■日本から見るウクライナ
ウクライナの防衛は日本にとってもロシアとの防衛安全保障という点で考えさせられる点が多いのですが戦争は政治の延長という点も強く考えさせられる次第です。
ロシアのショイグ国防相はウクライナの南部ヘルソンからの撤退を命令しました。ヘルソン撤退についてはロシア側の偽装工作という可能性が指摘もありましたが、撤退の兆候というものではなく撤退命令という具体的な命令であるため、ロシア軍は実際に撤収、ウクライナ軍特殊部隊が市内に展開し、大きな転換点となりました。この意味するところは。
ヘルソンはこのままですとウクライナ軍は両翼包囲、つまり包囲機動を行い圧迫することで市街に退去を強いる兆候がありました。ロシア軍は半年分程度の物資をヘルソンに備蓄しているならば、ヘルソンでの越冬という選択肢を採り、後方で体制を整え春季攻勢で再度攻略、こうした選択肢もとり得たのかもしれませんが、現実として成功した確率は低い。
ウクライナ軍はドニエプル川に沿って着実に領土奪還を進めており、兵站線を確実なものとしているとともに砲兵火力ではロシア軍よりも射程の面で優位に立っています。またウクライナ軍の後方連絡線を叩くロシア航空宇宙軍の行動が緩慢であるため、ロシア軍に現状勝算はなく、ヘルソン市奪還はウクライナ軍の意志次第、こうした現状があるのですね。
冬季戦闘はロシア軍、特に徴兵や予備役動員部隊にはヘルソンでの駐留継続ならば厳しいこととなった、それは装備の不足によるものです。発電装置や野戦用冬季築城資材、いや一般的な防寒着さえ不十分という現状、ソ連時代の備蓄などは既に放出済か転売しているという状況なのでしょうが、この状況では戦死者よりも凍死者や餓死者の危険さえある。
市街地戦闘は、冬季戦闘以上に更に難しいでしょう。大量の兵力をヘルソン市内に潜伏させ市街戦をウクライナ軍へ強要することで近接戦闘により大量の犠牲を強いる、こうした運用もできなくはないのですが、市街地は錯綜地形で電波遮蔽物なども多数存在、部隊は分散を強要されるが相互の支援と連携がなければ友軍相撃となる、特殊な戦場なのです。
スターリンク衛星と地上基地局により、市街地の錯綜地形でも通信を維持しうるウクライナ軍には逆に市街戦は有利であり、またロシア軍は冬季の暖房燃料も含めた兵站線をウクライナ軍の砲兵部隊により遮断されるならば、市街戦そのものよりも越冬できない可能性すら高いのですね。徴兵や予備役はもちろん市街戦は現役兵にも冬季の市街戦は、厳しい。
ロシア軍の市街戦訓練がどの程度の水準にあるのかは寡聞にして知る機会はありませんが、シリア派兵でのシリア地域における市街戦には経験があることは確かです。またロシア軍は重度市街戦という、自衛隊やNATO軍が市街地訓練場で行うような整然とした地域での歩兵戦闘ではなく、瓦礫の多い地域での戦闘に関する戦訓を纏めた論文は発表している。
戦術面では上記の通り在る程度の認識はあるのです。しかしこれもシリア市街戦は相手がSDFシリア民主軍など砲兵火力や装甲部隊をほとんど有さない相手に対するシリア軍行動の支援というものであり、ロシア軍自身が攻める戦闘、しかも相手は強力な砲兵と戦車に無人攻撃機を有する部隊という条件ではありません、シリアとウクライナでは立場が逆だ。
ヘルソン撤退は、ロシア軍の現状では守れないとともに、指揮系統が寸断された場合に組織戦闘が行いにくい、また占領地であるために現地からの徴発にも限度がある、こうした認識が国防相命令となっているのかもしれません。ただ、単に後退するのか、別の意図とともに後退するのかについては、ウクライナ側には留意の必要があるのかもしれません。
ダーティーボムを使用する兆候という懸念もある、市街地からロシア軍が引いたことは戦術核兵器の使用という懸念もゼロではない、これは可能性としては低いのでしょうが、留意する必要はあるでしょう。一方で仮にこの種の装備を使用した場合はNATOが通常戦力による介入を示唆、第三次大戦も辞さない覚悟を誇示し、封じている状況となっています。
しかしロシアには痛手です、この撤退の意味はどういう点でしょうか。3月にロシア軍が占領したヘルソンは南部地域の要衝であり、特にロシア軍が2014年に占領したクリミア半島の北部に位置しています、ここを押さえることでウクライナの港湾都市オデッサへ脅威を及ぼしウクライナを海から切り離すという重要な意味がある地域でした。ここが絶たれた。
マリウポリ方面、ウクライナ軍は過去、ヘルソン方面での攻勢を誇示しつつロシア軍がヘルソン防衛へハリコフ州東部から兵力を引き抜いた瞬間にハリコフ州での反撃を敢行し一気にハリコフ州全域を奪還した事例があります、故にヘルソン市内へのウクライナ軍部隊展開と平行してマリウポリ方面の奪還に動く可能性もあります、主導権を握ったという。
撤退とはいうがロシア軍がどの方面まで引けるのかという点が一つの関心事です、ゼレンスキー大統領は繰り返しクリミアを含めた領土奪還を主張し、ソ連時代からロシアが維持しているクリミア半島のセバストポリ軍港への無人艦隊による攻撃さえ行いました、ロシアとしてはクリミアの占領地維持を意識し、ほかの地域から部隊を引き抜く可能性も。
クリミア半島防衛を意識してヘルソンはじめ部隊をクリミア防衛へ集中した場合には、逆にアゾフスターリ製鉄所攻防戦で記憶に新しいマリウポリ奪還へウクライナ軍が前進し、例えばマリウポリ市内を奪還した場合、これは逆包囲の危険もあるのですが、成功した場合にアゾフ海に至る経路と、そして南部占領地のロシア軍を分断できる可能性が出ます。
北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
(第二北大路機関: http://harunakurama.blog10.fc2.com/記事補完-投稿応答-時事備忘録をあわせてお読みください)
ウクライナの防衛は日本にとってもロシアとの防衛安全保障という点で考えさせられる点が多いのですが戦争は政治の延長という点も強く考えさせられる次第です。
ロシアのショイグ国防相はウクライナの南部ヘルソンからの撤退を命令しました。ヘルソン撤退についてはロシア側の偽装工作という可能性が指摘もありましたが、撤退の兆候というものではなく撤退命令という具体的な命令であるため、ロシア軍は実際に撤収、ウクライナ軍特殊部隊が市内に展開し、大きな転換点となりました。この意味するところは。
ヘルソンはこのままですとウクライナ軍は両翼包囲、つまり包囲機動を行い圧迫することで市街に退去を強いる兆候がありました。ロシア軍は半年分程度の物資をヘルソンに備蓄しているならば、ヘルソンでの越冬という選択肢を採り、後方で体制を整え春季攻勢で再度攻略、こうした選択肢もとり得たのかもしれませんが、現実として成功した確率は低い。
ウクライナ軍はドニエプル川に沿って着実に領土奪還を進めており、兵站線を確実なものとしているとともに砲兵火力ではロシア軍よりも射程の面で優位に立っています。またウクライナ軍の後方連絡線を叩くロシア航空宇宙軍の行動が緩慢であるため、ロシア軍に現状勝算はなく、ヘルソン市奪還はウクライナ軍の意志次第、こうした現状があるのですね。
冬季戦闘はロシア軍、特に徴兵や予備役動員部隊にはヘルソンでの駐留継続ならば厳しいこととなった、それは装備の不足によるものです。発電装置や野戦用冬季築城資材、いや一般的な防寒着さえ不十分という現状、ソ連時代の備蓄などは既に放出済か転売しているという状況なのでしょうが、この状況では戦死者よりも凍死者や餓死者の危険さえある。
市街地戦闘は、冬季戦闘以上に更に難しいでしょう。大量の兵力をヘルソン市内に潜伏させ市街戦をウクライナ軍へ強要することで近接戦闘により大量の犠牲を強いる、こうした運用もできなくはないのですが、市街地は錯綜地形で電波遮蔽物なども多数存在、部隊は分散を強要されるが相互の支援と連携がなければ友軍相撃となる、特殊な戦場なのです。
スターリンク衛星と地上基地局により、市街地の錯綜地形でも通信を維持しうるウクライナ軍には逆に市街戦は有利であり、またロシア軍は冬季の暖房燃料も含めた兵站線をウクライナ軍の砲兵部隊により遮断されるならば、市街戦そのものよりも越冬できない可能性すら高いのですね。徴兵や予備役はもちろん市街戦は現役兵にも冬季の市街戦は、厳しい。
ロシア軍の市街戦訓練がどの程度の水準にあるのかは寡聞にして知る機会はありませんが、シリア派兵でのシリア地域における市街戦には経験があることは確かです。またロシア軍は重度市街戦という、自衛隊やNATO軍が市街地訓練場で行うような整然とした地域での歩兵戦闘ではなく、瓦礫の多い地域での戦闘に関する戦訓を纏めた論文は発表している。
戦術面では上記の通り在る程度の認識はあるのです。しかしこれもシリア市街戦は相手がSDFシリア民主軍など砲兵火力や装甲部隊をほとんど有さない相手に対するシリア軍行動の支援というものであり、ロシア軍自身が攻める戦闘、しかも相手は強力な砲兵と戦車に無人攻撃機を有する部隊という条件ではありません、シリアとウクライナでは立場が逆だ。
ヘルソン撤退は、ロシア軍の現状では守れないとともに、指揮系統が寸断された場合に組織戦闘が行いにくい、また占領地であるために現地からの徴発にも限度がある、こうした認識が国防相命令となっているのかもしれません。ただ、単に後退するのか、別の意図とともに後退するのかについては、ウクライナ側には留意の必要があるのかもしれません。
ダーティーボムを使用する兆候という懸念もある、市街地からロシア軍が引いたことは戦術核兵器の使用という懸念もゼロではない、これは可能性としては低いのでしょうが、留意する必要はあるでしょう。一方で仮にこの種の装備を使用した場合はNATOが通常戦力による介入を示唆、第三次大戦も辞さない覚悟を誇示し、封じている状況となっています。
しかしロシアには痛手です、この撤退の意味はどういう点でしょうか。3月にロシア軍が占領したヘルソンは南部地域の要衝であり、特にロシア軍が2014年に占領したクリミア半島の北部に位置しています、ここを押さえることでウクライナの港湾都市オデッサへ脅威を及ぼしウクライナを海から切り離すという重要な意味がある地域でした。ここが絶たれた。
マリウポリ方面、ウクライナ軍は過去、ヘルソン方面での攻勢を誇示しつつロシア軍がヘルソン防衛へハリコフ州東部から兵力を引き抜いた瞬間にハリコフ州での反撃を敢行し一気にハリコフ州全域を奪還した事例があります、故にヘルソン市内へのウクライナ軍部隊展開と平行してマリウポリ方面の奪還に動く可能性もあります、主導権を握ったという。
撤退とはいうがロシア軍がどの方面まで引けるのかという点が一つの関心事です、ゼレンスキー大統領は繰り返しクリミアを含めた領土奪還を主張し、ソ連時代からロシアが維持しているクリミア半島のセバストポリ軍港への無人艦隊による攻撃さえ行いました、ロシアとしてはクリミアの占領地維持を意識し、ほかの地域から部隊を引き抜く可能性も。
クリミア半島防衛を意識してヘルソンはじめ部隊をクリミア防衛へ集中した場合には、逆にアゾフスターリ製鉄所攻防戦で記憶に新しいマリウポリ奪還へウクライナ軍が前進し、例えばマリウポリ市内を奪還した場合、これは逆包囲の危険もあるのですが、成功した場合にアゾフ海に至る経路と、そして南部占領地のロシア軍を分断できる可能性が出ます。
北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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