Don't Kill the Earth

地球環境を愛する平凡な一市民が、つれづれなるままに環境問題や日常生活のあれやこれやを綴ったブログです

25年前(3)

2022年12月09日 06時30分37秒 | Weblog
 「25年前の人々の意識を探ることによって、現在の私たちが抱える問題を明らかにする」という作業は、歴史家に近い視点を要求するだろう。
 ここでは、「25年前の人々の意識」へのアプローチが問題となるわけだが、これが容易ではない。
 横山氏は、テレビのお笑い番組、つまりサブカルチャーに着目した。
 それを受けて、私は、まず人口動態や経済データ(つまり生活全般)をざっと見たわけである(もちろん、こうしたデータが本当に当時の人々の意識と関連しているのかどうかという難しい問題はあるが、それはひとまず措く。)。
 次に、カルチャーの世界に目を転じてみる。 
 1997年のベストセラーの筆頭に挙がるのは、「失楽園」である。
 原作は日経新聞に連載された小説であるが、当時、若いOLまでもがこの小説目当てに日経新聞を買って読んでいたという。
 事実、「失楽園」(する)は1997年の新語・流行語大賞を受賞しており、このことからも、本作が社会に大きなインパクトを与えたことが分かるだろう。

百年の誤読 岡野 宏文 著 , 豊崎 由美 著
 岡野「あのね、文学のひとつの極北が現実逃避にあるとするなら、わたくしども皺ちゃくれたオジサン族にとって、これは望みうる最高の傑作ですね。窓ぎわに追いやられ、金も暇もあるというか金と暇しかない主人公の前に、美形で体がエッチで、頭が空白の女が出現。浅はか~な蘊蓄に尊敬と賛嘆を寄せつつ、「あなたのSEXは最高」と言いなり放題。もう天国です。読むのやめられません!
 豊﨑「ジュンちゃんはセックスのテクニックを美女から絶賛される主人公・久木に自らを投影して、自分を褒めたたえているにすぎないんですよ。たぶん。作品世界と自我の間に完結したウロボロスの輪を作り上げてる。問題は、その輪の中に入って楽しめるかどうか、同じ中年男性として、自己陶酔の妄想の中に入れば楽しめる、そういう小説なんですよねえ。」(p341~345。但し、ぴあ㈱による初版のページ番号)

 バブル崩壊=楽園喪失後の敗残サラリーマンにとっての”ジュンちゃん”(渡辺淳一氏)は、なんだか、かつての「モーレツ社員」にとっての司馬遼太郎氏と似ている(愛情なき辛口)。
 どちらも、「現実逃避」(これが「労働の再生産」にとって有用となる)の目的で消費される商品としてのエンタメ小説作家という点で共通しているからである。
 もっとも、「社会」(あるいは「日本」)という大きな舞台が存在していた司馬遼太郎作品とは違って、「失楽園」に大きな舞台は存在せず、それから阻害された中年男女の、密室(ホテル等)における「カイシャと家庭からの逃避」をテーマとしている。
 しかも、岡野・豊﨑両氏によれば、多くのサラリーマンやOLは、それを、(密室ではない)通勤電車という、「カイシャでも家庭でもない空間」の中で味わっていたのである。
 
 
コメント
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