万足卓『ドイツ語への招待』(大学書林)は1959年の発行である。
この書をいつ買ったのかもう覚えていない。しかし、100ページ足らずの最小限のドイツ語文法の説明(予備編)の後に実習編としてのドイツ語の51編の文章が出ている。
この文章を音読して、暗記するくらい読み返しなさいという。万足先生は「ドイツ語文法は悪魔だが、ドイツ語自身はやさしい言葉だ」という。
それでドイツ語の文法を避けて、ドイツ語の中に入っていく方法を探るという趣旨でつくられた本である。そういう意味では画期的な本である。
しかし、この本がベストセラーになったかどうかを私は知らない。だが、私には目からうろこが落ちた思いがした本であった。
確かに、この本によって私はドイツ語ができるようになったわけではないが、それでもそれまでドイツ語とは得体のわからない言葉という思考を振り払ってくれるのに一役買ったのはまちがいがない。
今から考えてみるとやはり、ドイツ語の「文章のカッコ」(Satzklammer)(「枠構造」(Rahmenbau)ともいう)を理解してようやくドイツ語の不可解さから解放された。
最近では、ドイツ語を教える先生方も名詞や動詞の変化をあまり強調して教えないで、それらは随時慣れていけばよい。そういう考え方が一般化している。
それよりも文章の統語法を重視して教えるという風になっている。「定動詞第2位の原則」などを強調するのは、その現れである。
ただ、それだけではドイツ語がわかるようにはならない。助動詞構文とか現在完了とか受け身とかの構文のときに定動詞とそれ以外の動詞部分とが離れて文中に存在している。これが「文のカッコ」と言われる現象である。
のように(kann)と文末の(schwimmen)で枠がつくられている。これが「文のカッコ」と言われるものの一例である。