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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

陸上防衛作戦部隊論(第五回):戦車の戦略輸送の高い難易度と海空自衛隊の負担増

2015-05-13 23:36:12 | 防衛・安全保障
■戦車少数と配備地域の偏重は負担増
前回までに戦車の運用基盤喪失に関する不安要素を示しましたが、今回はもう一つの視点を。

防衛省は統合機動防衛力として、必要な際には戦車を北海道から緊急展開させる方針を示していますが、これは逆に負担を増大させます、幾つか事例がありますが、作戦輸送能力、本土運用への最適化、訓練基盤維持などが大きなところです。戦車縮小が戦車を必要とする脅威の消滅ではなく減退であり、展開させる必要があるためこうした問題が生じるのですが。

作戦輸送能力、有事の際残念ながら自衛隊の戦車は狭軌鉄道輸送には大きすぎるため、トレーラー輸送か輸送艦による輸送が不可欠です、この点で海上輸送は鉄道輸送に並び中隊規模の部隊を一挙に輸送できる理想的な装備ですが、海上自衛隊は輸送任務を業務輸送と作戦輸送に区分しているのです、平時の輸送が業務輸送、有事には作戦輸送、と。

海上自衛隊が作戦輸送を行うには、輸送艦が必要となります。この点北海道から緊急展開を行うには、例えばいっこ戦車連隊戦闘団を輸送する、と仮定しますと、戦車は輸送艦おおすみ型一隻に10両から12両までしか搭載できませんので、自走榴弾砲大隊と自走高射機関砲中隊に装甲化された二個普通科中隊を含む戦車連隊戦闘団を輸送するには、おおすみ型輸送艦7隻から9隻が必要となります。

これだけの輸送艦を即座に稼働できる体制を構築すれば、どんな事態にも、南海トラフ地震にでも万全といえるところですが、半数が即応体制におく稼働率として輸送艦は14隻から18隻が必要となり、海上自衛隊はこの負担に耐えられません、輸送艦一隻は350億円、エアクッション揚陸艇が90億円、ですので海上自衛隊は戦車70両分の費用を要する輸送艦を十数隻増強しなければ統合機動防衛力は達せいできないのです。

米軍では事前集積船を準備し、統合輸送の困難へ対応するべく紛争地の近傍へ重装備や航空機を集積しています。大型貨物船に兵器のみ搭載し、有事の際には兵員のみ輸送機か徴用旅客機にて空輸するのです、ロシア軍でも事前集積船ではなく陸上格納庫へ余剰兵器を集積し、有事の際に人員のみ展開させる方策を研究中とのこと。

自衛隊は例えば東千歳駐屯地から九州南部の国分駐屯地や川内駐屯地まで1600kmの距離を隔てており、これはNATO域内に換算すればロンドンローマ間よりも距離があり、戦略輸送を行う前に事前集積か全国配備の方が現実的ともいえるやもしれません、もっとも、本論は新防衛大綱の戦車定数300両を前提としており、この定数の数値外に事前集積用車両数を含むには無理がありますので、この案は現実的ではありません。

予算は結局防衛省で一元化されるので、無理をするよりも、各方面隊に戦車を残し、訓練輸送として平時の業務輸送、平時の輸送では空襲や潜水艦の攻撃はありませんので、訓練展開するほうがまだ負担はありません。また輸送艦を多く整備しますと、その護衛に護衛艦が必要となりますので、ただでさえ足りない護衛艦が更に不足しかねません。作戦輸送の負担を考えますと、本土に戦車をおく方がよいでしょう。

北大路機関:はるな
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