ある化学系の技術者だった方が『ドイツ語圏とその文化』2号に「質量は重力に比例する物体のある属性だ」という私が書いた一文を読んで、ようやく質量とは何かの一端がわかったと言われたと聞いた。
質量は重さに比例する重力質量と、重さとは関係がない、慣性質量という考え方がある。
たとえば、摩擦のない床(注)の上に物体が置かれていて、それに力を働かせたとする。物体の重力と床からの抗力とが釣り合っているので、この物体を横側から押してやれば容易に動くかと思うのだが、そうはいかない。
それは運動を起こしにくくさせている、慣性質量がこの物体にはあるからだと考える。
このようにして定義された慣性質量は重力質量とは論理的に関係がなさそうである。
要するに、質量の考えには二つの考えがある。それらはどういう関係にあるのか。
その違いを測定する実験が20世紀の初めに行われたと聞くが、その違いは誤差の範囲でわからなかった。
それで1915年になってその二つの質量は同じものだとする、等価原理がアインシュタインによって提唱されて、これが一般相対性理論の二つの原理の中のひとつとなった。
(注)摩擦のない床など考えられない方はスケートのアレーナのような滑らかな氷の上に物体を置くことを想像してほしい。