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人生相談回答者の本質

2020年05月22日 | 読書
 先日読了した小説『できない相談』と書名は似ているが、こちらは人生相談の新聞連載欄をまとめた一冊だ。ある書評で見かけて興味が湧き読んでみる。著者の小説は得手ではないが、この文章は読みやすく、書評通り面白く感じた。こうした回答者に必須なのは、人生経験の量ではなく、経験を質に変える才能だ。


 『誰にも相談できません』(高橋源一郎  毎日新聞出版)


 相談の中身は多くがそうであるように、恋愛、家族、仕事、性格等々がほとんどである。中でも夫婦、親子、嫁姑などが目立つが、家族関係、離婚歴、子育てにおいて、相談者の困り事を上回るような経験がある著者なので、最も身近な自らの実例を吐露しながら、そこから導き出した意思をストレートにぶつける。


 相談者のほとんどは「解答」を求めて投稿している。しかし「回答者」が放つ言葉とは、今持っている問いに対する解決策というより「新たな問い」の立て方、またはずらし方と言えるのではないか。現実の苦しさ、厳しさに近視眼的思考に陥っている者に対し、複眼的、俯瞰的になることを奨める達観の文章が続く。


 作家だけに構成上の工夫もうまい。ある家族の相談を、その家の「子どもから届いた手紙」という形で紹介し、問題の核を明らかにしている。また占いが気になる相談者には、「知人の占師」の言葉として、「信じる意味」を伝えたりしている。作家による創作だとは断定できないが、その工夫は寄添いから生じている。


 子育てに悩む母親への回答は、全身全力で事に当った者だけが心の底から語っているような印象をうけた。個人の物語から導き出す思想と言ってもよい。
「わたしにとって子育ては、自分が愛する能力と子どもたちに教えてもらったことです。愛してあげてください。それだけでいいじゃないですか。他のことなんかどうでも。」