"Birds and Frogs" (World Scientific)は F. J.Dyson の論文選集である。
本来的意味での彼の「論文選集」はすでに以前に出版されている。これは第二の論文選集といったところだが、講演のほうが多い。むしろエッセイ集といったところである。
読んでいてちょっと興味深く感じたところは、1945年以前のアメリカでは、量子場の理論はMathematical Extravaganceだったと書いているところである。
1940年代後半になって、共変形式の場の理論ができ、くりこみができるようになって、電子の異常磁気モーメントや水素原子のラムシフトとかが理論的に計算できるようになり、それが実験的に観測された数値と極めてよく一致した。
それで「量子場の理論はMathematical Extravagance」以上の自然の本質を反映したものであることが認識されたが、それまでアメリカでは場の量子論は自然の実在を反映したものだとは考えられていなかった。
これはアメリカがプラグマティズムの国であったからだという。量子電気力学の巨人といえば、いまでこそSchwinger, Feynman, Dysonに日本人の朝永さんということになる。
だが、Schwingerですら、場の量子論は知ってはいるものの、やはり、このプラグマティズムの影響を受けて、場の理論の重要性を認識していなかったという。Dysonはイギリス生まれであったから、そういうプラグマティズムの影響を受けていなかったために、場の量子論を学んでいた、数少ない一人であった。
これはDysonの述べることであるから、やはり説得力がある。もちろん、それからでも70数年を経過しているので、いまでもそういうプラグマティズムがアメリカで支配的であるわけではなかろう。
Mathematical Extravaganceはまだ辞書を引いてみていないので、はっきりはしないが、私の語感では「数学的な法外さ」とでも訳したい、感じがするが本当のところはどうなのだろうか。
"Birds and Frogs"という本のタイトルは科学者をいろいろなテーマを俯瞰して見ることのできる視野の広い人をBirdsといい、それほどではない人のことをFrogsといっている。Dysonは自分自身をFrogにたとえているらしい。ほんとうにそうだとは思わないが。