宮崎信行の「新・夕刊フジ」

元日本経済新聞記者の政治ジャーナリスト宮崎信行が衆参両院と提出予定法案を網羅して書いています。業界内で圧倒的ナンバー1。

◎民主党が自己記録を更新 予算衆院通過で「結党以来13年連続で年度内成立」 

2011年03月01日 06時24分52秒 | 第177常会(2011年1月)大震災・3党合意

 おめでとうございます。

 衆議院(横路孝弘議長)は、2011年3月1日の本会議で、菅直人内閣が提出した平成23年度の総予算3案(一般会計、特別会計、政府関係機関)を可決しました。日本国憲法60条は「予算はさきに衆議院に提出しなければならない」としたうえで「参院が衆院と異なった議決をし両院協議会を開いても意見が一致しないとき」や、あるいは「衆院が可決した予算を(参院が)受け取った後、30日以内に議決しないとき」には、「衆議院の議決を国会の議決とする」とあります。ですから、3月30日までに予算は成立しますので、年度内成立は100%確定しました。

 採決結果は、投票総数453、可とするもの「白票」295、否とするもの「青票」158。委員長報告通り可決されました。「3分の2」には7票足りませんでした。

 これにより、民主党は政党史に残る自己記録を更新しました。

 民主党は1998年4月の結党以来、つねに「フロントベンチ(政権政党か野党第1党)」に座っていますが、これで「結党以来13年連続13回目」の年度内成立となり、自ら持つ自己記録を更新しました。

 参考エントリー)2009年2月の野党時代に書いた【憲政ここに極まる】民主党が国会新記録樹立11年連続で年度内に予算審査をフィニッシュをご覧下さい。

 上記エントリーにもありますが、日本社会党がフロントベンチだった時代は、1956年度予算から1960年度予算まで5年連続で年度内成立させたことがあります。1961年の「4月1日成立」をおまけしても、1956年度予算から1965年度予算まで10年連続が最長でした。民主党は野党第1党で11年連続、政権の重荷を背負ってからも2年連続で年度内成立を実現し、結党以来13年連続13回目に記録をのばしました。

 民主党は、「対案路線」(前原誠司代表)など予算を人質に取らない姿勢で、健全野党として、役員会とは別立ての、影の内閣(シャドウ・キャビネット、NC)をつくって、国会論戦にのぞんできました。2003年通常国会の菅直人代表・岡田克也幹事長のころから、前半国会の3月までに予算の審査を終え、後半国会に一つのテーマをつくって政府・与党を攻める戦術を確立しました。例えば、2004年通常国会は「年金国会」として、徹底的に与党を追及。菅代表もアクセルをふかしまくり、ふかしすぎて、お遍路に旅立つ「未納三兄弟事件」がありましたが、その路線を継続した閉会後の第20回参院選で、民主党は結党以来初めての国政選挙(改選議席)第1党となり、自民党は結党49年目にして国政選挙(補選をのぞいて)第2党に転落しました。翌年の2005年通常国会は「郵政国会」として、与党・小泉自民党側に構図を描かれてしまい、第44回衆院選になだれ込み、大敗。翌年の2006年通常国会も、おそらく小泉自民党側の噛ませ犬だった、と私は推測していますが、「永田メール事件」で後半国会は自爆。しかし、2007年の後半国会はまたしても「長妻年金国会」を作り上げ、第21回参院選で逆転の夏に成功。そして、2008年通常国会は「ガソリン国会」「道路国会」「特別会計国会」と攻めて攻めて攻めまくり、通常国会後に、国交省道路局長は退職してしまいました。そして、2009年の通常国会は「政権交代国会」となり、7月21日に解散、8月30日の第45回衆院選で政権交代を実現しました。

 与党になると、やはり細川内閣の失敗の教訓から、予算審議を急ぎ、昨年も3月24日に成立。そして、与党で2度目の今回も年度内成立が確定しました。これにより、自民党のネガティブキャンペーン「民主党に政権担当能力はない」というのが嘘であったことが証明されました。

 そして、何より、野党時代の11年間に、健全野党、対案路線、政策オタクとして積み重ねた実績が政権交代につながったということは、野党・自民党、とくに参院自民党には十分に勉強して欲しいと思います。とにもかくにも、民主党の結党は間違いではなかった。その志の原点に立ち戻ったり、若手は過去のホームページで勉強していけば、民主党は必ず前に進めるはずです。大丈夫です。頑張りましょう。

 第177通常国会の衆院での予算審議は、けっしてひいき目でなく、「近年稀にみる極めて充実した審議」(委員会で討論に立った民主党の高邑勉さん)だったと思います。序盤から、マニフェストの「子ども手当の月額1・6万円(05岡田マニフェスト)→月額2・6万円(07小沢マニフェスト)への引き上げ」の経緯について、公明党の竹内譲さん、富田茂之理事らが攻めました。そして、野党はおそらく作為的だと思いますが、子ども手当について、およそ8大臣に答弁させ、「閣内不一致」ならぬ「閣内混乱」となりました。なお、序盤は頻繁に答弁に立っていた与謝野馨・税と社会保障相が、終盤はまったく答弁に立つことがなくなりました。政治というのは奥深いです。

 閣内混乱や苦しい答弁を救おうと、中井洽委員長が、うまく答弁をまとめさせて、流れをとぎれさせずに一気呵成に成立までなだれ込ませました。終盤には、自民党政調会長代理の鴨下一郎さんが、厚生年金の3号被保険者の国民年金への切り替え漏れの救済策について、厚労省と総務省の認識のズレをつきました。これについて、片山善博・総務大臣が「決定を留保する」という、行政経験者らしい危機管理で、先送りすることで、平成23年度予算の衆院通過を優先させました。ただ、地方一括交付金改め地域自主戦略交付金(内閣府所管)をめぐる片山さんの答弁には、旧態依然とした自治官僚的な発想が感じられ、失望を覚えました。

 予算審査中に16人が会派離脱届を出すというショッキングな出来事があり、党内外から菅政権の退陣論が噴出しました。その週明けの2月21日(月)のトップバッターには、菅グループの本多平直さんが元気一杯に総理を助け、「落選中どうやって食べていくか、というのが民主党における政治とカネの問題だ」と流れを斜め前に動かし、TV入りで大きくアピールしました。続く、村越祐民さんが、「草の根の志を持って総理になった菅さんだがが、総理として何をしたいのか伝わってこない」と奮起を促し、「4億円」という表現で、民主党の元代表・小沢一郎氏の問題からうまく総理を脱出させました。23日(水)にも、城井崇さんがわずか20分の持ち時間で「中小企業の新製品開発」と「入札改革」といった政策をコンパクトにまとめて質問し、民主党らしさを久しぶりにみせました。

 自民党では、金子一義さんが相変わらず野党になると切れ味がありました。平将明さんの衆院調査局の予備的調査を使った、天下り人事に関する質問は、野党ながらすぐに国益に資する指摘でした。公明党は8日の「社会保障の集中審議」に元厚労相の坂口力さんが試算を交えて公明党案と民主党案を比べて、「民主党マニフェストの年金部分は破綻している」と争点にしようとしたようですが、それよりも、富田理事、竹内さんの「子ども手当」についての、マニフェストの変遷をめぐる議論が、野党らしく「推論」も入れて組み立ててきたので、民主党内にも議論を呼びました。この議題は今後も続き、「平成23年度の子ども手当支給法案」と「児童手当法」の修正協議をめぐって、後半国会の名場面が出てきそうです。

 通常国会召集が1月24日(月)と例年より遅めでしたが、政府4演説と代表質問を経て、予算審議は1月28日(金)にスムーズに入れました。なぜか自民党・公明党・みんなの党・日本共産党はこの初日に欠席したのですが、まったく欠席戦術の口実がなく、1月31日(月)の午前中だけ与党は譲歩して、その午後から、審議スタート。予算を組んだメンバーである前国交大臣の馬淵澄夫さんが質問のトップバッターに立つという挑発的な走り出しでした。最初に野党に恩を売ったので、空転なしに2月28日(金)の午後11時6分可決、同7分散会というスムーズさでした。私は中井さんの裁きは良かったと思います。

 私がかねがね、財政と経済に弱いと思っていた財務大臣の野田佳彦さんですが、成長しました。気になった答弁は3つだけ。浅尾慶一郎さんの「なぜ09マニフェストにある歳入庁(国税庁と旧社会保険庁の合併)が実現しないのか」との問いに「番号制がないからだ」という趣旨の答弁をしました。ただし、このテーマでは最終日には軌道修正した答弁をしていて、野田さんのバランス感覚の良さを感じました。自民党1年生で元高岡市長の橘慶一郎さんの「赤字国債と建設国債の違いは何か?」との質問に、野田さんは「赤字国債も建設国債も借金として積もっていって後年度負担が残るから、なるべく抑えた方がいい」という趣旨の答弁をしました。これに対して、橘さんは「財政法の建て付けが違うので、私は赤字国債と(公共施設など長年使う公共財への歳出を、複数年度に散らすための)建設国債は性質が違うと考えています」と述べました。私は橘さんの説に賛同します。そして、最終日の集中審議の中で、自民党・伊吹文明さんが「歳入と歳出の違いは何か?」との問いに、野田さんが「歳出を裏付けるのが歳入です」と答弁すると、伊吹さんは「半分合っているが、半分違う」。伊吹さんは、「歳出は確定した支出額の限度枠だが、歳入はあくまでも見積もりに過ぎない」という趣旨の発言をしました。私はこれも先輩財務大臣に一日の長があると感じました。とはいえ、野田さんの答弁は十分に合格点だと考えます。

 与野党問わず、わが国の予算審議では「歳入」と「歳出」がごっちゃになった議論が多いです。これは全国会議員・全政務三役が気を付けて欲しいと思います。たとえば「マニフェストの埋蔵金」をめぐる議論でも、事業仕分けなどムダづかいの根絶は「歳出」であって、特別会計や公益法人の埋蔵金は「歳入」です。この混同が、日本の国会の予算審議のパフォーマンスを半減させていると感じます。もう少しよく、予算書を読みなさい!と言いたい。ところで、よく聞いていると、日本共産党もけっこう良い質問はしていますね。

 さて、ことしの衆院での予算審議を振り返って、MVPは誰でしょうか。私は、なんだかんだ言っても、中井洽・委員長だと思います。

 そして、「最も印象に残ったフレーズ賞」。これは、2月10日、午後2時頃の富田茂之さんの「小沢代表のときに選挙目当てでエイヤーと1万円上げて、2・6万円になったんじゃないかと思っていました」との発言。

 次に、“お疲れ様でした賞”はまさに当初の予想通りに細川律夫厚労相でしょう。

 そして、「陰のMVP賞」は、菅退陣論がうずまく朝に、「私や菅総理のように親から議席を受け継いだわけでもなく、大きな資産がある家でもない人間が政治家になって、『どうやって落選中食べていこうか』を歯を食いしばりながら政権交代を実現した。政権交代の意義は、私のように、菅さんのように、自民党とは違う体質のなかで頑張ってきたのが民主党であり、その象徴が菅直人だ」と語り、流れを押し戻した本多平直(ほんだ・ひらなお)さん、通称ヘーチョクさん。菅総理は、「それは個人のことではなく、私は私の30年間の経験で大きく変わったと感じている」と答えました。これまでの民主党では、渡部恒三・予算委員の得意技でしたが、渡部委員はことし登場することはありませんでした。渡部委員が予算委に登場するときは、実は民主党にとってはピンチのときなんです。そういう意味でも、中川正春筆頭理事、武正公一次席理事らことしのチームは、非常に完成度の高い運営ができたのではないでしょうか。

 総理がQTで「丸飲みできるような組み替え動議を出してください」と自民党に言いましたが、2月28日午後10時半、賛成討論に立った民主党新人の高邑勉さんは、武部勤さんら提出の自民党の組み替え動議をこう喝破しました。「自民党の組み替え動議は現下の経済情勢を『民主党不況』などと呼んで、溜飲を下げている場合じゃない!」

 与党らしい低姿勢と、民主党らしい攻撃性。各党各議員の個性がうまく溶け合った予算審議でした。その熟議の予算委員会を醸造したのは、審議が空転しなかったからの一事に尽きることは言うまでもありません。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする