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「心」はもっと深くにある

2018年01月09日 | 読書

(20180108 成人の日に陽は昇った)

2018読了2
 『ダンゴムシに心はあるのか』(森山 徹  PHPサイエンス・ワールド新書)


 ダンゴムシで思い出すのは、二十数年前に母校に勤めていたとき、生活科で取り上げていたこと。文科省指定公開に向けて研究を進めていた頃、題材の一つとして「ダンゴムシランド」と名づけて頑張っていたなあ。きっと子どもたちは、ダンゴムシにも「心」があると思っていたんじゃないか。大人は、というと…。


 通常「大脳」がないダンゴムシのような虫に「心」があると考えるのは、単なる「擬人化」でしょと切り捨てられそうだ。しかし著者にとっては、研究対象のど真ん中。当然、「心とは何か」という定義づけが必須であり、その点に非常に興味が惹かれて読んでみた。実験部分の記述はやや走り読みながら、楽しめた。


 著者の考える「心の働き」とは「状況に応じた行動の発現を支えるために、余計な行動の発現を抑制=潜在させること」である。私たち人間がよく使う、また教育標語としてある「強い心を鍛える」「やさしい心を育む」にも触れている。著者は「心を育む」ことを、端的に「抑制力を育むこと」と言い切る。共感できた。


 物事をやり抜くためには、それを邪魔する様々な刺激に対する行動を抑制する力が必要だ。やさしい心とは、まず自分の行動を抑えねばならない。「鍛える」と「育む」では実際の方法論に違いが出るが、高めたい力は一貫しているだろう。著者は「隠れた活動部位による行動の抑制力の鍛錬」という言い方をしている。


 「内なるわたくし」という表現がある。表には見えない部分を「心」と称することもあるが、それは必ずしも意識できる場合ばかりではない。つまり脳の特定部位の働きだけを示している訳ではない。「予想外の行動」をした自分の不思議さを覚えている人なら、案外理解しやすいかもしれない。虫にも「心」はある。