北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

ヴェトナムカムラン湾へ外洋練習航海部隊入港, 進む日越日比防衛協力とJDSC締結の可能性

2016-04-13 22:44:51 | 国際・政治
■JDSC:包括安全保障協力宣言
 我が国外洋練習航海部隊がフィリピンスービック海軍基地からヴェトナムカムラン湾基地へ入港しました。そこで、今回は進む日越日比防衛協力とJDSC、という視点から考えてみましょう。

 外洋練習航海部隊がヴェトナムのカムラン軍港へ寄港、前回がダナンでしたので今回はカムランか、と考えていたところですが、NHK始め多くのメディアが大きく報じていまして驚きました。海上自衛隊の艦船ヴェトナム入港は今回が四回目です。外洋練習航海部隊は現在実施されています近海練習航海部隊と同日に江田島を出航した部隊です。飛行幹部候補生課程を修了した3尉が乗艦していまして、海外を中心に航海します。

 近海練習航海部隊は、日本全土の港湾へ寄港し艦隊勤務の実能力について、実勤務を通じて習得し、その後世界を一周する遠洋航海へ向かいます。対して、外洋練習航海は40日間程度の航海です、こういうのも、飛行幹部の責務は航空機操縦課程を経て航空搭乗員となる事ですので、海上自衛官としての艦隊勤務素養を最初に身に着けたうえで、近海練習航海部隊が遠洋航海に向かう頃には、練習機へ向き合わなければならない、ということ。

 今年の外洋練習航海は外洋練習航海部隊に所属する潜水艦がフィリピンを訪問した際も含め、非常に国内での注目報道が為されていますね、ヴェトナムへの艦船親善訪問は、もちろんカムラン湾への寄港は旧海軍時代以来のものではあるのですけれども、2014年6月6日に輸送艦くにさき、がパシフィックパートナーシップ2014として入港しました。この際に丁度中国の海洋法執行機関がヴェトナム船に無差別衝突事案を頻発させていましたが、偶然です。

 パシフィックパートナシップの時期に入り日米の大型艦を含め航行するようになりますと、中国公船の動きが沈静化、くにさき、は大歓迎を受けました。パシフィックパートナーシップは、官民一致の防災や人道支援への多国間訓練で、我が国の参加は鳩山内閣時代に開始の友愛ボートとしての派遣から始まりました、集団的自衛権行使には否定的見解を持っていると考えられた当時の民主党政権が、各国軍との連携を含む演習への参加は意外に感じられたものですが、自民党政権復帰後も継続しています。

 ヴェトナムへの外洋練習航海部隊入港は、昨年も実施されていまして2015年4月16日に護衛艦きりさめ、あさゆき、二隻が入港しています。外洋練習航海部隊はヴェトナム第5軍区司令部及び海軍第3管区司令部を訪問しており、5月にはP-3C哨戒機もダナン海軍基地を親善訪問しています。今年、注目報道が為されるというのは、国内メディアの関心の表れなのでしょうか。

 JDSC,包括安全保障協力宣言Joint Declaration on Security Cooperation、現在我が国は2007年にオーストラリアと締結、その後インドとも締結しました。2000年代からの国際法の新しい潮流としまして、条約のような国家間協力関係とは一歩置く、国家間協定や国家間合意原則宣言等がソフトローという新しい国際関係を形成しています。JDSC,包括安全保障協力宣言は同盟条約ではありません、が、協力分野は同盟条約と重なる部分も存在する。

 ヘリコプター搭載護衛艦いせ、オーストラリアやフィリピンとヴェトナムに韓国など18か国の大尉級士官を乗艦させ航海を行う、とのこと。いせ艦内の多目的区画をそのまま利用することでシンポジウムの実施は、過去に観艦式付帯行事などで実施されてきましたが、多国間海洋安全保障シンポジウムを洋上で実施するとは時代も変わったものです。他方、加えて海上自衛隊はパラオで実施されますパシフィックパートナーシップ2016を予定しています、当初はこの関係で派遣されるものと思われましたが、実施地域の関係上、別の派遣となるようです。

 安全保障関連法制への反対議論の一つとしてアメリカの戦争に日本が巻きこまれる、という視点がありますが、フィリピンと中国の紛争に日本が巻き込まれる、という反対論や、ヴェトナムと中国との戦争に日本が巻き込まれる、という視点は無いようなのですよね、すると、日豪や日印で締結したJDSC,包括安全保障協力宣言Joint Declaration on Security Cooperationのような安全保障協力枠組み、この締結の際にも主立った反対はありませんでしたが、こうしたかたちで協力の強化、という施策は考え得るのか考えてしまいます。

 憲法上、我が国は他国との同盟条約の締結については大きく制限されています。しかし、包括安全保障協力宣言については、理念の共有と協力関係の締結であり、単純な軍事同盟とは異なる大きな定義に基づくものであると同時に、必要であれば同盟条約と同等として機能させる事が可能となっていまして、特に海軍力を近代化しこれ以上自国領土を過去の様に中国に切り取られたくないとするヴェトナムとフィリピンとの協力関係強化の施策へは、応用できるでしょう。

 JDSC,包括安全保障協力宣言、とは日豪JDSC及び日印JDSCの協力分野としまして、第一に国際犯罪との戦いに関する法執行、第二に国境保安協力、第三にテロ対策協力、第四に軍縮並びに大量破壊兵器及び運搬手段拡散対処、第五に国際平和活動、第六に戦略情報交換、第七には海上航空安全確保、第八として災害救援等人道支援活動、第九には感染症大流行等緊急事態対応計画、以上の9分野での協力が含まれています。こうした方式での協力が今後日越間や日比間でも模索される可能性は、あるでしょう。

北大路機関:はるな くらま
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小牧基地航空祭2016/2015年度オープンベース【4】 小牧基地の災害派遣拠点機能

2016-04-12 22:50:25 | 航空自衛隊 装備名鑑
■ブルーインパルス!
 小牧基地航空祭特集、前回の掲載3月27日から若干間が空いてしまいましたが特集も今回が最終回です。

 小牧基地ですが、東海地震や東南海地震に対しては救援の第一線となる重要な基地です。残念ながら中京地区の空の玄関である中部国際空港は海上空港であり、東南海地震に際しては津波被害に遭う事が確実視されています。しかし小牧基地は内陸部にあり最大規模の津波災害に対しても充分離隔している他、基地の敷地近くには地震に伴う山岳崩壊の危険もありません。

 勿論、小牧基地は防衛上の極めて重要な基地であることは言うまでもありません、装備する輸送機の能力も重要ですが、もう一つ忘れてはならないのが航空自衛隊最大の弾薬庫である高蔵寺弾薬庫は小牧基地に近く、山そのもの丸ごと中をミサイルで満たした施設から全国の航空部隊へ弾薬を供給するには、まず陸路で小牧基地へ運び、その上で輸送機へ搭載する事が効率的でしょう。

 しかし、喫緊の課題は南海トラフ地震を含めた我が国中枢部を狙う巨大地震です。想定最大犠牲者は32万、これは大都市が戦略核攻撃を受けた場合に匹敵する甚大な被害で、津波の想定範囲は四国紀伊東海に集中しますが、京阪神地区と中京地区にきわめて甚大な被害を及ぼし、距離を隔てた首都圏であっても津波被害が無視できない大きな脅威となっています。

 先進国で災害対処の任務に第一線部隊を出しているのは日本くらいであり通常は即応するのは消防や救急、軍事機構は第二線級の、例えば予備役で動員するような部隊が対応する、という指摘はあるようですが、先進国で一日の内に一万人以上が災害で人命を失う危機があり、対応が遅れたならば更に一万人が生命の危険に曝される、という状況は我が国位のものでしょう。

 加えて東日本大震災規模の犠牲者、先進国では核戦争を例外とすれば万単位の人命が失われる緊急事態は中々考えられず、大規模紛争でも、イラク戦争やシリア内戦にウクライナ東部紛争、イエメン内戦やリビア騒乱といった世界史に残るような大規模武力紛争でも、一日で万単位の犠牲者、という状況はありませんでした、唯一例外は1991年の湾岸戦争でしょう。

 湾岸戦争の双方犠牲者は東日本大震災と同程度、若しくはそれ以上と云われます、しかし、その規模は非常に大きく、54万名の多国籍軍と55万名のイラク軍が双方ともに戦場に1000両の戦車を激突させ、アメリカ海軍の空母だけで6隻が展開、戦略爆撃機を含め延べ数千回の空爆を実施しての数値です。南海トラフ地震の想定犠牲者32万はそれを遥かに上回るもので、自衛隊を含め如何に真剣に減災に臨むかの重要性が垣間見えるというもの。

 ブルーインパルスが飛行する小牧基地は標高16m、2740mの滑走路を有しています、標高16mといいますと心もとなく感じられるかもしれませんが、名古屋駅から15kmの距離を隔てており伊勢湾からは20kmの距離を隔てています、あの東日本大震災の津波でも内陸部まで最大5kmまでの到達に留まっており、津波は波長が非常に大きいものの海面上昇ではなく内陸部に入れば陸との抵抗で減殺されまるので充分安全でしょう。

 東海地震の直撃を受ける静岡県では、県西部の航空自衛隊浜松基地は標高46mあり津波に対し安全です。県央部に位置する航空自衛隊静浜基地は海抜7mで、海岸からの距離も0.9km、東日本大震災で大被害を受けました仙台空港の海抜5mや松島基地の海抜2mと並び東海地震では被害が予想されますが、近傍に静岡空港があり、標高132m、山岳崩壊などで滑走路が損傷しなければ防災拠点として期待できます。

 今回の小牧基地航空祭では災害派遣展示が実施され、岡崎消防局が運輸するレッドサラマンダー全地形車両も参加しました、これはシンガポールのブロンコ全地形車両で総務省が防災用に導入し岡崎市消防へ管理委託しているものです、徳川家康所縁の地岡崎は、一時期北大路機関移転予定地(爆)、ではなく、東名高速道路の拠点であると共に静岡県と中京地区に等距離にある要地でもある。

 この全地形車両は、航空自衛隊でもスウェーデン製の車両を若干数が防空監視所支援用として運用していますが、大規模災害時には浸水地域を踏破可能で、瓦礫など車両が進出困難な地位でも展開可能です、戦車や装甲戦闘車も装軌式車両として高い登攀力を持ちますが、限界はあり、しかも重量が相当大きいため運用に制限が掛かってしまいます、しかし、全地形車両はこうした問題もなく、非常に有用な装備といえるもの。

 全地形車両の運用は、船舶関連法規の関係上水陸両用車両として運用する場合船舶登録が必要値なる他、操縦資格も複雑化するため、実際の性能を最大限活かす事が出来ないという平時法規と有事の乖離という問題点はありますが、防災上有用な車両です。また、防衛用としましても、水上速力は5km/h程度と潮流に弱く、短距離しか航行する事を想定していません。

 しかし、不整地突破能力の高さは、イギリス海兵隊のように81mm迫撃砲等を車両踏破困難な山間部で運用する事が可能ですし、対戦車ミサイル等の戦闘資材を湖沼地帯を越えて第一線に輸送可能、ドイツ陸軍などは装甲型を救急車として運用しており、通常の装甲車両は踏破困難な経路を装甲する事で迅速な第一線救命能力を付与、スウェーデン軍では様々な用途にもちいており、戦場監視レーダーの踏破困難地形での運用にも用いています。

 実は全地形車両、装甲型と通常型が存在しまして元々は雪上車なのですがあらゆる地形を踏破でき、ジープなど過去の全地形車両や山岳戦用車両などと比較しまして、路上速度もかなり高いのですけれども、それ以上に雪国で開発された装備でして、車体が連接式となっていますので、徒歩でなければ踏破できないとされた山間部の急斜面や森林地帯など、かなりの速度で機動出来るものである。

 こうして考えてみますと、もう少し普通科部隊の機動力として、特に陸上自衛隊は国土の峻険地形を専守防衛として任務に当たる事から、評価されてもいいのではないか、と考えるところ。もちろん、災害派遣を言い分に陸上自衛隊の機械化戦力を強化しよう、という視点ではないのですが、用途は広いと考えます、水陸両用車でもありますので、陸上自衛隊は全ての師団旅団管区に離島があるわけですし、広く装備されても不思議ではありません。

 サラマンダー、岡崎消防に一両が配備されている、という部分、この一両のサラマンダーが対応する管区には政令指定都市だけで名古屋市に浜松市と静岡市があり、浸水地域の広さを考えますと、その上絵その知己に居住する人口を考えた場合、気が遠くなります、この種の車両を大量に運用し維持し稼働体制に置くことができるのは自衛隊だけですので、全地形車両については一考の余地が、と。

 全地形車両は、自衛隊にも有用ですが、消防や警察に例えば山林消防や山岳救助支援と海上空港警備と都市ゲリラ対策等の面で数を揃える必要があります、この種の装備は様々なものを導入したとしても、数が限られているならば運用に関するノウハウ蓄積が出来ませんし、その存在に対して活用する枠組みを平時から構築しておかなければ、その高度な能力を活かした運用研究すらままなりません。

 小牧基地航空祭では災害時に大きな能力を発揮する救難教育隊の救難展示や輸送航空隊の輸送機と空中給油輸送機、機動衛生ユニット等の機材や福島第一原発事故へも派遣された航空消防車両の最新型、そして消防の全地形車両展示を視まして、併せて、東日本大震災の巨大津波が直撃した松島基地を拠点とし、当日幸い九州新幹線開業記念へ芦屋基地へ展開し難を逃れたブルーインパルスの展示を眺めつつ、ふと次の災害についても考えました次第です。

北大路機関:はるな くらま
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巨大都市競合地域“メガシティ”という新たな戦場【前篇】 突き付けられた巨大都市戦闘

2016-04-11 21:55:23 | 防衛・安全保障
■「メガシティ」という新たな戦場
 巨大都市競合地域“メガシティ”という新たな戦場、これについて考える事としましょう。

 コラム:米軍を待つ「メガシティ」という新たな戦場、ロイター通信にて、このような興味深いコラムが掲載されていました。ランド研究所のチャドC.セリーナ博士が執筆したもので、ピッツバーク大学にて政治学博士号を授与されランド研究所にて軍事情報通信及び心理戦専門研究員を務めています、元軍人で現役時代は第2ストライカー旅団戦闘団にも奉職したとのこと。

 メガシティという新たな戦場、さてコラムの概略は以下の通り。複数の年で形成される都市圏、1000万規模の人口を有する都市が戦場となった場合、テロリストや反政府勢力への制圧安定化作戦を展開する場合に諜報や監視及び偵察活動を行う際の諸問題について提示したもので、米軍は大規模な軍事力を有する中国やロシアへの対抗戦力を保持する必要が今後も筆頭に置かれるのに対して、テロとの戦いを継続する場合にはどうしても大都市での戦闘が必要となる、というもの。

 メガシティの定義としましてコラムでは“ディストピア系SF映画のような”という前置きをした上で、1995年の映画“ジャッジドレット”を示しまして、都市全体が無法地帯、若しくは交戦規定を満たさない勢力とその支援者もしくは潜在的支援者が混在しているという状況を示し、攻撃する側としては何処からが境界線かが不明確なもの、としました。この点を強調するようにISILシンパが隠れるブリュッセルや同時テロ以前のパリは含めていませんでした。

 映画一作では分かりにくいのですが、補足しますと“デモリションマン”の地下街、“第九地区”、“フレッシュプリキュア!”のラビリンス等が思い浮かぶところ。“ブラックブレット”や“魔法科高校の劣等生”は大都市が舞台ですが、前者は決壊の外が全部敵なので火力を投射しやすいという部分で含まれず、後者は敵の支持基盤が国内にはほぼなく四葉継承編からは反魔法勢力が出てきますが、ほぼ定義を満たしません。

 ロイターコラムではその市街地戦闘の実例として、チェチェン紛争のグロズヌイでのロシア軍による市街戦やイラク治安作戦でのサドルシティでの米軍による掃討作戦を提示していますが、グロズヌイの人口は数十万名でありサドルシティーの人口も350万名前後、という数字を提示しています。また近年の事例としてはイラクシリアでのISILを提示しています。

 ISILは、市街地の製パン工場や石油精製所に公益事業体といった互いに性質の異なる豊かな収入源を確保することで、兵站を大都市に依存し、無差別爆撃の標的と出来ない人間の盾に隠れた策源地を有し、後方と外国人民兵勧誘から強制徴用までスマートフォンを筆頭に廉価で暗号化機能を持つ携帯通信機器を駆使し指揮系統を構成でき攻撃を加える事が可能となる、と。

 上記を見ますと問題の大きさに考えさせられると共に、メガシティという新たな戦場、我が国防衛力の視点からも、例えば国際平和維持活動において今後平和執行という部分への参画を求められた場合、メガシティという新たな戦場へ自衛隊が望む必要が生じます。無論、我が国の場合、メガシティという新たな戦場として首都圏や京阪神地区において展開する可能性はほぼ無視できるものではありますが、海外では非常に高まります。

 大都市での市街地戦闘、陸上戦闘の基本概念として、都市と森林は部隊を呑む、という原則がありまして、森林地帯と市街地にはどれだけ部隊を展開させても十分な密度を確保する事が出来ない為、可能な限り回避すべきである、という意味です、そして一例として最も適当な事例がヴェトナム戦争でのジャングル戦闘ですが、撃破すべき敵主力が不明確となる場合、これを非対称型戦闘というのですが、軍事機構はいわばクラウド化された敵対勢力を明確に把握できず、火力優勢や航空優勢を行使できない、近接戦闘主体の戦闘により消耗してしまう、という厳しい実情があります。

 陸軍戦術の基本は、市街地戦闘を避ける事にあり、少なくとも正規軍を相手とする場合、接近経路や連絡線などの状況から総合的に市街地での持久の限界を認識した場合、選択肢には相手の撤退による戦闘基盤の再構築、更なる選択肢には持久、というものがあり、持久を選択した場合は攻勢に出ない事を意味しますので、包囲し突破を待つ、若しくは孤立させ戦闘全般への関与そのものを封殺する、という選択肢がありまして、極力避ける、という部分が共通点であることに気付かされるところ。

 市街地戦闘を避ける、何故ならば陸上戦闘の究極的な目標は指揮系統中枢の屈服若しくは無力化にあるためです、しかし非対称型戦闘は持久が手段ではなく目的とする場合が多く、更に指揮中枢が不明確である場合も多あり、つかみどころがありません。すると、一部屋一部屋確実に小銃と音響手榴弾で着実に制圧する必要があるのですが、その手間と時間については想像に難くないでしょう。

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トランプ外交のアメリカ第一主義と同盟国放棄ドクトリン その安全保障上の重大リスクと冷戦誘発

2016-04-10 21:48:46 | 国際・政治
■孤立主義ではない第一主義とは
 ロイターコラム、同盟国の「見殺し」望むトランプ外交、という興味深い分析がありました。実はこのコラムを始め様々な言動を見ますと、ドナルドトランプ氏は中国やロシアに対して非常に楽観的な視点から物事を評価する楽天家なのではないか、という印象を受けています。

 コラムの概要は以下の通り。アメリカ第一主義を掲げ、NATOとの関与を見直しロシアとアメリカの対立構造を欧州から手を引くことで解消する、在日米軍と在韓米軍を撤退させ北朝鮮の核問題にアメリカが関与しないようにする、というもので、ただし、ジェームズモンロー時代のモンロードクトリンの踏襲、つまり孤立主義を意味するものではない、とトランプ氏は掲げているようですが、NATOに関与しロシアと欧州の関係はアメリカが関与しない、欧州とロシアの関係で応手が劣勢となった場合でもアメリカは重荷とならない範囲内でのみ関与の姿勢を示す、というもの。

 オバマ大統領の、アメリカは世界の保安官ではない、という言葉がりまして、この視点に続き、アメリカの同盟国との関係を再編するという主旨に受け取られかねないトランプ氏の発言は、アメリカ大統領選共和党指名争いの一候補ではあるものの、その影響力は世界中に広がっています、つまり、オバマ外交以上に次ぐにトランプ氏が大統領となった場合はアメリカの軍事力行使が及び腰になる、という危惧もさることながら、最大の影響は、こうした姿勢をアメリカの少なくない有権者が支持しており、どの候補が大統領となった場合でもオバマ外交における軍事分野の消極性が継承される可能性がある、という危惧が最大の懸念というべきでしょう。

 トランプ氏の掲げるNATOへの関与縮小、在日米軍及び在韓米軍の撤退、こうした視点なのですが、少なくとも大統領の二期八年の任期中に実施しますと、非常に大きな戦力の空白を呼びます、これがアメリカの安全保障にとって影響がかなり起きくなるともいえるのですが、この点について、トランプ氏はロシアや中国の外交姿勢をどの程度考えているのか、少々不確定要素が大きすぎます。実は、アメリカの軍事的影響力は政治的要素に非常に大きく左右され、イラク戦争期を契機に波動が生じ、不安定な状況にあります。

 ブッシュ政権下のラムズフェルド国防長官時代に米軍再編を実施し米軍は機動展開能力を重視し常駐戦力を最大限縮小するという改編を実施し、一方同時期に発生したイラク戦争とその後十年に及ぶ長期間の治安作戦により生じた大量の戦費負担により緊急展開に必要な装備体系構築が、LCS沿海域戦闘艦計画やDD-21将来打撃駆逐艦構想が大幅縮小、F-22戦闘機の整備縮小やE-10早期警戒管制機開発中止、FCS将来陸上車両体系の開発中止、ストライカー旅団戦闘団整備部隊数縮小等、かなり省略や縮小されてしまいまして、この力の空白が東部ウクライナ紛争や南シナ海緊張状態の大きな要素となっている事を忘れてはなりません。

 トランプ氏の主張は、中東のISILに対する発言ではサウジアラビアに地上軍派遣を強く求め、アメリカの支援がなければサウジアラビアは長くおたないであろう、としています。ただ、サウジアラビアが我が国の防衛費の二倍もの国防費を支出しアメリカが四軍を派遣しないイエメンへ全力で派遣すると共にアメリカが核開発の可能性を放置し経済制裁を緩めようとしているイランに対し中東の意志を示す重責を担っている事を理解していません。ロシアがNATOを攻撃した場合にもアメリカは不関与を示すべきとしていますが、東欧諸国が乏しい国家予算から塗炭の苦しみの中、NATOの中古や新鋭の新装備を大量に調達し、圧力に応えようとしている実情についても理解を示していません、そして、この状況からアメリカが圧力を大きく転換した場合、非常に大きな異なる影響が生じる可能性を理解すべきでしょう。

 アメリカへの影響、具体的には、かつてアメリカがソ連を包囲する軍事同盟のネットワークを構成した逆転現象が生じる可能性がある、という事です。力の不均衡が生じた場合、例えば東アジア地域では在韓米軍の戦力が大きく縮小した場合、韓国国内の親中勢力が中国の軍事力を以て北朝鮮の核戦力へ対抗するとの選択肢が時点で優勢となるでしょうし、ASEAN諸国もアメリカの軍事力を置き換える強力な軍事力を、経済的に持つ事が可能な日本が憲法改正などを通じて整備しない限り中国の圧力に対抗する事が出来なくなり、中越戦争等次の段階を経て中国の勢力圏に西太平洋全域が呑まれる可能性があります。

 そして南シナ海のシーレーンと経済連携の機会を失われれば、日本と豪州も親中政権に置き換わる可能性があり、影響はハワイ州へ及ぶ可能性も将来的にはでてきます。また、欧州もロシアは経済制裁により一時疲弊していますが、元々資源大国としての地位を持ち、更に地球温暖化によりシベリア開発が進むならば穀物大国への可能性を秘めています、軍事力を支える経済力は多く、冷戦後、対ソ警戒が過去のものとなった今日、全欧安全保障協力機構OSCEなど既存の価値観へ接近等の施策を通じ、欧州全域へ親ロ体制を、かつてのウクライナ干渉のように実施する可能性も高まってしまいます。この事象は、冷戦誘発、という表現で説明する事が妥当でしょうか。

 トランプ氏の視点は、言葉ほど単純ではない、という分析も可能ではあるのですが、影響力は単純な発言によってもたらされるものの方が遥かに大きなものです。そこで、国際政治と安全保障分野では一報が減退すれば必ず、その代替となるものが生じます、実際、アメリカもソ連が崩壊した時点で中欧諸国と東欧諸国への関与を強化し、NATOへ加盟させ同盟国として迎えました。つまり、逆の事象が発生し得る、ということ。これは多少は予測できそうなものなのですが、こうした政策を提示している、更にトランプ氏は自分が孤立主義者ではないとしていますが、他方で確実にトランプ氏の主張を支持する支持者は孤立論者以外何物でもなく、この事実が次の波乱へ繋がるのでは、とも考える次第です。

 アメリカが関与の度合いを低めるならば、例えば国連もその国際の平和と安全という責務を履行する能力に陰りが生じ、国連本部がジュネーヴの国際連盟本部跡地の移りその権限を大きく縮小させつつも独立性を持った機構へ収斂する可能性が生じますし、上海やミンスクに、縮退した部分を補う新しい国際機関が構築される可能性があります、これは結果的に突き放されたアメリカの同盟国を取り込み、アメリカに対する新しい軍事同盟が包囲するように形成される可能性も、捨てきれないでしょう。同盟関係は構築は困難ですが破綻は一瞬です、第二次大戦での米ソ同盟や日英同盟も同様でした 。しかし何よりも、こうしたリスクを予測できるとは考えるのですが、この施策を少なくないアメリカの有権者が容認している現状があり、トランプ発言以上に、その支持層の増大が、今後の世界安全保障体系に非常に大きな影響を及ぼすのでは、ともいえるでしょう。

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巨大災害,次の有事への備え 01:第一線級精鋭部隊が必要となる日本への巨大災害脅威

2016-04-09 22:40:35 | 防災・災害派遣
■自衛隊の災害派遣
 北大路機関には“防災・災害派遣”というカテゴリを2011年の東日本大震災を受け新設しましたが、あの巨大災害から五年を経て、再度この脅威について考えてみる事としました。

 2011年の東日本大震災では自衛隊は創設以来最大の10万名を動員、災害派遣の述べ派遣規模は1000万名を越え、ほぼすべての部隊が災害派遣任務へ展開、派遣部隊の一覧はWeblogの字数制限に関わるほどの部隊が参加しました。実際、あの東日本大震災は、日本の本州島東日本地域全域の太平洋岸が例外なく津波被害を被り、続いて発生した原子力災害は我が国の存亡にかかわるほどの大きな危機であったことは、五年を経て忘れてはなりません。

 第一線部隊を動員した訳ですが、一方で、先進国において災害派遣へ現役部隊の、しかも最精鋭部隊を全力で派遣する事は普通の観念として少々不自然ではないか、予備役部隊が中心となり派遣されるべきもので初動は防衛力の現役部隊ではなく消防等公的機関の対応によってなされるべきではなかったか、という指摘を、識者の方から耳にしました。無論、その識者の方は我が国の予備役に関する数的不足は充分承知しておりまして、他方、政府や自治体が自衛隊へ過剰な期待を寄せている事への疑問も兼ねて、ということでしたが。

 防衛力の第一任務は戦争の抑止、そして我が国自衛隊の最大の任務は我が国への外敵の軍事力を伴う侵攻に対し直接撃破し国土と国民を防衛する事にあります。この視点に続いて続く任務に災害からの国土と国民の防衛、更に国際の平和と安全に資する国際平和創造への人道支援任務等が加わっているわけです。そして自衛隊法上の災害派遣についても、他の組織では対応できない切迫性と即座に対応する事でしか人命の損失を回避できない緊急性等が出動要件に含まれています。

 ただ、他の先進国では予備役部隊を以て対応している大規模災害への対応ですが、日本を襲う巨大災害はその威力が根本から異なる、という事を忘れてはなりません。実際問題、世界では過去に幾つもの巨大災害は発生していますが、先進国において、戦争とテロを含めます場合でも、第二次世界大戦以降、一日で東日本大震災の様に万単位で人命が失われ、数万単位で危機が迫る状況、というものが、中々生起し得なかった、という実情は理解する必要があるでしょう。

 加えて、東日本大震災では救援に当たる数百機のヘリコプターや報道用航空機と自衛隊機を航空管制するべく、航空自衛隊が早期警戒管制機E-767を派遣しましたが、早期警戒管制機が災害派遣において使用されたのは世界初であったとのことです。加えて、災害派遣として数百機の航空機が同時に狭い空域を飛行するという航空機運用というものも、世界防災史上最大の規模であった、ともいえるわけで、その災害派遣の特異性を見出す一端といえるやもしれません。

 国土交通省が災害時の航空管制用にE-767を数機程度保有するか、イージス艦を海上保安庁が運用するという事は少々考えられませんし、原子力災害に備え総務省消防庁が全国の自治体へ数十両づつNBC防護能力を有する装甲車両を装備するという事は想像できませんし、国土交通省災害対応チームが架橋装備や渡河装備を都道府県ごとに準備し緊急対応チームを組むことも出来ませんし、都道府県警ごとに警察が管区単位で輸送ヘリコプター部隊を装備し車両の空輸を含めた輸送体制を組む、という事もやはり現実的ではありません、第一諸外国ではこの種の装備を予備役部隊が充分装備するという事例もまた稀有です。

 自衛隊の災害派遣、というものはこうした災害の規模と必要となる装備が基本的に諸外国とは次元が異なる規模であり、しかも、例えば東日本大震災発災の時点で水陸機動団が整備されていたならば、AAV-7両用強襲車により更に多くの人命が救えた可能性があり、おおすみ型輸送艦に数の余裕があれば初動は更に早かったでしょう、全国の普通科連隊に96式装輪装甲車が配備されていたならば、原子力災害住民退避の際に被曝者の発生をもっと防ぐことが出来たかもしれませんし、輸送ヘリコプターに余裕があれば原子力災害派遣でもさらに打つ手があった可能性があり、蒼の装備と人員でよくぞここまでという感謝に合わせ、装備の不足は残念という言葉だけが残る。

 こうした視点から、日本の防衛力は、災害派遣、という視点からも考えなければならないものが多く、繰り返す事ですが、ひとたび発生すれば数万の人命危機に繋がる、喩えとして核攻撃の被害に匹敵する巨大な人命への危機が、我が国周辺の地殻には隠されている、という視点が必要であるというもの。更に次の災害は確実に発生する、という視点から、災害派遣、という問題を見てゆく必要が、あるでしょう。

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平成二十八年度四月期 陸海空自衛隊主要行事実施詳報(2016.04.09/10)

2016-04-08 22:41:43 | 北大路機関 広報
■自衛隊関連行事
 春の嵐に驚かされたところではありますが、今週末の自衛隊関連行事について。

 今週末は自衛隊関連行事、東部方面隊の師団旅団創設記念行事や富士地区での自衛隊関連行事と九州や東北、春の行事爛漫という頃となってまいりました。第1師団創設記念行事練馬駐屯地祭は日曜日に行われます、東武東上線東武練馬駅から徒歩10分ほどの一にある練馬駐屯地は首都圏と富士地区を防衛警備管区とする師団で10式戦車など優秀装備を装備しています。市街地にあり、訓練展示等が行う事が出来ないのが残念ですね。

 第12旅団創設記念行事、北関東信越地方の防衛警備を担当する旅団で、陸上自衛隊の旅団として初めて戦車部隊を廃止し代えて強力なヘリコプター隊を配置した事で知られる旅団、近年後方支援部隊や施設部隊に通信部隊等を増強改編した事でも知られました。榛名山の麓、赤城山を望む駐屯地は、群馬総社駅が最寄り駅なのですが、群馬総社駅からのアクセスが悪く、駐屯地へは高崎駅から数少ない路線バスを利用するか、自家用車での展開がお勧め。

 滝ヶ原駐屯地祭、御殿場市の駐屯地で、富士教導団普通科教導連隊の駐屯地です。非常に本数は少ないのですが御殿場駅からバスが運行されており、タクシーでも少々値は張りますが足を運ぶことは出来ます。普通科教導連隊、評価支援隊第1機械化大隊、戦車と装甲車の駐屯地となっていまして、更に教育訓練支援飛行班飛行場、隣にはアメリカ海兵隊キャンプ富士等が置かれ、展示も日米の装備が並ぶ興味深いもの。

 多賀城駐屯地祭、第22普通科連隊と第38普通科連隊が駐屯する宮城県多賀城市の駐屯地です。東日本大震災では駐屯地内まで津波が押し寄せ一部が水没しましたが、宮城県郷土連隊として國友昭連隊長指揮下、各中隊は徒歩で津波浸水地帯を踏破し限られた情報の中懸命に初動を担いました。第6師団隷下の普通科連隊として情報伝送能力を高める基幹連隊指揮統制システム実験部隊となっていましたが、震災当時は第6師団の装備に全国から展開した部隊の通信規格が古く対応出来ず、この為、補正予算により全師団分の通信機材を一新した事でも有名になりました。

 第2施設団創設記念船岡駐屯地祭、宮城県柴田郡の駐屯地でJR船岡駅が最寄り駅となっています、施設団とは方面隊直轄の施設部隊で方面隊後方地区の策源地と第一線を結ぶ連絡経路における建設任務、戦闘工兵装備を集中配備し、全般支援から第一線支援までを担うもので、大河に橋梁を掛け荒れ野を要塞に造り替え、道路を障害物群に造り替えるほか、敵の防御陣地を平らに耕す事も出来る、様ざまな装備が見どころ。

 高遊原分屯地創設記念行事、熊本区港に所在する陸上自衛隊の施設で、健軍駐屯地の分屯地となっています、西部方面航空隊と第8飛行隊が駐屯していまして、CH-47輸送ヘリコプターやUH-60多用途ヘリコプター等が配備されています、西部方面航空隊には目達原の第3戦闘ヘリコプター隊にAH-64D戦闘ヘリコプター等も配備されています。この分屯地、熊本空港から徒歩15分ほどの位置に正門がありまして、熊本空港へは熊本駅からバスが多数運行されています。

■駐屯地祭・基地祭・航空祭

・4月10日:第2施設団創設記念船岡駐屯地祭…www.mod.go.jp/gsdf/neae/neahq/
・4月10日:多賀城駐屯地創設記念行事…www.mod.go.jp/gsdf/neae/neahq/
・4月09日:第12旅団創設記念行事相馬原駐屯地祭…www.mod.go.jp/gsdf/eae/12b/
・4月10日:第1師団創設記念行事練馬駐屯地祭…www.mod.go.jp/gsdf/eae/1d/
・4月10日:滝ヶ原駐屯地創設記念行事…www.mod.go.jp/gsdf/fsh/
・4月10日:高遊原分屯地創設記念行事…www.mod.go.jp/gsdf/wae/

■注意:本情報は私的に情報収集したものであり、北大路機関が実施を保証するものではなく、同時に全行事を網羅したものではない、更に実施や雨天中止情報などについては付記した各基地・駐屯地広報の方に自己責任において確認願いたい。情報には正確を期するが、以上に掲載された情報は天候、及び災害等各種情勢変化により変更される可能性がある。北大路機関
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航空自衛隊飛行点検隊U-125鹿屋航空基地北方鹿児島県鹿屋市垂水市境高隈山周辺で墜落

2016-04-07 22:44:14 | 防災・災害派遣
■U-125飛行点検機消息不明!
 航空自衛隊飛行点検隊所属のU-125が鹿屋航空基地北方10キロで消息を絶ちました。

 飛行点検隊、通称フライトチェッカーは入間基地に司令部を置き、YS-11FC,U-125FCを以て全国の自衛隊航空施設における飛行点検に当たっている航空部隊です。事故は6日、1435時頃U-125が鹿屋基地からレーダーロスト及び通信ロストとなりました。レーダーから消えた、とはレーダーの覆域外に出た事を意味し、通信ロストとは応答しないという事を意味し、この二つが重なる事は必然的に墜落の可能性が高い。

 海上自衛隊は1523時、航空事故の可能性があるとして第72航空隊のUH-60救難ヘリコプターを離陸させ、1600時には航空自衛隊新田原救難隊及び芦屋救難隊が離陸し、航空救難任務に当たっています。1625時海上自衛隊鹿屋航空基地より第211教育航空隊、1630時目達原駐屯地より陸上自衛隊西部方面航空隊、1647時陸上自衛隊第8師団第8飛行隊が高遊原分屯地より航空機を離陸させ救難捜索へ加入しました。

 U-125、今回消息を絶ったこの機体は航空自衛隊において航空救難部隊の救難機として捜索及び要救助者へ物資を投下する航空機という運用、そして飛行点検隊では航空保安設備の計測と動作確認を行う任務に運用しているイギリス製の航空機です。飛行点検任務とは、飛行場の設備を点検するためと説明されますが、より分かりやすい表現では、道が見えない空において道を示す誘導装置の点検を行うものです。

 航空機は夜間や悪天候下でも滞りなく離着陸を実施していますが、電波の灯台というべきローラカイザーやグライトパスという電波により上空にあたかも高架線を敷くような電波誘導装置を駆使し、誘導を行うのですが、電波は発信している事は分かったとしてもその状態は地上からは見る事が難しくなります、この発着支援には無線航法装置や計器着陸装置の伝播が確実に出ているかを、実際に飛行させ点検をしなければなりません。

 国土交通省航空局、航空自衛隊飛行点検隊、この航空飛行検査には日本では自衛隊と国土交通省という二つの組織が対応しているのです。国土交通省航空局は高高度及び航空航路計測用ガルフストリームIV、中高度及び航空航路計測用ボンバルディアBD-700、低高度計測用サーブ 2000等を高度に応じて計測を実施していまして、国土交通省の白塗装を施した航空機が全国の民間飛行場等においてみる事が出来ます。

 航空自衛隊飛行点検隊は、YS-11,U-125を使用しています。そして航空自衛隊の飛行点検隊ですが、航空自衛隊の飛行場に加え、海上自衛隊の航空基地や陸上自衛隊の航空部隊駐屯地での点検業務を実施していまして、その総数は150カ所以上となります。自衛隊機は有事の際を想定し、様々な高度での計測を実施していますが、今回、6名の乗員と共に飛行中であったU-125に、こうした事故の発生となってしまいました。

 救難捜索は陸上自衛隊国分駐屯地第12普通科連隊の地上捜索部隊、北熊本駐屯地より陸上自衛隊第8偵察隊の地上捜索部隊、海上自衛隊鹿屋航空基地第1航空群の地上捜索部隊、航空自衛隊新田原基地の第5航空団地上捜索部隊が派遣され、夜を徹しての捜索が実施されました。700名規模の捜索が実施され、残念な事ですが本日1300時頃、鹿児島県山間部で1名、1500時頃に3名、心肺停止の状態で発見されました。非常に残念なこととなりました、残る2名の一刻も早い発見を祈りましょう。

北大路機関:はるな くらま
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
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航空防衛作戦部隊論(第三四回):航空防衛力、拠点航空基地の航空機稼働率と作戦継続能力

2016-04-06 23:15:19 | 防衛・安全保障
■航空戦闘を継続的に展開
 航空作戦、臨時分屯基地として航空団の分散運用を以て第一撃を受けた際の壊滅を避け防空作戦能力の継続を提示し、その上で拠点基地の必要性を示してまいりました。

 拠点航空基地の重要性は、整備支援能力の全体としての大きさです。これは臨時分屯基地への分散は、装備されている戦闘機がたとえ1機でも機能不随となた場合には稼働率が延滞数の少なさから大きく響くことを意味するためです。具体的には戦闘機8機の臨時分屯基地では稼動機が1機へり7機となる事で全体の稼働率は87.5%となり、2機が重整備などで飛行不能となれば稼働率は全体で一挙に75%まで低下する事となります。

 航空戦闘を継続的に展開する場合、基地で1機や2機の不稼働機が生じる事は当然想定しなければなりませんが、臨時分屯基地は航空整備に関して列線整備と検査隊という二段階整備の内、検査機材や重整備機材等専門機材と施設を必要とする検査隊を随伴する事は難しくなります。臨時分屯基地の周辺沖合にヘリコプター搭載護衛艦を遊弋させ検査隊整備支援を受ける、というような奇策や傭船として航空整備船を複数装備し重整備に充てる方式も考えられなくはないのですが、船舶そのものの脆弱性と整備費用の面で合理的ではありません。

 検査隊の他に臨時分屯基地の機能では損傷航空機を後送する事も出来ません。主翼を取り外すならば、航空自衛隊が装備化を進めているC-2輸送機の格納庫部分に機体を収容し後送する事も出来るでしょう。しかし、主翼を取り外し空輸可能な体制に移行するには最低でも擱座機回収車等が必要となりますので、列線整備部隊の能力では手に負えません。臨時分屯基地から港湾までの道路を確保するならば、牽引車によりカーフェリーのようなRORO船に積載し後送する事も可能でしょう。

 RORO船は航空機輸送に用いられる事例があり、例えば沖縄に前方展開した米海兵隊のMV-22可動翼機もRORO船にて岩国航空基地へ搬入された上で所要の整備を行い普天間飛行場へ展開していますので、近くの港湾までの経路を道路使用許可、武力攻撃事態法に基づく道路使用許可により牽引する事で、F-15やF-2についても収容し、海上輸送にて、例えば愛知県の三菱重工飛島工場や小牧南工場へ後送する事は出来るのでしょうが、それには余りに多くの時間を要します。

 一方、装備品の内消耗部品の大型機材などは航空自衛隊が装備する輸送機の数が限られるため、局地海上輸送を行う必要は生じます。もちろん、局地海上輸送任務には飛行場以外のレーダーサイトなど防空監視所への末端輸送も当然含まれましょうが、支援車両の輸送なども海上輸送の対象となります。他方で、局地海上輸送を行う場合、航空自衛隊の支援車両には燃料車を含めかなり大型の車両が多数装備されています。

 実際のところ、航空自衛隊の装備車両数は陸上自衛隊よりも車両数が多く、その輸送には海上輸送を必要とする一方、輸送艦など特殊艦艇の支援を受けるには輸送艦の装備数が海上自衛隊には充分ではなく民間輸送船の協力が不可欠です。この場合、特定重要港湾などもとより旅客航路が就航している地域以外へは、そもそも大型船舶の接岸設備を持たない港湾もあり、接岸できない可能性も生じ、利用できる港湾も無限ではなく拠点航空基地の意義が大きくなるのです。

北大路機関:はるな くらま
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宇都宮駐屯地創立66周年記念行事(2016-04-03) EOS-7Dmark2撮影速報

2016-04-05 23:44:05 | 陸上自衛隊 駐屯地祭
■宇都宮駐屯地祭2016
 日曜日、栃木県の宇都宮駐屯地創設66周年記念行事へ行ってまいりました。

 89式小銃のバーチカルグリップ追加型を構える普通科隊員、フラッシュライト等も追加されておりレイルシステムを施しているのでしょうか。宇都宮駐屯地は栃木県宇都宮市にあって陸上自衛隊の精鋭、中央即応連隊と第12特科隊が駐屯しており、栃木県の防衛警備及び災害派遣に備えると共に中央即応連隊は日本全土への危機対応即応部隊として、更に全世界への国際人道任務や邦人救出を任務としています。

 宇都宮駐屯地、特科隊と普通科部隊の駐屯地です。駐屯地司令は第12特科隊長が務めますが、例年四月上旬は駒門駐屯地創設記念行事が行われており、この日も重なっていました。駒門駐屯地は第1戦車大隊に第1機甲教育隊と戦車部隊の駐屯地、という看板ですが宇都宮は普通科部隊の駐屯地、普通科職種はあらゆる地形と気象を克服し行動する、とされている通り、小銃を筆頭とした携帯火器を中心に様々な任務へ対応する、というもの。

 中央即応連隊の駐屯地である宇都宮駐屯地では、訓練展示に戦車が参加せず、徹頭徹尾普通科部隊の近接戦闘能力を展示するという、戦車は参加しないものの非常に見応えといいますか、普通科部隊の迫力を肌で感じる事が出来る行事と聞いていましたが、延々と89式小銃の一斉射撃を行いつつ攻撃前進、陸上戦闘の本質は土地の収奪にあり、戦車火砲航空機等を用いつつ最後はわが国土の一端を占有する敵勢力を陣地から引き摺りだし、銃口銃剣の強制力を以て敵に白旗を上げさせる、という実態を突き付ける展示となっていました。

 栃木県には宇都宮駐屯地から数kmの距離に北宇都宮駐屯地が所在し、航空部隊駐屯地として航空学校宇都宮校と第12ヘリコプター隊第1飛行隊が駐屯しています。宇都宮駐屯地祭にも、祝賀飛行としてヘリコプターの編隊飛行が行われたほか、訓練展示へもUH-60JA多用途ヘリコプターが参加しました。訓練展示では仮設敵が装甲トラックに重機関銃を装備する所謂テクニカルを投入、UH-60JAのドアガンと激しく戦闘を展開しています。

 輸送防護車、豪州製ブッシュマスター耐爆車両、陸上自衛隊が邦人救出用に導入し中央即応連隊へ導入した4両を集中配備した最新装備です、今回の宇都宮駐屯地祭ではこの車両が初公開されるとの考えられ、注目を集めていました。中央即応連隊は自衛隊の海外派遣などでの先遣隊を果たす部隊でもあり、例えば暴動時に犠牲を伴わず遅滞行動を強いる、南アフリカ製鉄条網急速展開車両等も過去に展示されたことでも知られる。

 中央即応連隊は併せて陸上自衛隊でも数少ない完全装甲化部隊となっています。今年度の宇都宮駐屯地祭では軽装甲機動車が正面に出されての展示となっていましたが、防弾型高機動車等様々な特殊装備を有します、また、隊員の大半が9mm拳銃の訓練を受けており、小銃を含め射撃を重視しているとの話に合致した展示を見せてくれました。他方、軽装甲機動車から01式軽対戦車誘導弾を抱えての観閲行進など、対戦車能力を有している点等も分かり、他の部隊とは異なる普通科部隊の様子を見る事が出来ました。

北大路機関:はるな くらま
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輸送防護車行事初公開 豪製ブッシュマスター宇都宮駐屯地創立66周年記念行事中央即応連隊

2016-04-04 23:41:07 | 先端軍事テクノロジー
■最新“輸送防護車”初登場!
 日曜日、宇都宮駐屯地創設記念行事において、最新装備輸送防護車が行事初公開となりました。

 輸送防護車は豪州製ブッシュマスター耐爆車両を輸入し取得したもので、全長7.04m、全幅2.50m、全校2.65m、戦闘重量14t、300馬力のキャタピラー3126ATAACディーゼルエンジンを搭載し最高速度100km/h、燃料386lにより1000kmの路上航続距離を持つ車両です。防弾能力は7.62mm弾対応という96式装輪装甲車や軽装甲機動車と同程度かそれ以下ですが、車体底部がV字型底板構造を採用しており、その分車高は高くなりますが地雷等の損害に対し防御力を高めている点が特色です。

 防衛省は輸送防護車として4輛を9億円で取得、中央即応連隊へ集中配備しています。これは、邦人10名が犠牲となった2013年1月16日のアルジェリアガスプラント襲撃事件を受け、海外の紛争地やテロ事件などで孤立した邦人が従来法では紛争地から自衛隊が展開する飛行場や港湾まで自力で脱出する事が求められたのに対し、現実的ではないとのことで直接自衛隊が救出へ展開する際、邦人を安全に輸送する防護車両として調達、96式装輪装甲車の二倍程度の取得費用となりました。

 ブッシュマスターはオーストラリア軍が機動歩兵部隊用の高機動車両として1998年に開発、C-130輸送機等に搭載可能で、1000両以上が豪州陸軍へ納入されました。自衛隊へは右ハンドルの採用と車幅が道路運送車両法に適合する規模である点が評価されましたが、併せてオランダ陸軍がアフガニスタン警備用に約90両を、イギリス空軍が施設警備用とアフガニスタン派遣用に24両を、インドネシアやジャマイカでも採用されていますが、この背景となったのは、アメリカ製FMTVトラックと部品の半分以上を共用している点が挙げられるでしょう。

 FMTVトラックはアメリカ陸軍が20000両以上を採用した中型基本戦術車両で、アメリカのほか、カナダやギリシャ等NATO諸国にニュージーランド、台湾にタイやUAEとサウジアラビアやシンガポール、ヨルダンにイラク等中東諸国や東南アジア諸国でも広く採用されており、アフガニスタン派遣などを契機にLTAS装甲キットが開発されています。ブッシュマスターはこのFMTVとエンジンや変速機などを共通化させるとともに完全な装甲車体と組み合わせる事で堅実な装甲車両を開発する事が出来た、ということ。

 輸送防護車の第一印象は思ったよりも小型という点で、96式装輪装甲車よりも軽量ということですので、車格を比較すれば車高が高い分確かに大型ではあるのですが、米海兵隊が日本国内で公開する耐爆車両MRAPの印象と比べれば、現実的な大きさ、という印象でした。他方、これで96式装輪装甲車よりも高いのか、という不満点も拭えず、FMTVトラックと共通化する車両よりは陸上自衛隊の旧称73式大型トラック、3t半トラックと共通化させた国産車を開発した方が堅実で整備性の高いものが製造できると思いつつ、緊急として導入した車両であることを考えればいち早く装備化でき一般公開できる水準までの短期間には、驚くべきもの、と感心しました。

 96式装輪装甲車よりも輸送防護車は軽量で、96式装輪装甲車は野戦用として低姿勢を重視しましたが、輸送防護車の設計は地雷への対応が重視されています。地雷への耐性を強化する場合は車高が大きくなるため、自衛隊は専守防衛の防衛戦略上、地雷を敷設し敵を迎え撃つ状況は多くとも敵の防御地雷原が重厚に完成するのを待って反撃するという悠長な選択肢は無く、車高を最小限として敵の戦車や火力戦闘部隊へ発見されない低姿勢を重視してきました。この為、海外の紛争地へ対応するべく、新規にこの輸送防護車を導入した訳です。

北大路機関:はるな くらま
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