逆格子ベクトルという結晶学で出て来る概念がある。
もちろん逆格子ベクトルが出て来る前に正格子ベクトル(直接格子ベクトルともいう)の概念があり、それの逆格子ベクトルになっている。
数に逆数があるように格子ベクトルにも逆格子ベクトルがあるという訳である。
結晶学は実際に学んだことがないので、知っているのは固体物理学における格子ベクトルと逆格子の概念だけしか知らない。
実は、大学のときにX線結晶学という講義があったが、なんだか退屈で理解ができなかったので、2、3回出席して聞くのを止めてしまった。
ところで、ベクトルでは双対基底というのがあって、元の基底とその双対基底とは積をとると正規直交している。
逆格子ベクトルは正格子ベクトルの双対基底になっているのだが、この双対空間が元の空間と同じなのか違うのか私にはわかっていない(2020.11.2注)。言い方が曖昧だが、空間が自己双対かということを意味しているのではない。
普通のベクトルでは基底を共変基底にとるが、反変基底にとってその成分を共変ベクトル(1形式)とみてもよい。
だから、この場合には単に同じベクトルを違った見方をしているだけだが、格子ベクトルと逆格子ベクトルのときにはどうなのだろう。
同じ空間を別の基底ベクトルをとっているように思えるが、逆格子ベクトルはX線のBraggの回折条件を表しているので、どうなっているのかわからなくなる。
中性子回折が専門の友人に電話をかけて聞いてみようと思いながら1日2日と電話するのを引き延ばしている。
これは私の理解がいまいちということで、多分同じ対象を違った基底で見ていることになっているのだろう。ただ、元の空間とその双対空間とは違った空間であるかのように思われるところが悩ましい。
このことはJOHさんの「ベクトル代数」には空間自身は違ったものであっても、対象としては違ったものではないとの見解が明確に書かれてはいる。しかし、自分が納得できるかどうかが問題なのである。
ここまで書いて来て、どうも対象は同じだがいろいろな見方が出来るだけだという気がやっとしてきた。元の空間とその双対空間というのも単に見方の違いだと。
(2020.11.2 注)双対空間は元の空間ともちろん同じではない。量子力学での座標空間と運動量空間との関係に元の空間と双対空間とはなっているのではないかと考えている。
(2011.4.22付記)
結晶格子ベクトルとその逆格子ベクトルとは違うから、当然違った空間となる。
そこが同じベクトルの共変成分を考えたり、反変成分を考えたりするのとは違う。結晶格子ベクトルの成分の次元は長さであるが、その逆格子ベクトルの成分の次元は長さの逆数である。
そうでないと、逆格子ベクトルとはならない。上に書いてあるところはそれで、ちょっと誤解を招くが私の理解が十分でないときの自分の頭の中のもやもやを表した文であった、ということでそのままにしておく。ご了解をお願いする。
すなわち、実空間(位置空間)とその波数空間(運動量空間)との違いになる。
なぜ波数空間を考えるかというと、元の結晶は周期性をもつから、それを表すのにフーリエ級数とかフーリエ変換を使うのである。
ブログ「フーリエ級数と結晶」でも触れたように、もともとフーリエ級数は周期的関数を三角関の級数で表すという思想にもとづいている。もっともフーリエ変換ではその周期性は必ずしも必要ではないが。
ところで、結晶はこの3次元の周期的関数のいい実例である。逆にフーリエ級数とかフーリエ解析は、この結晶の解析とあわせて解説をした方がいいであろうと考える。
また、蛇足だが、この逆格子ベクトルは結晶のブラッグの回折条件を表す大事な概念となっており、結晶の解析を専門家にはとても重要なものである。
現在、Kittelの固体物理学入門の第2章「逆格子」を私風に読み解いている。
(2019.3.27付記)
「逆格子ベクトルとはなにか」というエッセイを書きはじめている。しかし、これが全く完成しない。
いつだったか友人の中性子回折の専門家に読んでもらったのだが、あとで逆格子の定義か、なにかがまちがっているとか口頭で言われたのだが、そんなはずはないのだ。
しかし、この友人は日本でも有数の優秀な中性子回折の実験家であったので、まちがっているとも考えにくい。彼の意図を理解できないままに、その原稿は放置されている。
同じように、何十年も未定稿で放っておかれた、エッセイ「Lameの定数の導出」の方は、最近「数学・物理通信」にようやく区切りをつけて、掲載した。
しかし、「逆格子ベクトルとは何か」のエッセイの方は、まだできあがらない。こちらのエッセイのほうが、「Lameの定数の導出」のエッセイよりも、完成度が高いと自分では思っているが。
(2019.11.26付記)
またこの逆格子のブログがいくつかアクセスされる時候となった。逆格子の概念がちょっと難しいのが、このブログが見られる理由であろう。残念ながら逆格子ベクトル原稿はその後も進んでいない。不十分であることを覚悟のうえでいつか「数学・物理通信」に掲載すべきであろうか。
(2020.9.23付記)
結晶の幾何学での逆格子空間がベクトル空間の双対空間のいい例となっていることをここで付け加えておこう。ベクトル空間の双対空間というのは抽象的な概念みたいだが、そうではないということだ。もっともそういう説明が述べられている数学の本はほとんどない。
インターネットで「物理のかぎしっぽ」のベクトル代数の項に付加的にこの説明があった。ひょっとしたら私が以前にこのことをこの項を書いたJohさんにメールでお教えしたのだったかもしれないが、もう自分でも忘れてしまっている。
結晶の幾何学には、ベクトル空間の双対空間という語が出ているのを私は見たことがない。
(2021.5.7付記) 逆格子についての私の書きかけのエッセイは永久に書き上がらないかもしれない。それはかなり書いたのだが、自分の中でやはりまだ足らないからである。
これは多くに人がなかなか納得できない概念の一つであると思うので、かならず生きているうちに完結しておきたいのだが。
(2022.2.9付記) 北野正雄さんの『新版 マクスウエル方程式』(サイエンス社)には双対空間の重要性が述べられている。