などと書くと仰々しいが、四元数に関して一つ疑問に思っていることがある。たとえば、『ハミルトンと四元数』(海鳴社)のpp.60-63に
「四元数のベクトル商表示」という節がある。その節の冒頭に
α, β をベクトルとして βα^{-1} を考える。β も α^{-1} もベクトルであるから、βα^{-1} はベクトルの積で四元数となる。
とある。その前のところを読まないで、ここだけをとり出して読んでいるのでそれ以前にちゃんとした説明があるのかもしれないが、普通に逆ベクトルなどベクトルでは定義しない。だからベクトル α に対してα^{-1} をどのように定義しているのか。およそナンセンスではなかろうかなどと疑問に思ってしまう(注)。
これに対応したハミルトンの説明が彼の著書とかイギリスの数学者G. H. Hardyの著書にあるそうなので、それを読んでみたいと思ってHardyの著書を取り寄せて読もうと思っている。
『ハミルトンと四元数』の著者である、堀源一郎さんは東京大学名誉教授のとても偉い先生である。だが、ベクトル α に対してα^{-1} が定義できるとお考えになったのだろうか。それとも私の理解が及んでいないだけなのだろうか。
2次元のベクトルの場合にはこれを複素数と考えれば、商を定義できるが、それだってベクトルの商が定義できたわけではなかろう。商表示についてはWikipediaの英語版にも説明のはじめの方に堀さんの説明と同じようなことが簡単に書かれているが、詳しい説明はない。日本語の四元数のWikipediaにも英語の版の日本語訳のせいか同じような説明があったような気がする。
ところが合理的な説明は与えられていない。
(注:2016.10.21付記)その後、前のところから読んでみると、堀さんはどうも四元数の虚数部分をベクトルと呼んでいるらしいことがわかった。しかし、これは現在のベクトルという用語が一般となっている時代には誤解を招く、言葉遣いである。 なお、結晶学には逆格子ベクトル(reciprocal lattice vector)があるが、これとは別であろう。