朝永振一郎の「スピンはめぐる」の新版が出たということを数日前に紹介したが、朝永の量子力学IIIにあたる、「角運動量とスピン」(みすず書房)がすでに出ている。
角運動量の章がないと量子力学のテキストとしては不完全だというので、朝永の量子力学の英訳版を出したNorth-Holland社からの申し入れがあったのだろうか、英訳本の第2巻には角運動量の理論が入っていたが、それが日本語版にはなかった。
生前、朝永は名著「量子力学I, II」(みすず書房)の続きの「量子力学III」を書こうとして、何回かどこかの旅館に泊り込んで原稿を書いたり、いくつかの大学でその勉強の結果を集中講義したらしい。しかし、ついに「量子力学III」は出版されなかった。
しかし、朝永の死後、この「角運動量とスピン」が発行された。角運動量とスピンのみならず、摂動論もそれには書かれている。量子力学の数学的整備についても原稿が準備はされたが、その部分は朝永の死によって未完に終わった。
量子力学は角運動量の理論がわかってやっと一人前に量子力学が理解したといえるようになるが、これが始め取りつきにくい。
小谷、梅沢編「大学演習 量子力学」(裳華房)の角運動量の章を読むのが、一番簡単だ。が、私など角運動量の合成を理解したのはやっと大学院生のときであった。
角運動量の合成について基本的なことはそのベクトル・モデルが理解できればいいと思う。
さらに、Clebsch-Gordan係数のところがわかればもっといい。ところが、この係数には文字がたくさんついていてなんだか難しそうである。ある先輩に「これは単に係数なんだよ」と言われてようやく驚かなくなった。
もしそういうことを教えてくれる人がいないと理解するのに時間がかかったことだろう。熱心に学べばいつかはそういうことがわかるのだろうが、それにしても自分ひとりでわかるには時間がかかるかもしれない。
これは角運動量ではないが、有限群の表現にもそういう種類のことがあって、わかるのに数日かかったことがある。それで自分がわかった後は学生には自分なりの表し方で教えていた。
式などをギリシャ文字を使って表しただけで難しそうに感じるものだが、学生などはすぐに拒絶反応を起こす。
ギリシャ文字を使って式を表すときには、単に普通のアルファべットで表してもいいのですが、文字がたりなくてとか、慣用的にこう表されているのでとか言い訳をしないといけない。そうはいっても十分ではないことがやはり多い。
数学者は花文字のギリシャ文字を集合とか空間等を表すのによく使う。そうすると私などはなんだかわからない感じがするので、これは一般的な反応であろう。