これは雑誌『燧』という雑誌に「ドイツ語圏世界の科学者」というタイトルで掲載したものの(3)である。
(3) ライプニッツ (Leibniz 1646-1716)
数学は自然科学の中に入れないという人もあるが、私はやはり数学も自然科学の一つであるという立場をとりたい。それに17世紀のライプニッツの時代には今ほど数学と自然科学とは分離していなかった。いやそれどころか後世に科学として確立する分野の天文学(Astronomie)と化学(Chemie)は占星術(Astrologie)や錬金術(Alchemie)とはそんなに明確には分離していなかった。
ところで、微分積分学の創始者としてはライプニッツよりもニュートンの方がよく知られているが、ライプニッツも疑いもなく微積分学の創始者の一人である。
高校で学ぶ微分積分学ではもっぱらライプニッツの考案した微分記号や積分記号 が用いられており、ニュートンの用いたといわれるドットと呼ばれる のような記号は大学程度にならないと教わらない。それだけとっても、実際の微積分学への影響としてはライプニッツの方がニュートンよりも大きい。ただし、微積分法そのものの発見はニュートンの方が10年ほど早かったといわれている。
私的なことで恐縮であるが、私はこのウナギのような形の という積分記号 ∫ が大好きである。先入観としてそうなのであるから不思議である。微分と積分とはどちらが難しいかといえば、だれでもすぐ積分と答えるし、そうにはちがいないのだけれども、この ∫ を書くたびにひとりでにその形の優美さにほれぼれしてしまう。記号の偉大さとはこんなことをいうのだろうか。
とんだ方向に話がそれてしまったが、ライプニッツの科学への貢献には計算機の改良、記号論理学の創始等もある。哲学者、数学者、政治家で百科全書的天才である。ライプチッヒ生まれのライプニッツとはなんだか語呂あわせのようだ。(1988.11.4)
(2023.2.3付記)
この文章を書いた後で大田浩一(東京大学名誉教授)さんの書いた本を読んだら、彼はドイツ人からライプニッツと発音するのではなく、ライブニッツと発音すべきだと教わったと書いてあった。ただ日本ではライプニッツと発音する人が多いと書かれた独和辞書もある。友人のドイツ人R氏にこの点を糺してみたが、両方の発音があるとのことだったので、決着はついていない。