物理と数学:老人のつぶやき

物理とか数学とかに関した、気ままな話題とか日常の生活で思ったことや感じたこと、自分がおもしろく思ったことを綴る。

n次元の球の体積

2016-10-11 10:14:00 | 日記

なんて、多重積分の例のようでそんなものに関心をもつことなどまるでなかった。答えのわかっている、多重積分の例が必要かもしれないという事態に至るまでは。そのように考えるようになったのがいつだったかはもう忘れてしまった。

乱数で多重積分をしたことがあるとは、ドイツの大学でルームメイトになった、韓国人の物理学者Kimさんから聞いた。そのときに多重度が多いほどモンテカルロ法での多重積分の精度がよいとのことであった。

それまでに2重積分か3重積分はガウス積分でする必要があったが、数値積分でもモンテカルロ法を使うということはちらっとどこかで聞いたことがあったけれども、自分でやってみたらということはもちろん考えたことがなかった。

1年のドイツ滞在を終えてのことだから1976年よりは後のことだが、当時京都大学の数学の教授であった、山口昌哉さんを工学部の数学の先生たちが集中講義に呼ばれた。その講義のときに話に聞いたのがカオスのことだった。

ところがその話を後になって勉強しても見てもあまりよく理解できなかった。そのときその簡単な2次元写像でてんででたらめな数が得られるという風にその講義で聞いたのだが、それを乱数の発生のさせ方に使ったらというアィディアをもったのはその話を聞いてから、まだ数年後のことである(注)。

工学部の卒論生をようやく持つようになったのはそれからまた数年後だったが、学部の4年生に卒論のテーマを与える必要ができたので、この2次元写像を乱数の発生に使うというアィディアを卒論のテーマに与えた。私があまり真剣でなかったこともあるし、まわりにそういうことに関心をもってくれそうな人もいなかったので卒論はあまりうまくはいかなかった。

そのことはともかく、そのときに乱数の発生ジェネラターとして2次元写像を使うのであれば、それでモンテカルロ積分をやってみたはどうかと思いついた。それが私がn次元の球の体積に関心をもった理由であった。

愛数協(愛媛県数学教育協議会)という数学教育団体の機関誌「研究と実践」にその後3回にわたって球の体積の求め方を述べたことがある。2回目は4次元の球の体積を求めたのではなかったろうか。シリーズの初回は久保亮五『統計力学』(共立出版)の中にあるn次元の球の体積の求め方の説明であった。

そのときにn次元の極座標系を用いていなかったので、3回目はまじめにn次の多重積分をするという話を杉浦光夫『解析入門』(東京大学出版会)の記述を敷衍して述べた。藤原松三郎『微分積分学』(内田老鶴圃)にも計算の詳細があるが、こちらはちょっとまじめには積分をしていないところがあったと思う。

それで、3回目のシリーズにはむしろ藤原さんの計算は久保さんの説明にむしろ近いと書いた。ごく最近だが、スミルノフ『高等数学教程』の微積分のところに多重積分の例として記述があるのを見つけた。これについてもそのうちにその説明を読み解きたいと思っている。

さらに言うと最近の統計力学のテクストである、芦田正巳『統計力学を学ぶ人のために』(オーム社)の付録にも久保さんの導出と同じような記述があるのを知った。

n次元の球の体積を求める方法を調べるなんて、多重積分のアカデミックな例題のようだが、私には単なる例題ではない動機があった。

(注)その後、この研究は私には発展させられなかったが、世界的にはそういう論文が物理の分野にも、また情報工学の分野でも論文が出ている。知っているのはその中の1,2の論文だと思うが。自分の能力のなさを棚上げしていえば、私にはまわりにそういうテーマに関心をもって議論してくれる仲間がなかった。

 (2017.10.12付記)ほぼ一年経って、サーキュラー「数学・物理通信」に4回にわたって n 次元の球の体積の求め方についての数学エッセイを書いた。ほぼ、普通に知られている球の体積の求め方はふれたのではなかろうか。もし関心のある方はインターネットで検索をしてみてほしい。