以前に、とはいってももう2010年のことだから10年以上前のことである。「視力の基準」という数学エッセイを「数学・物理通信」に書いた。いま、そのエッセイを改訂しようとしている。
視力の単位を単刀直入に紹介しようとしたために、角度を弧度法で測ることの説明を後回しにしたが、これがやはりあまりよくなかったと今では思っている。
それで角度を弧度法で定義することをまず行ってから、視力の話に入って行った方がいいと思っている。もちろん2010年にもそういうことを考えたのだが、そのときは視力の単位を先に導入することを優先して、角度を弧度法で測るということは後で説明をした。
視力の単位をどういう風に導入しているかを先に書いたのだが、そこに出てくる単位がラディアンradであり、3.0*10^{-4} radの視角のあるC型のすきまを認めることができる視力の人は1の視力をもっていると書いた。
ところが昔のエッセイを読んでみるとなんでこの数字が出てきたのか説明をしておきたくなった。自分で書いたのだが、10年以上も経つと自分自身も他人そのものである。
はじめはこのことを脚注で書いておこうかと思って脚注にその数値の計算式を書こうとその文章を書いたのだが、やはり先に角度の弧度法を説明しておいた方がよいと思い始めた。
視力表を5mのところから見てCのどこ(左右、上下)が空いているのかをいうのだが、視力1の人が見分けることのできる隙間の大きさは1.5mmであるという。
そうすると視力表までの距離5mでこの空所の幅1.5mmを割ると
1.5mm/5m=3.0*10^{-4} rad
となる。この式の分子の単位はmmであり、分母の長さの単位はmである。mをmmに換算するか、または逆にmmをmに換算して計算しなければならない。こうやって計算すれば、上の式が正しいことを認めてもらえるだろう。
この計算法を示さないで視力1の最小視角として3.0*10^{-4} radと書いたのはやはり行きすぎだった。