和田浦海岸

家からは海は見えませんが、波が荒いときなどは、打ち寄せる波の音がきこえます。夏は潮風と蝉の声。

私の任務。

2007-11-17 | Weblog
月刊誌「Voice」2007年12月号。
そこに連載されていた井尻千男(いじりかずお)氏の「ベストセラー最前線」が、今回で最終回。特別に2ページをつかって「四半世紀の連載を終えて」という文が載っております。その短い全文を読んでもらえばよいのですが(笑)。ここでは、短く引用。
「25年と6ヵ月続いたことになる。回数にして306回である。」
「私はこの書評コラムを通じて・・・私はつねに十年後に読まれても恥ずかしくないものを書こうと心掛けてきた。一度として妥協したり、時流におもねったということはないと自負している。したがって私にとってこのコラムはたんなる書評ではなく、しばしば本と対決する場所でもあった。」
その最終回にとりあげている本は、立松和平著「道元禅師(上・下)」東京書籍。
その最後の言葉は「立松和平の名前はこの作品によって文学史に残るだろう。」でした

高山正之の連載「メディア閻魔帳」は、今回の題が「基地と市民と『朝日新聞』」。そして最後は「日本はこんな新聞に振り回されたままでいいのか。このコーナーを終わるにあたって、あらためて問いたい。」と締めくくっておりました。こちらも今回で終わるようで、最終回にふさわしい要点の指摘とはっきりした歯切れのよさです。

私が個人的に、鮮やかな印象を持ったのは、鶴見俊輔・上坂冬子の対談。上坂さんが「面と向かってお目にかかるのは半世紀ぶりですね」と語りかけることではじめられているのです。こちらは対談のはじまりの箇所を引用したくなりました。
上坂さんが思想の科学研究会の第一回新人賞を受賞する頃のことが語られております。

【鶴見】そのときに、永井道雄と編集者の粕谷一希と私が発表を勧めた。上坂さんは、長いあいだ黙ってる。
【上坂】三人で私を説得されたときのこと、よく覚えてますよ。私は深刻に迷ってた。そしたら永井さんがコッソリ私のところに来て、「月給がもらえるとこは大事にしなさい」って。その次に粕谷さんが来て、マスコミは怖いところだから、この一冊を出したらすぐ逃げなさいって、それぞれいいアドバイスでした。そのあと鶴見さんがトヨタの職場に電話をくださった。何とおっしゃったと思う?「自分の思想に忠実に生きなさい」って(笑)。
【鶴見】ひどいこというね(笑)。
【上坂】この人は何だろう、日常会話の通じない人だな、と思いましたね。最終的にはペンネームを付ければいい、となって、鶴見さんと多田道太郎さんが「上坂冬子」としてくださった。でもおかげさまで、今日まで字を書いて食べてこられましたから、いまとなっては感謝してます。

 
ちなみに、この対談の題は「激論! 改憲派vs護憲派」となっておりまして。
これからが、読みどころであります。
うん。すこし引用を重ねちゃいましょう。

【鶴見】・・・私は19歳でハーバード大学を卒業したあと、日本に戻って海軍に入り、ジャワのジャカルタに行きました。朝、新聞がばさっと来るんです。でも私は前田さんという部隊長のために、別の新聞をつくってる。敵が読んでいるのと同じ内容の新聞をつくるのが、私の任務。
【上坂】当時の日本海軍武官府の前田精少尉ですね。戦後にスカルノを助けてインドネシア独立宣言を作成した人で、海兵の四十九期生です。敗戦日本の立場で独立を助けたことはなるべく伏せたかったのでしょうが、私はこれを、この人の業績として評価しています。
   世界史の大きな転換点はゆくりなく
   わがかりそめの 官邸にて成る
という一首を残していますよ。ああいう人の下で仕事をされたんですか。
【鶴見】そう、自分の部屋で三時まで起きていて、短波放送をメモに取る。朝になると日本語に訳す。朝、日本の新聞が来る。二個所を除いて読むところないんですよ。読むのは相撲の記事と俳句の記事だけ。
【上坂】軍国少女の私がそんな仕事を頼まれたら、日本が勝つようにバイアスをかけて翻訳しちゃう(笑)。
【鶴見】上坂さんにいうだけじゃなくて、私も自分の思想に忠実に生きてるんです。あの戦争中、日本必敗という考えは変えなかった。もう一つは絶対に殺さない。その二つだけを守った。
【上坂】でも思想に忠実すぎて、ハーバード時代にアメリカの留置場に入れられちゃったじゃないの。・・・先生の体質がよく表れていて、これじゃパクられてもしようがないと思ったわ。あの時代のアメリカで、「私はアナーキストで日本もアメリカも支持しない」なんていえば、留置場入りに決まってます(笑)。・・・・でも結局、先生は日本に帰っていらっしゃる。それはなぜですか?
【鶴見】日本は必ず負けるから、同じ危険の下にいなきゃいけないっていう、不思議な考えが出たんですね。
【上坂】日本人としての愛国心ですか。
【鶴見】いや、断じて愛国心じゃないよ!・・・・・
【上坂】そんなぁ。愛国心と聞いて耳まで真っ赤にして怒ることないじゃないですか、85歳にもなってるのに。愛国心って恥なの?相変わらず変な人ねぇ(笑)。



ちょいと引用が多すぎたでしょうか?
でも、この対談。雑誌を買って読んでよいと私は思いました。
ということで、今回は雑誌「Voice」12月号の紹介、お薦め文でした。

コメント
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