北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

陸上防衛作戦部隊論(第六回):戦車配備偏重がもたらす重整備基盤の問題

2015-05-20 23:46:36 | 防衛・安全保障
■戦車の訓練と整備基盤
本土運用への最適化、統合機動防衛力を考えた場合、という視点の続き。

結局輸送するとは本土にて戦車を使うということにほかならないのですから、本土での戦車運用研究を北海道の部隊が行わなければなりません、すると業務輸送の範疇ですが平時から転地演習を頻繁に行わなければなりません、これは大きな負担で、結局、北部方面隊を一種の緊急展開部隊のように広い日本列島で使い回す、ということにほかならないのですから負担は大きい。

本土運用に対応する戦術研究は、実際の北海道での演習上にて動いただけではわかりにくく、本土に戦車部隊がなくなる想定なのですから本土の運用研究から戦術の応用を行う基盤もなくなりますので、自分で出向くしかありません。この部分を欠くことは、一種おのぼりさんを有事の際に展開させ、試行錯誤の中で部隊を運用することになりかねません。

訓練基盤維持、本土に戦車部隊がなくなるものの有事の備えとして本土での運用研究を行うということは必然的に本土の演習場に展開する必要性が生じるのですが、先矢は演習場に大きな負担を与えます、雨天後一個中隊が通過するだけで泥濘を構成しますので演習場は戦車道を整備しほかの車両と通行を分けています、この負担をどうするか。

訓練展開する部隊が演習場維持を行うことが望ましいのですが、演習場管理は管区の師団ないし旅団が行います、しかし戦車が通行するだけで負担が大きくなりますが、戦車を廃止する旅団や師団が戦車部隊支援用の施設機材を多く維持する、という構図と負担が果たして合理的なものか、しかしこれを省くと戦車の運用基盤がなくなってしまいます。

そして最後に絶対無視できない問題は、戦車を配備しない地域が生じる事で戦車の修理基盤、特に戦闘において損傷した戦車の改修と修理を行う基盤が喪失する点で、現在は自衛隊が各方面隊の補給処において日常的に行っている整備支援が、戦車が配備されない方面隊が生じる事でこの部分の著しい不均衡が生じかねない、ということです。

重整備基盤は、野戦に際するものと整備施設を要するものがありますが、師団後方支援連隊多旅団後方支援隊での整備以上の重整備は多くの設備を要します、戦車は緊急展開の際に高速輸送する方法はいくつか考えられるのですが、残念ながら補給処の重整備能力を緊急展開する事は容易ではありません。

戦車は直接照準により戦闘を展開するのですから、近接戦闘部隊の宿命として一定以上の戦闘消耗が発生します、もちろん整備能力不足はその先頭消耗の速度を故障などにより増大させることとなりますし、予備の戦車が戦車数縮小により制限される事は、整備需要、その機動展開への需要も相応に増大する事を忘れるべきではないでしょう。

少なくとも本土有事の際には敵は上陸するならば必ず戦車を随伴してきますし、本土に上陸される状況ならば、制海権と絶対航空優勢に相応の支障が来しているところでしょう、そこにこうした負担を加えて戦車を輸送する、そしてそのための基盤を構築すること、不可能ではないでしょうが、合理的選択肢といわれるならば、装甲機動旅団として全国に戦車を少数配備する方が望ましいと考えるところです。

北大路機関:はるな
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする