにも調査するという、西暦でキリの良い年に実施するのがその名残で、欧米列強と「国勢」を比較するというのが根本の思想にあります。
わが国は、有色人種を中心とする国家の中で、はじめて成文憲法を持ち、議会を持った「国」というか「国家」ですから、国民としての矜持を保ちたいものです。
で、衆議院議員選挙区画定審議会が2011年3月1日開かれ、2010年国勢調査の速報値に基づき、衆議院の300小選挙区の区割りの改定案を作る作業をスタートしました。来年の2012年2月24日までに内閣総理大臣に「勧告」します。
どうして「2月24日まで」なのかなあ?と思ったら、審議会の設置法の4条に「国勢調査(統計法 (平成十九年法律第五十三号)第五条第二項 本文の規定により十年ごとに行われる国勢調査に限る。)の結果による人口が最初に官報で公示された日から一年以内に行うものとする 」とあるからなんですね。
[画像]平成23年2月25日付の官報の一部
ご覧のように、2010年2月25日付の官報に載っているから、2011年2月24日までということのようです。
[平成23年・2011年2月25日付官報から一部引用はじめ]
〇総務省告示第五十六号
平成二十二年国勢調査の人口速報集計による平成二十二年十月一日現在の全国の人口並びに都道府県別及び市区町村別の人口は、次のとおりである。
平成二十三年二月二十五日
総務大臣 片山善博
(後略)
[引用おわり]
別段、明治維新で取り入れた欧米のシステムが完璧なわけではなく、英国議会の昨年5月6日の総選挙を見ていても、やはり小選挙区割りは与党・現職有利に引き直されているように感じられます。英国では「境界委員会」が1944年に出来ていますが、今でも、恣意的な境界線の引き直しはあるようです。地盤を失う庶民院議員が党首(首相)らに頼んで、貴族院(領主院)に推挙されることもあるようです。あるいは、米国下院はそれ自体で政権を左右するわけではありませんが、以前ブッシュ父大統領の時代に、次の選挙で選挙区を失う下院議員が大統領に書簡を送って、農務長官になったという記事を読んだときには、日本での大臣と議員の関係でずいぶん違うもんだなあと感じました。
ですから、こういった審議会が「学識経験者という匿名性を帯びることによって、完全に中立公正になる」という迷信が日本にはあるように思えるのですが、それはむしろ、村松岐夫さんら7人の委員の名前を知って、見守るという姿勢が必要だと思います。もちろん圧力を加えるなどとんでもないことです。海部俊樹さんは、『海部俊樹回顧録 政治とカネ』の中で、最初の小選挙区の区割りについて、「総理である私さえ新しい区割りを知らない状態を保った」と中立性を担保したと書いています。で、その次の文章で、説得力を増そうと思って書いたんでしょうが、「(知っていたのは)石原信雄、大島理森両内閣官房副長官の2人だけである」と胸を張って書いています。が、大島理森さんは言うまでもなく、当時も今も衆議院議員です。大島さんが出ている選挙区は、1自治体=1選挙区というお金がかかりにくい選挙区になっていますが、それとの関連性はうがった見方、陰謀論の類ですから、置いておきます。ただ、100%の絶対中立公正はありえないということを言いたいのです。。
ようは、新しい選挙区割りが出来た時点で、国替え、院替え、差し替え、首長転出など自分のアタマで判断し、作戦とスケジュールを立てられる人が、どのような状況でも闘えるということです。それと運です。で、その能力は完全とはいえませんが、国家のグランドデザインを作れる能力とある程度比例してくると思います。その辺の事情を踏まえると、国会議員の振る舞いも見えてきますから、あまり「誰々グループ」とか「反誰々」だけで、書いているかのような新聞報道もどうかと思います。番記者制度での夜回りの回数を減らして、選挙区事情を支局に電話で聞いたりするような政治取材の見直しが必要です。別段、現職議員が自分の再選のために必死になるのは、まったく見苦しいことではないし、それどころか、当然かつ頼もしいことです。そういった事情が見えてくる、オープンになってくるというのも、小選挙区のメリットの一つだと考えています。
総務省|衆議院議員選挙区画定審議会|第5回衆議院議員選挙区画定審議会
第5回衆議院議員選挙区画定審議会
日時
平成23年3月1日(火)
場所
中央合同庁舎第4号館共用443会議室
議事要旨
・平成22年国勢調査人口(速報値)に基づく試算結果について事務局より報告後、質疑が行われた。
・平成12年国勢調査人口(速報値)公表後における衆議院議員選挙区画定審議会の開催状況について事務局より報告後、質疑が行われた。
総務省|衆議院議員選挙区画定審議会|衆議院議員選挙区画定審議会委員名簿
任期:平成16年4月11日~平成21年4月10日
平成21年4月11日~平成26年4月10日(再任)
氏名 職業等
稲葉 馨(いなば かおる) 東北大学大学院法学研究科教授
大石 眞(おおいし まこと) 京都大学大学院法学研究科教授
小田原 満知子(おだわら まちこ) 弁護士(元横浜家庭裁判所長)
早川 正(はやかわ まさのり) 元衆議院法制次長
眞柄 秀子(まがら ひでこ) 早稲田大学政治経済学部教授
会長 村松 岐夫(むらまつ みちお) 京都大学名誉教授
会長代理 吉田 弘正(よしだ ひろまさ) (財)自治総合センター会長
衆議院議員選挙区画定審議会設置法
(平成六年二月四日法律第三号)
最終改正:平成一九年五月二三日法律第五三号
(設置)
第一条 内閣府に、衆議院議員選挙区画定審議会(以下「審議会」という。)を置く。
(所掌事務)
第二条 審議会は、衆議院小選挙区選出議員の選挙区の改定に関し、調査審議し、必要があると認めるときは、その改定案を作成して内閣総理大臣に勧告するものとする。
(改定案の作成の基準)
第三条 前条の規定による改定案の作成は、各選挙区の人口の均衡を図り、各選挙区の人口(官報で公示された最近の国勢調査又はこれに準ずる全国的な人口調査の結果による人口をいう。以下同じ。)のうち、その最も多いものを最も少ないもので除して得た数が二以上とならないようにすることを基本とし、行政区画、地勢、交通等の事情を総合的に考慮して合理的に行わなければならない。
2 前項の改定案の作成に当たっては、各都道府県の区域内の衆議院小選挙区選出議員の選挙区の数は、一に、公職選挙法 (昭和二十五年法律第百号)第四条第一項 に規定する衆議院小選挙区選出議員の定数に相当する数から都道府県の数を控除した数を人口に比例して各都道府県に配当した数を加えた数とする。
(勧告の期限等)
第四条 第二条の規定による勧告は、国勢調査(統計法 (平成十九年法律第五十三号)第五条第二項 本文の規定により十年ごとに行われる国勢調査に限る。)の結果による人口が最初に官報で公示された日から一年以内に行うものとする。
2 前項の規定にかかわらず、審議会は、各選挙区の人口の著しい不均衡その他特別の事情があると認めるときは、第二条の規定による勧告を行うことができる。
(国会への報告)
第五条 内閣総理大臣は、審議会から第二条の規定による勧告を受けたときは、これを国会に報告するものとする。
(組織)
第六条 審議会は、委員七人をもって組織する。
2 委員は、国会議員以外の者であって、識見が高く、かつ、衆議院小選挙区選出議員の選挙区の改定に関し公正な判断をすることができるもののうちから、両議院の同意を得て、内閣総理大臣が任命する。
3 委員の任期が満了し、又は欠員を生じた場合において、国会の閉会又は衆議院の解散のために両議院の同意を得ることができないときは、内閣総理大臣は、前項の規定にかかわらず、同項に定める資格を有する者のうちから、委員を任命することができる。
4 前項の場合においては、任命後最初の国会で両議院の事後の承認を得なければならない。この場合において、両議院の事後の承認を得られないときは、内閣総理大臣は、直ちにその委員を罷免しなければならない。
5 委員の任期は、五年とする。ただし、補欠の委員の任期は、前任者の残任期間とする。
6 内閣総理大臣は、委員が心身の故障のため職務の執行ができないと認める場合又は委員に職務上の義務違反その他委員たるに適しない非行があると認める場合においては、両議院の同意を得て、これを罷免することができる。
7 委員は、職務上知ることのできた秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後も、同様とする。
8 委員は、非常勤とする。
(会長)
第七条 審議会に、会長を置き、委員の互選によりこれを定める。
2 会長は、会務を総理し、審議会を代表する。
3 会長に事故があるときは、あらかじめその指名する委員が、その職務を代理する。
(資料提出その他の協力)
第八条 審議会は、その所掌事務を遂行するため必要があると認めるときは、行政機関及び地方公共団体の長に対して、資料の提出、意見の開陳、説明その他の必要な協力を求めることができる。
(政令への委任)
第九条 この法律に定めるもののほか、審議会の組織及び運営その他この法律を実施するため必要な事項は、政令で定める。
附 則 抄
(施行期日)
第一条 この法律は、公職選挙法の一部を改正する法律の一部を改正する法律(平成六年法律第十号)の公布の日から施行する。
(所掌事務等の特例)
第二条 審議会は、第二条に規定する事務をつかさどるほか、公職選挙法の一部を改正する法律(平成六年法律第二号)による改正後の公職選挙法の規定の施行の準備のため衆議院小選挙区選出議員の選挙区の画定に関し、調査審議し、その画定案を作成して内閣総理大臣に勧告するものとする。
2 前項の規定による勧告は、委員が任命された日から六月以内に行うものとする。
3 第三条の規定は第一項の規定による画定案の作成について、第五条の規定は同項の規定による勧告があった場合について準用する。
附 則 (平成六年三月一一日法律第一一号)
この法律は、公布の日から施行する。
附 則 (平成一一年七月一六日法律第一〇二号) 抄
(施行期日)
第一条 この法律は、内閣法の一部を改正する法律(平成十一年法律第八十八号)の施行の日から施行する。ただし、次の各号に掲げる規定は、当該各号に定める日から施行する。
二 附則第十条第一項及び第五項、第十四条第三項、第二十三条、第二十八条並びに第三十条の規定 公布の日
(職員の身分引継ぎ)
第三条 この法律の施行の際現に従前の総理府、法務省、外務省、大蔵省、文部省、厚生省、農林水産省、通商産業省、運輸省、郵政省、労働省、建設省又は自治省(以下この条において「従前の府省」という。)の職員(国家行政組織法(昭和二十三年法律第百二十号)第八条の審議会等の会長又は委員長及び委員、中央防災会議の委員、日本工業標準調査会の会長及び委員並びに これらに類する者として政令で定めるものを除く。)である者は、別に辞令を発せられない限り、同一の勤務条件をもって、この法律の施行後の内閣府、総務省、法務省、外務省、財務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省若しくは環境省(以下この条において「新府省」という。)又はこれに置かれる部局若しくは機関のうち、この法律の施行の際現に当該職員が属する従前の府省又はこれに置かれる部局若しくは機関の相当の新府省又はこれに置かれる部局若しくは機関として政令で定めるものの相当の職員となるものとする。
(衆議院議員選挙区画定審議会設置法の一部改正に伴う経過措置)
第十二条 この法律の施行の際現に従前の総理府の衆議院議員選挙区画定審議会の委員である者は、この法律の施行の日に、第二十六条の規定による改正後の衆議院議員選挙区画定義会設置法(以下この条において「新選挙区画定審議会法」という。)第六条第二項の規定により、内閣府の衆議院議員選挙区画定審議会の委員として任命されたものとみなす。この場合において、その任命されたものとみなされる者の任期は、新選挙区画定審議会法第六条第五項の規定にかかわらず、同日における従前の総理府の衆議院議員選挙区画定審議会の委員としての任期の残任期間と同一の期間とする。
2 この法律の施行の際現に従前の総理府の衆議院議員選挙区画定審議会の会長である者は、この法律の施行の日に、新選挙区画定審議会法第七条第一項の規定により、内閣府の衆議院議員選挙区画定審議会の会長として定められたものとみなす。
(別に定める経過措置)
第三十条 第二条から前条までに規定するもののほか、この法律の施行に伴い必要となる経過措置は、別に法律で定める。
附 則 (平成一九年五月二三日法律第五三号) 抄
(施行期日)
第一条 この法律は、公布の日から起算して二年を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。