みすず書房が物理学者の朝永振一郎さんと密接な関係にあったことはよく知られている。
だから、朝永著作集はこのみすず書房から出されているし、また朝永さんの名著「量子力学I, II」とかこの量子力学IIIにあたる、「角運動量とスピン」とかももちろんそうである。最近では「スピンはめぐる」の新版もみすず書房から出ている。
勁草書房は武谷三男の著作集とか現代論集を発行しているから、一時は武谷の著作を一手に発行していた観があった。それでかどうか羽仁五郎の「都市の論理」も出して、この本が一時ベストセラーになったことは知られている。
だが、朝永さんや武谷さんが亡くなって、みすず書房の方はそうでもないが、勁草書房は著者の層が変ってきたように感じられる。それだけ勁草書房の出す本に魅力が少なくなって来ているように感じられる。そんなことをいうと編集者に失礼にはなるのだろうが。
著者と出版社の関わりで言うと、鶴見俊輔さんと筑摩書房のかかわりも深いと思われる。鶴見俊輔著作集を出しているからである。ところがお姉さんの和子さんは藤原書店と関係が深そうである。
こうやって見ると出版社はいい著者を見つけると、ある一定の売り上げが保証されることになるのだろうか。
こういう特定の著者を見つけるのは出版社にとって難しいことだろう。武谷は自分の著書は初版3,000部でそれ以上には売れないとか言っていた。それでも3,000部が売れるということは日本ではすばらしいことであろう。
「数学ブーム」のブログでも言ったが、「語りかける中学数学」「オイラーの贈物」はそれぞれ総数で10万部の売り上げというから、これは数学書としては異例のベストーセラーにちがいない。もっとも年数をかけてなら、今でも売れていると思われる、高木貞治「解析概論」とかはその売り上げの総数はどれくらいなのだろうか。
そういえば、ホルプが遠山啓の「数の広場」シリーズの3部作、「さんすうだいすき」、「算数の探検」「数学の広場」を出したが、これはどれくらい売れただろか。もちろん売れ筋だけを出すのが出版社の仕事ではないのだが。
遠山啓で思い出したが、彼の著作集は太郎次郎社から出されている。これは故淺川満さんという編集者が遠山の大ファンだったことによるらしい。また、仮説実験授業の板倉聖宣の著作はほとんど仮説社から出されている。
このように出版社とその著者には関係が深いことが多い。
私の著書「数学散歩」などは300部も売れただろうか。公立の図書館等がある程度書名に引かれて購入してくれたが、ほとんどの方はそういう書が出たこともご存じないに違いない。またこの書の抜粋版にあたる「物理数学散歩」を今年の4月にやはり発行したが、あまり売れているという話を聞かない。
大学の理工科系の学生のために役立つと思ってこの抜粋版を国土社から出してもらったのだが、預けた250部が売れたという話を聞かない。楽天が少してこ入れをして宣伝をしてくれているらしいが、あまり誰の役立たなかったのかと思うと悲しい。