ご存じ、故三浦綾子原作の映画化された作品である。地方(旭川市)で病院を経営する医師といういわば上流家庭における夫婦の愛憎劇である。あり得ないようなストーリー展開が当時は大ブームを巻き起こしたという。当時の「氷点」ブームを想いながら映画を観た。
めだかの学校の「映画の中の北海道-昭和編」は、5月11日(月)午後、本年度第2回目が行われ、三浦綾子原作の「氷点」が取り上げられた。
三浦綾子は1963(昭和38)年、朝日新聞社が募集した当時としては破格の1千万円懸賞小説に応募した「氷点」が当選作となり作家デビューを果たした作品である。
翌年から朝日新聞に連載されるや、たちまち評判となり、1966年にはテレビドラマ化されてまたまた大評判に、続いて同年本作のように映画化に至ったという作品である。
映画は病院を経営する医師である辻口啓造と妻の夏枝の間にできた娘ルリ子が何者かに殺害されるが、辻口はその遠因は妻が不貞を働きルリ子を放置したために殺されたと信じてしまった。
夫妻はその後養子をとることになるが、その際辻口は夏枝への復讐のため、娘ルリ子を殺害した犯人の娘を養女陽子として引き取った。
何も知らない夏枝は陽子を溺愛するように育てるのだが、ある時夫の陰謀を知ることとなった。すると夏枝は一転、陽子を虐待し始めるのである。
何も知らずに健気に生きる陽子だが、夏枝の仕打ちは執拗を極め、ついには陽子に出生の秘密を暴露してしまう。
悲嘆にくれた陽子は自らの死を選択したのだった。
というのが、おおよその映画のストーリーであるが、いくら妻への復讐とはいえ、我が子の殺人犯の娘を養女として迎え入れるというのは、いくらなんでもあり得ない話だと私には思われる。しかし、その非情ともいえる辻口の行動がこの作品が評判を呼ぶ要因の一つとなったことも否定できない。
※ 左から陽子の恋人役の津川雅彦、陽子役の安田道代、夏枝役の若尾文子です。
私はテレビドラマというものをほとんど見ることはない。テレビドラマの設定などはこの「氷点」のような、あり得ないようなストーリー展開が視聴者の関心を呼んでいる面があるのではないだろうか?いわゆるドラマの世界というものだ。
あり得ない設定と思われていたことに、やがて現実の世界が追いつき「あり得る」ことになったことも数多くあるような気もしているのだが…。
そんな傾向の火付け的な役割もこの「氷点」は担っていたのではないだろうか、と考えるのはうがち過ぎだろうか?
私は原作を読んではいないが、原作においてはクリスチャンである三浦綾子の人間観、世界観が滲み出たもっと深い作品(キリスト教の概念である『原罪』がその背景として重要なテーマとなっているという)であるということだが…。
最後にまったく私的な見方だが…。ヒロイン役となった陽子役を映画では安田道代が演じているのだが、私にはいま一つしっくりこなかった。テレビの方で大評判となった内藤洋子の可憐な表情・演技の方がジャストキャストのように思われた。
夫妻役の若尾文子、船越栄二が適役だっただけに惜しまれるキャスティングと思ったのは私だけか?
最後に全くの余談を一つ。
現在視聴率ナンバーワンとも言われている日本テレビ系の「笑点」だが、当時のブームをヒントに立川談志がもじって命名したと伝えられている。さすがにお笑い番組である。