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民主主義は干乾びたか

2018年11月28日 | 読書
 書店に行って書棚をずっと眺め、ふと目が留まる。文庫コーナーでその背表紙を見て正直少し驚いた。『民主主義』という今どきあまりにダイレクトな書名もそうだが、上部にある「文部省著」という文字。手にとり帯を見ると「『読み終えて、天を仰いで嘆息した』内田樹(本書解説)」とある。これは買うしかあるまい。



2018読了109
『民主主義』(文部省  角川ソフィア文庫)



 恥ずかしながらその存在は知らなかった。「文部省著作教科書」と表紙には記されている。「1948年に出て、53年まで中学高校で用いられた」と解説にあった。復刻版は以前にも出されていたようが、文庫版として先月に発刊された。ありがちな薄手の冊子ではなく、なんと443ページの重厚な「ほとんど学術書」である。


 内田は「嘆息した」訳をこう書く。「それは今から70年前に書かれたこの『教科書』が今でも十分にリーダブルであり、かつ批評的に機能していたからである。」つまり「本質的な洞察に満ち」ていて、実現のための「課題はそれから70年を閲してもほとんど実現されることはなかった」と推察しているからであろう。


 読みつつ思い浮かんだのは、中学生のときに体育館ステージの背面に掲げられた三つの言葉「自主」「民主」「公開」。これは学校独自の目標ではなく、当時の教員たちが新しく作った組織のスローガンであった。後に教職に就きその組織と深く関わりを持ち、掲げられた精神を具現化できるよう努めたつもりではある。


 しかし環境の忙しい変化を言い訳に、現状肯定に終始したと内省する。民主主義とは、国レベルの政治のやり方に留まらず、地方自治でも、政治以外の働く場所でも、そして暮らしの隅々でも、貫かれるべき根本精神である。干乾びてしまったのは、実は言葉でなく、その心を宿すべき人間の方だと言えるだろう。