内閣不信任案の背景として、1996年の橋本さんから、政権交代後の鳩山さんまで、ずっと世襲政治家が総理になってきました。森喜朗さんのお父さんは国会議員ではありませんでしたが、「当時現職の町長で選挙区内の他の町長さんもまとめてくれた」とテレビで話していました。だから、菅直人さんのように、お父さんが「セントラル硝子の常務取締役とはいえ、あくまでもサラリーマンの息子が総理大臣をやっていることが面白くないんでしょうね。「この市民運動家上がり!」と罵る人は、オバマ大統領にも目の前で同じことを言ってみてください。
田沼意次、田中角栄ロッキード、そして名もなき若者・・・日本はそうやって人材を潰してきましたから。教科書では松平定信がすぐれた政治家ということになっていますが、私としては、彼は「松平」(徳川家康の旧姓)という苗字だったのがその評価の最大の理由だと思いますよ。まあ、これからは、グローバリゼーションで、「日本社会」が前提からかわりますから、もうそういう心配はあまりないかもしれません。
グローバリゼーションで存在感が低下していたG8ですが、じゃっかん実のある話し合いが戻ってきているような気がします。が、日本では夏の「サミット」というと、昔から、アジア唯一の参加国である日本の存在感がテレビの関心の的でした。
2011年5月26日付「インターナショナル・ヘラルド・トリビューン」紙の8面に、「フランス・サミットの“前触れ”報道」がのりました。これは昨年のサミットの写真を資料写真として載せたのもです。この写真、ちょっと驚くことがあります。よく見てください。G8と欧州評議会議長と欧州委員長の10人が参加しているのに、9名の人物しか写っていないように見えます。
左から、ベルルスコーニ・伊首相、バローゾ欧州委員長、オバマ米大統領、メルケル独首相、サルコジ仏大統領、ファンロンパイEU大統領、メドベージェフ露大統領、キャメロン・英首相、ハーパー加首相・・・そして、ヘラトリ紙はキャプションで、「写真からは見えないが、日本の菅直人首相( and, hidden from view, Prime Minister Naoto Kan of Japan)」と説明しています。
よく見ると、右から2人目のキャメロン英国新首相の後ろに、1人人物がいます。脚の方を見ると、それが分かります。そこに菅さんがいるようです。ヘラトリ紙は米国の会社が発行元の新聞ですので、左のグループのオバマさん、そして、右のグループに入ったキャメロン新首相を撮ることを優先させたのでしょう。数少ないシャッターチャンスの中、菅さんが隠れてしまい、やむを得ず、キャプションで説明して、この写真を使ったのでしょう。
さて、ことしのG8フランスサミットは、当たり前のようで珍しいことがありました。昨年のサミットとG8首脳8人全員が同じメンバーでした。さらに、欧州評議会議長のヘルマン・ファンロンパイさん、欧州委員長のバローゾさんも同じ。2010年サミットも2011年サミットもまったく同じ10人。これは以前メンバーだった「EU議長国首脳」が輪番制だったことから、おそらくサミット史上初めてでしょう。
菅さんは存在感の薄かった、昨年のサミットの、そのまた後である「9月」にも、民主党代表選の審判を受けています。これは民主党結党以来13年目にして、初めて内閣総理大臣が立候補を届け出た代表選でした。それなのに、小沢グループと鳩山グループは、倒閣を企て、小沢一郎候補を擁立しました。本来は、あってはならないことです。このころ、外相で菅候補の筆頭推薦人だった岡田克也さんは、2010年9月4日(土)、三重3区の党員・サポーターおよそ260人が詰めかけた集会で、「総理がたびたび代わっては国際的に信頼されず、国益を損なう」と訴えました。
[写真]2011年フランスサミットを伝えるインターナショナル・ヘラルド・トリビューンの電子版。
さて、これが、ことしのサミットの写真です。昨年とまったく同じ10人の顔ぶれ。そして、前列を歩く4人は、パローゾ欧州委員長、サルコジ大統領、オバマ大統領、菅首相となっています。このように、2004年→2005年以来、6年ぶりに同じメンバーとなった2011G8サミットで、日本の首相が2年連続して出席しました。
国際会議というのは、まずは「集まる」ことに第一の意義があります。日本政治で言えば2005年の「9・11」(小泉郵政解散・第44回衆院選)以降では、初めて2年連続での出席と言うことになりました。そして、「3・11」の情報共有をすすめながら、国際的に復興支援してもらえることになりました。エネルギー政策をはじめ、G8にとっても、ターニング・ポイント(歴史的転換点)となった2011年フランス・サミット。国際政治と相対化してみると、日本政治は「9・11」から衰退し、「3・11」から再スタートを切ったようにも思えます。
岡田さんは2011年5月26日(木)の定例記者会見で次のように述べています。
「私も1年前、カナダのサミットのときは、ちょうど総理が就任された直後で、外務大臣として、普通は外務大臣と総理大臣が一緒の会議に出ることはないのですが、異例でしたが私もカナダにお伴をして、サポートさせていただきました。サミットそのものには出られないのですが、バイの会談がたくさんありましたので、そこに同席させていただいてサポートさせていただいたわけであります」
「あれからもう1年たったのか、あるいは、まだ1年かという感じ、いずれもありますが、日本の置かれた状況もかなり変わりました。そういう中でしっかりと日本のリーダーとしてご活躍いただきたいと思っております。今のメンバーになって2回目のサミットですから、より親密に、しっかりとお互い信頼関係ができた中でのいい議論がなされることを期待したいと思います。
「外相会議でもそうですが、やはりマルチの会議になるとどうしてもお互いの信頼関係、人間関係ができた中でないと、なかなか突っ込んだ議論ができないということで、私は日本のリーダーも毎年のように替わることは、明らかに国益を損なっていると思います。そういう意味でも、菅総理にはしっかりとやっていただきたいと思っています」
「先ほど、毎年総理が替わることは国益を損なうと申し上げましたが、もちろん短期間で辞める本人が一番悪いわけですが、しかし、そういう状況をつくり出す一部のメディアもあることは事実だと思います。それは日本の国益、国民の利益を明らかに損なっていると思います」
今週6月2日(木)の衆院本会議で総理のサミット報告と各党代表質問がある予定です。例年2~3時間ぐらいたっぷりやりますから、(法案処理後、おそらく午後1時~2時あたりスタートでしょうか?)衆議院インターネット審議中継や、ニコニコ動画などでごらんになってみてください。あとからビデオでも見られます。テレビ中継はありません。
ただ、おしむらくは、菅さんも英語が話せればねえ・・・まあ64歳からではムリです。世襲政治家ではないから帝王学も学んでいないし。パフォーマンス術を身につけて、来年のサミットでもがんばってください。
OECD50周年記念行事における菅総理スピーチ
2011年5月25日
パリ
クリントン議長、フィヨン首相、バローゾ委員長、グリア事務総長、ご列席の皆様。
1.冒頭挨拶
経済協力開発機構(OECD)が、本年、設立50周年を迎えたことに、心からのお祝いを申し上げます。
また、日本の総理大臣として、初めて、この伝統あるOECDを訪れることができ、大変嬉しく思います。
2-(1).OECDへの評価(日本の経験)
議長、
日本は、OECDの前身であるマーシャル・プランにより最も大きなメリット・利益を受けた国で、OECD設立の3年後である1964年に、最初の非欧米国として加盟を果たしました。当時の日本にとり、OECDの自由化規約に基づいた対外経済関係の自由化が大きな課題で、大変大きな乗り越えないといけないハードルでしたが、この重要な課題を推進したことで、高度成長の道が開けました。
2-(2).今後のOECDへの期待
OECD設立から半世紀を経て、我々は、新興諸国の台頭などによる国際社会の構造変化という課題、気候変動をはじめとする地球的規模の課題、少子高齢化等、様々な新たな課題に直面しています。
私は、これらの解決にこそ、OECDが半世紀にわたって蓄積してきた知見が大いに発揮されると考えます。
近年、OECDが、G20への貢献を強化していることを歓迎します。今後、より多くの新興国を含めた非加盟国が、OECDとの関係を深め、OECDの分析・提言、成功事例やスタンダードの有用性を認識し、国内の諸政策に活用していくことを期待します。我が国としても、我が国自身の経験を踏まえ、これら諸外国に対し、OECDの有用性を説き続けていきたいと思います。
3.震災からの復旧・復興
議長、ご列席の皆様、
本年1月末のダボス会議において、私は、人と人とのつながり、すなわち、「絆」の重要性について語りました。
そのとき、私は、それから一か月余り後に、この「絆」の有り難さを心の底から感じることになると、想像しておりませんでした。
ご承知の通り、日本は、3月11日未曾有の大震災に見舞われました。それ以来、数多くの国々や国際機関、非政府組織などから、温かい激励や、力強い支援を頂きました。また、サルコジ大統領、クリントン国務長官、グリア事務総長は、災害直後の我が国を訪問し、力強いメッセージを発して頂きました。また、世界各地から、小さな子供たちまでが、僅かなお小遣いを削って寄付をしてくれました。日本国民を代表して心よりの謝意を表します。
私たち日本国民は、この最も困難な時期に、世界の無数の方々が示してくださった「絆」の強さと、熱い連帯の気持ちを、生涯忘れることはありません。我が国は、示された世界との絆に恩返しをする観点からも、国際社会に開かれた復興を目指すとともに、世界の繁栄と発展のために、国際貢献をこれまでと変わらず続けていきたいと思います。
議長、ご列席の皆様に、私は確信をもって申し上げます。日本経済の再生は、既に力強く始まっています。
被災地の経済活動も、急速な回復に向けて動き出しており、エレクトロニクスなどの生産拠点も、6割強が復旧し、残り3割弱も夏までに復旧する見込みです。さらに、今年後半以降には、復興需要が日本経済を回復の方向に牽引すると予測されています。また、東京を始め、日本経済の中心的地域は、これまで通り完全に機能しています。そして、日本の殆どの観光地も、安心して訪問していただけます。
4.原子力安全
議長、
震災に伴って発生した原子力発電所の事故については、各国に多大のご心配をおかけしました。この場を借りて改めてお詫び申し上げます。また、各国から様々な技術的、情報的、人的な支援を頂きました。この場を借りて、改めて深い感謝の意を表したいと思います。
現在、事態は、着実に安定してきておりますが、一日も早く事態を収束させるべく、国の総力を挙げて取り組んでおります。
今回の事故を深く分析・検討し、原子力の安全性について、人類にとっての「新たな多くの教訓」を深く学び、それを世界の人々や、未来の世代に伝えていくことは、事故を起こした国として我が国の歴史的責務であると考えています。
5.エネルギー政策
議長、
日本はこれから、エネルギー基本計画を基本的に見直し、新たな挑戦を開始します。
我が国は、これまでの「原子力エネルギー」と「化石エネルギー」という「二つの柱」に加え、「自然エネルギー」と「省エネルギー」という「新たな二つの柱」を育てていかなければならないと考えています。そのために、日本は、国家の総力をあげた「四つの挑戦」を行っていきます。
まず第一は、原子力エネルギーの「安全性」への挑戦です。今回の事故を教訓に、我々は「最高度の原子力安全」を実現していきます。そのために、まず事故調査・検証委員会を立ち上げました。単なる技術的検討だけでなく、人材、組織、制度、そして安全文化の在り方まで包括的に見直していきます。
第二が、化石エネルギーの「環境性」への挑戦です。
最先端の技術を用いて、化石燃料の徹底した効率的利用を進め、二酸化炭素の排出削減を極限にまで図っていくことは、大きな意義ある挑戦であると考えています。
第三は、自然エネルギーの「実用性」への挑戦です。
技術面やコスト面などの大きな「実用化の壁」を打ち破り、自然エネルギーを社会の「基幹エネルギー」にまで高めていくことに、我が国は、総力をあげて挑戦したいと考えています。発電電力量に占める自然エネルギーの割合を2020年代のできるだけ早い時期に少なくとも20%を超える水準となるよう大胆な技術革新に取り組みます。その第一歩として、太陽電池の発電コストを2020年には現在の3分の1、2030年には6分の1にまで引き下げることを目指します。そして、日本の設置可能な1000万戸の屋根のすべてに太陽光パネルの設置を目指します。
第四は、省エネルギーの「可能性」への挑戦です。
我が国は、産業部門の省エネルギーについては、世界の最先端を走っています。次なる挑戦は、家庭とコミュニティにおいて、「生活の快適さを失わずに省エネルギーを実現する」ことです。それは、「エネルギー消費についての新たな文化を創る」という意味での「社会のイノベーション」を行わなければなりません。
この変革は、これから極めて重要なテーマになっていくでしょう。
なぜなら、将来いかなるエネルギー政策をとっていくにしても、我々が自らに問うべきは、「エネルギー消費を際限なく増大させる社会が適切か」という問いだからです。
日本には、昔から「足るを知る」(知足)という言葉があります。この言葉が教えているのは、自らの欲望をどこまでも増大させるのではなく、適切な欲望の水準を知ることの大切さです。
人類全体が、地球環境問題に直面し、エネルギー問題が様々な紛争の原因となっている今日、我々地球に住む者に深く問われているのは、実は、この問いに他ならないのではないでしょうか。
6.結び
議長、
私は、いま、過去50年間を振り返り、更なる50年先に思いを致します。そして、その視野においてOECDに期待される役割を考えるとき、これからOECDが経済分析と政策提言において果たす役割を一層強化し、世界最大の「行動する」シンクタンクとして世界から信頼され頼りにされる存在であり続けることが重要であると、私は信じます。
先般、震災からわずか一か月あまり後に、グリア事務総長が訪日され、復旧への支援に関する具体的提言を頂きました。それは、まさに、頼りになるOECDの姿でありました。
3月11日に起こった震災は、多くの村や町を破壊しました。しかし、それは、日本の人々の心まで破壊することはできませんでした。いま、我が国は、復興に向け、国民が心を一つにして取り組んでいます。この国民のエネルギーを、私は、必ず、日本という国の変革の力に、そして新生の力に結びつけていきます。
日本は、「日本の再生」と「新たな世界的課題」に立ち向かうにあたり、今後ともOECDと共に歩んでいく覚悟です。
ご清聴、有り難うございました。