若き言語学者のフィールド言語学実践論+人生論といったところか。
私自身としては、ムラブリのゾミア性が興味深く思える。ゾミアはJC・スコットが導入した概念で東南アジアから中国にかけての山岳部に居住する少数民族が、平野部の諸民族が権力を集中させて国家を形成していったのに対して、そうした歴史的な流れから逃れて山岳部に移動したものと捉える。農耕民が狩猟採集民に、文字社会が無文字社会に、貨幣経済や既成の権力から離脱した少なくとも数百年の歴史があるという。ムラブリもそうした民族のひとつという。
著者は、様々な出会いの中で就職せず、大学・大学院進学というモラトリアムの道を歩む。言語学とであい、研究者をこころざし、ムラブリ語と出会う。大学院に進学して修士課程や博士課程を終え、学会発表し、論文を書き、共同研究をおこなう。家庭を持ち大学の非常勤講師をつとめて、研究者(大学教員)のルートを歩み始めるが、家庭をすて、職をすてて、日本各地を転々としながら、様々な支援をうけながら、独立研究者として「自活器」を手に入れるべく、最小限の生活具で生きていく道を模索している。
ムラブリの言語をまなびながら、その身体性(生き方)に行き着き、ゾミア的行き方を模索しているといったところだ。著者の続報をみたいところだ。
本書の著者とはアングルが違うが同じ香りのする書籍を読んだことがあるのを思い出した。
『人類堆肥化計画』だ。