日下公人・高山正之著「アメリカはどれほどひどい国か」(PHP研究所)についてです。キーワードは歴史解説。高山氏は「奴隷」という言葉で、メイフラワー号へと切り込んでゆきます。この歴史解説を、まず、聞いてみましょう。
【高山】この国の正体は・・メイフラワー号でやってきた清教徒から見れば、よく理解できます。彼らピューリタンは、よく知られるように、ワンパノアグ族の酋長マサソイトが恵んだ食糧で冬を越しました。これが感謝祭の謂われですが、一見、心温まる話には、おそろしい続きがあります。七面鳥で元気になった清教徒らは、酋長が死ぬのを待って、彼らの領土を奪い始める。抵抗した息子は殺され、その首は20年間プリマスの港に晒されました。彼の妻子と一族もまとめてカリブの奴隷商人に叩き売られた。こうして土地を手に入れた清教徒は、働き手と妻を、最寄りの奴隷市場に買いに行ったのです。奴隷市場は実は、メイフラワー号が着く一年前に店開きしていて、最初の売り物は140人の英国産の白人女囚でした。・・・(p136~)
この対談では、これを説明する箇所が繰り返してでてきております。
p58では、こうはじまります。
【高山】興味深いのは、アメリカ人は、黒人に対しては奴隷扱いして接する一方、インディアンに対しては即、殺戮を始めたことです。
こうして、ワンパノアグ族のマサソイト酋長のエピソードを語るのでした。
これに続けて日下氏は、語ります。
【日下】アメリカ人は最初、インディアンも奴隷にしようとしていた。ところがインディアンはプライドが高くて白人のためには働かず、むしろ死ぬ。仲間に対しては義理堅く、友人が捕まれば必ず助けに行きました。だから奴隷の身分に閉じ込めることができず、殺すことになった。白人の世界侵略に対抗して、けっして奴隷にならなかったのはアメリカのインディアンと日本人だけだ、という歴史解説があります。(p59~)
奴隷というと、私に思い浮かぶのは、福沢諭吉でした。諭吉は幕末に渡欧したとき、上海や香港で、中国人が英国人に鞭打たれているのを見てショックをうけております。そういえば、司馬遼太郎著「『明治』という国家」に秀吉のエピソードがありました。ちょっと、話がそれますが、司馬さんの語りを引用してみます。
「キリシタン禁制というのは、豊臣政権のときにはじまりました。なぜ秀吉は禁教方針をとったのか、よくわかりません。ただ、推測するための二つの重要な事実があります。秀吉が九州平定のためにその地にやってきてみると、こんにちの長崎の地がイエズス会の教会領のようになってしまっていることに驚くのです。・・・この時代のイエズス会は、宣教師はみなヨーロッパにいる神父とは別人のようにまじめで戦闘的で、命を惜しまずに活動しました。それだけに、あきらかにやりすぎました。それに、ポルトガル商人が、奴隷として日本人を買うんです。日本人たちを船に押しこめ、ときには鎖でつなぎ、食物も十分にあたえずに労働させ、病死すれば海中にすてるということが、たえずありました。ポルトガル商人とキリシタンとは印象としては一枚の紙の裏と表のようなもので、すくなくとも日本人たちは、宣教師が奴隷売買をしているとは見ていないものの、かれらが、自分の教徒であるポルトガル商人に対してそれを制止しないことは知っていました。かれらからみれば、未開の地――つまり異教の国――にくれば自国の商人たちが異教徒を奴隷として売買している光景に鈍感であったことはたしかでしょう。秀吉は教会側に対して、この奴隷売買についてはげしく詰問し、やがて禁教令を出しました。・・・・」
横道へとそれました。この本へ戻ります。
【高山】基本的にアメリカというのは、奴隷の上に成り立った国です。おそらく最後まで奴隷制度を続けた国でしょう。・・・低賃金で酷使されてきた。もちろん、いまや国内では奴隷を使えない。だから中国に奴隷工場を移したわけです。そう考えるとわかりやすい。
【日下】なるほど、わかりやすい(笑)。たしかに、人種差別は強烈ですが、その元にはやはり経済的動機や軍事力の問題がある。その辺の事情を、幕末の日本人はよくわかっていた。白人は、大砲と軍艦のない奴はみんな蹂躙する。理屈を言えない奴はバカだといって支配する。金持ちにはすり寄ってきて貿易する。何もない奴は他に使い道がないから奴隷にする。だからこそ、わが日本国は団結して、働いて金を持ち、その金で軍艦を買い、西欧列強の植民地になることを逃れた。それから幕末の日本人はわかったんです。彼らは愛国心より金が大事らしい。儲けさせれば、軍艦も鉄砲も手に入る、と。(p109~110)
アンケートの箇所も忘れ難い。ので引用しておきましょう。
【高山】20世紀の最も印象深かった出来事とは何か。実はそれを、アメリカのジャーナリストがアンケートで選んだことがあります。1位に来たのが広島、長崎への原爆投下。2位がアポロの月着陸で、3位がパールハーバー(日本海軍の真珠湾攻撃)でした。アメリカにとっては、少なくともアメリカのジャーナリストにとって、まだ日本に対する恐れが上位に来ている。やはり、これを日本人はアドバンテージとするべきではないでしょうか。・・・・神に擬された白人と違う黄色人種が出てきた。第三世界から飛び出した鬼だ。キリスト教でサタン(悪魔)の別名とされる『ルシファー』みたいなものだ。アメリカは、白人の総チャンピョンとして許すわけにはいかない。だから、広島と長崎に原爆を投下して日本を降伏させた――というのが、どうしても20世紀の第1位のニュースになる。」(p88~89)
【高山】この国の正体は・・メイフラワー号でやってきた清教徒から見れば、よく理解できます。彼らピューリタンは、よく知られるように、ワンパノアグ族の酋長マサソイトが恵んだ食糧で冬を越しました。これが感謝祭の謂われですが、一見、心温まる話には、おそろしい続きがあります。七面鳥で元気になった清教徒らは、酋長が死ぬのを待って、彼らの領土を奪い始める。抵抗した息子は殺され、その首は20年間プリマスの港に晒されました。彼の妻子と一族もまとめてカリブの奴隷商人に叩き売られた。こうして土地を手に入れた清教徒は、働き手と妻を、最寄りの奴隷市場に買いに行ったのです。奴隷市場は実は、メイフラワー号が着く一年前に店開きしていて、最初の売り物は140人の英国産の白人女囚でした。・・・(p136~)
この対談では、これを説明する箇所が繰り返してでてきております。
p58では、こうはじまります。
【高山】興味深いのは、アメリカ人は、黒人に対しては奴隷扱いして接する一方、インディアンに対しては即、殺戮を始めたことです。
こうして、ワンパノアグ族のマサソイト酋長のエピソードを語るのでした。
これに続けて日下氏は、語ります。
【日下】アメリカ人は最初、インディアンも奴隷にしようとしていた。ところがインディアンはプライドが高くて白人のためには働かず、むしろ死ぬ。仲間に対しては義理堅く、友人が捕まれば必ず助けに行きました。だから奴隷の身分に閉じ込めることができず、殺すことになった。白人の世界侵略に対抗して、けっして奴隷にならなかったのはアメリカのインディアンと日本人だけだ、という歴史解説があります。(p59~)
奴隷というと、私に思い浮かぶのは、福沢諭吉でした。諭吉は幕末に渡欧したとき、上海や香港で、中国人が英国人に鞭打たれているのを見てショックをうけております。そういえば、司馬遼太郎著「『明治』という国家」に秀吉のエピソードがありました。ちょっと、話がそれますが、司馬さんの語りを引用してみます。
「キリシタン禁制というのは、豊臣政権のときにはじまりました。なぜ秀吉は禁教方針をとったのか、よくわかりません。ただ、推測するための二つの重要な事実があります。秀吉が九州平定のためにその地にやってきてみると、こんにちの長崎の地がイエズス会の教会領のようになってしまっていることに驚くのです。・・・この時代のイエズス会は、宣教師はみなヨーロッパにいる神父とは別人のようにまじめで戦闘的で、命を惜しまずに活動しました。それだけに、あきらかにやりすぎました。それに、ポルトガル商人が、奴隷として日本人を買うんです。日本人たちを船に押しこめ、ときには鎖でつなぎ、食物も十分にあたえずに労働させ、病死すれば海中にすてるということが、たえずありました。ポルトガル商人とキリシタンとは印象としては一枚の紙の裏と表のようなもので、すくなくとも日本人たちは、宣教師が奴隷売買をしているとは見ていないものの、かれらが、自分の教徒であるポルトガル商人に対してそれを制止しないことは知っていました。かれらからみれば、未開の地――つまり異教の国――にくれば自国の商人たちが異教徒を奴隷として売買している光景に鈍感であったことはたしかでしょう。秀吉は教会側に対して、この奴隷売買についてはげしく詰問し、やがて禁教令を出しました。・・・・」
横道へとそれました。この本へ戻ります。
【高山】基本的にアメリカというのは、奴隷の上に成り立った国です。おそらく最後まで奴隷制度を続けた国でしょう。・・・低賃金で酷使されてきた。もちろん、いまや国内では奴隷を使えない。だから中国に奴隷工場を移したわけです。そう考えるとわかりやすい。
【日下】なるほど、わかりやすい(笑)。たしかに、人種差別は強烈ですが、その元にはやはり経済的動機や軍事力の問題がある。その辺の事情を、幕末の日本人はよくわかっていた。白人は、大砲と軍艦のない奴はみんな蹂躙する。理屈を言えない奴はバカだといって支配する。金持ちにはすり寄ってきて貿易する。何もない奴は他に使い道がないから奴隷にする。だからこそ、わが日本国は団結して、働いて金を持ち、その金で軍艦を買い、西欧列強の植民地になることを逃れた。それから幕末の日本人はわかったんです。彼らは愛国心より金が大事らしい。儲けさせれば、軍艦も鉄砲も手に入る、と。(p109~110)
アンケートの箇所も忘れ難い。ので引用しておきましょう。
【高山】20世紀の最も印象深かった出来事とは何か。実はそれを、アメリカのジャーナリストがアンケートで選んだことがあります。1位に来たのが広島、長崎への原爆投下。2位がアポロの月着陸で、3位がパールハーバー(日本海軍の真珠湾攻撃)でした。アメリカにとっては、少なくともアメリカのジャーナリストにとって、まだ日本に対する恐れが上位に来ている。やはり、これを日本人はアドバンテージとするべきではないでしょうか。・・・・神に擬された白人と違う黄色人種が出てきた。第三世界から飛び出した鬼だ。キリスト教でサタン(悪魔)の別名とされる『ルシファー』みたいなものだ。アメリカは、白人の総チャンピョンとして許すわけにはいかない。だから、広島と長崎に原爆を投下して日本を降伏させた――というのが、どうしても20世紀の第1位のニュースになる。」(p88~89)