パンセ(みたいなものを目指して)

好きなものはモーツァルト、ブルックナーとポール・マッカートニー、ヘッセ、サッカー。あとは面倒くさいことを考えること

ちんくしゃ

2024年08月17日 09時37分09秒 | ダイアリー

もっと心に素直に従えば良かった
「光る君へ」で、まひろが久しぶりに道長と逢瀬を迎えた時に
実感したことはこれだった

歳を重ねると、きっと誰もがこのような後悔の念を覚えるのだろう
例外もなく、自分もそうだった

「ちんくしゃ」
犬のちんが、くしゃみをした時の顔を想像させるということで
彼女につけられたニックネームだった
男たちはそれで通っていたが、彼女は知っていたかどうかはわからない
ただ、よく動く大きな黒目と少し肩がすくんだところは
まさにニックネーム通りでうまいこと名付けたものだと思っていた

高校一年の同じクラスに彼女はいた
普通は話してみて人は理解し合うのだが、初めて見たときから
気になって仕方なかった
どこか心が動いて、何時も気づかれないように彼女を見ていた

彼女は美人の部類に入って多くの男子は彼女に惹かれていたと思う
クラスには委員長の役を自ら引き受ける元気な男がいた
彼は自分の気持ちを隠さずに彼女にアプローチし
しばしば彼女と話し込んだり、一緒に行動したりしていた

でも、僕を見る時にふっと見せる彼女の視線は
「もしかしたら!」と思わせるものだった

その実感みたいなものはクラスが変わっても3年間は続いた気がする
例の元気な彼はクラスが変わって、その後どうなっていたかは知らない

もし仮に自分の実感通りだったとしたら、自分は彼女の眼の前で
やってはいけないことをしてしまった
ある時、日記にはその人の名前ばかりが書かれたひとつ下の人に話しかけた
話しかけた内容は、付き合ってくれといった内容ではなくて
今も思い出すと笑えてしまうが、これからはこうした方がいいよといった内容だった
なんで、そんなことを言ったのか、、、
いつも頭の中でその人のことを思っていたから、自分が彼女のことを知ってるくらい
彼女も自分のことを知っていると勘違いしていたのだ
今思うと、そんなことを言われた人は随分困っただろう
そして、これは若き日の暴走として覚えている

でも、その話しかけた場所の直ぐ近くに「ちんくしゃ」はいた
「ちんくしゃ」は僕らを見ていた

それから少しして間接的に「ちんくしゃ」の女友達から
「ちんくしゃの憧れの君」は自分だったと聞かされた

それから十年以上経って、豊橋のマッターホーンというケーキ屋さんで
偶然「ちんくしゃ」を見かけた
相変わらす黒目がちで、品の良い雰囲気を醸し出していた
自分は直ぐに気がついたが、彼女は気づいたかどうかはしらない

不意に、もっと素直に自分の心に従えば良かった
「ちんくしゃ」ともっと気楽に話すことができていたら
少なくとも今とは違ったことになっていただろう
それは後悔の念と諦めに似た感情だ

名字はK 名前はM
ニックネームは「ちんくしゃ」
この人のことを、いつか記録に残そうと思っていた
それができて、少し役目を果たしたような気もしている





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