渡辺恒雄あとつぎ宮崎信行の国会傍聴記

政治ジャーナリスト宮崎信行、50代はドンドン書いていきます。

【解説】「新聞再販」死守の渡辺恒雄、礼儀正しい小沢一郎 党首会談の裏側

2007年11月03日 07時38分11秒 | 第168臨時会(2007年9月~1月)法案の嵐作戦


 自民・民主の大連立構想から一夜が明け、読売、朝日の朝刊に目を通しました。

 いったいこの党首会談は何だったのか? 下町の太陽としてかなり自信のある推論が浮かびました。書きます。

 人物キーワードは、礼儀正しい小沢一郎
 
            再販利権死守の渡辺恒雄

○提案持ち帰りは、小沢一郎の礼儀正しさ

 党首会談の謎の一つ。なぜ福田首相の「大連立構想」を小沢代表がいったん党本部に持ち帰り、役員会に諮ったのか。

 カギは小沢さんの礼儀正しさだと思います。

 昔はごはん一粒残しても、「お百姓さんが一生懸命作ったものを」と怒られたものです。(略)私は党の若い人にも「あちこち手をつけて残すなら食べるな」と言っているんです。

 これは農家の主婦との座談会企画での小沢さんの発言です。二世議員の小沢さんですが、昔は東京からの交通の便が悪く、岩手の農村にある小沢家にお父さんが帰ってくることは少なかったそうです。父の後を継ぎ、選挙に出た頃のことを次のように書いています。

 東北人は総じて口が重い。無駄口は叩かない。しかし、そうした人も酒が入ってくると、だんだん口数も増え、普段は語らない本音を言ってくれる。
 まだ三十にもならない若造の僕は、そこでたくさんのお説教もくらったものだが、そうして語り合っていくうちに相手もだんだん「こいつは若いが、本気だ」と分かってくれる。 (『小沢主義』第1章選挙の重さ)


 こういう生活を15年間続けたとしています。

 先日、米国民主党のモンデール元副大統領(元駐日大使)が民主党本部のあるビルを訪れました。
 その際、小沢さんはモンデールさんをエレベーターまで見送りました。エレベーターホールに出てしまうと、小沢さんが大嫌いなマスコミがいるのですが、客人に礼を尽くすのは当たり前のことです。

 ちなみに、「小沢さんは礼儀正しい」という私の感想に違和感を覚える人がいるかもしれません。
 その人には逆に「小沢さんは礼儀をわきまえないマスコミを嫌っている」と言えば、納得してもらえるでしょう。

 礼儀正しさのエピソード。もう少し続けさせてください。

 小沢さんはよく、アフガニスタンで活躍する医師の中村哲さんの話をしますが、中村さんのように海外交流にあたる人と話すのが好きなようです。

 ロシアとの交流団体の会長(故人)ともよく話していたそうです。ある年の一月、その団体の事務職員が「きのう、小沢さんがみえて、一時間ほど話していかれたんですよ」と教えてくれました。
 なんでも小沢さんから、「年が明けて、あれこれ整理していたら、ふと昨年1年間、先生(=会長のこと)にお会いしていないことに気付きました。つきましては先生のご都合のよろしい時間はありますでしょうか?」と直接電話があったそうです。


 さて、自民党と民主党の党首会談。福田康夫さんは小沢さんより6歳年長です。

 小沢さんが学んだ慶應義塾の福沢諭吉は『福翁自伝』の中で、英国の二大政党制についてこう書いています。

 党派には保守党と自由党と徒党のようなものがあって、双方負けず劣らず鎬(しのぎ)を削って争っているという。
 何のことだ、太平無事の天下に政治上の喧嘩をしているという。さあ分からない。こりゃ大変なことだ。(略)
 あの人とこの人とは敵だなどと言って、同じテーブルで酒を飲んで、メシを食っている。少しも分からない。(略)
 その謂われ因縁が少しずつ分かるようになってきて、(略)それが今度の洋行の利益でした。


『福澤諭吉著作集』第12巻164頁から抜粋、現代仮名遣いに改めました)

 福沢の言う通り、二大政党というのは、太平無事の天下に議論で喧嘩する。
 ですから、内閣総理大臣からの頼みをその場でむげに断って、国会内常任委員長室から出ていっては、総理の面目丸つぶれ。あまりにも礼を失しています。

 というわけで、小沢さんが「連立の申し込み」を党本部に持ち帰った理由は、「小沢さんの礼儀」が答えだと思います。

○新聞の再販売価格制度を死守したい新聞界のドン

 では、そもそもなぜこんな大連立構想が浮上したのか?

 きょうの読売と朝日は書いてあることがまるっきり違います。

社説の見出しは

 読売 「党首会談 政策実現へ『大連立』に踏み出せ」
 朝日 「『連立』打診 甘い誘惑にはご用心」

雑報の見出しも

 読売 「連立 前向きだった小沢氏 なお模索、進退論浮上も」
 朝日 「首相 政策実現焦る」「民主反対の大合唱」

とまるで別のニュース素材を取り扱っているかのようです。

 ちなみに朝日の「ニュースがわからん!」では「大連立」が実現したら

 衆院が 与党 449議席 野党 22議席
 参院が 与党 224議席 野党 12議席

 とグラフで示しています。思わず笑ってしまいました。

 鳩山幹事長が「大政翼賛会的だ」と言っていましたが、それ以上。あのころも、鳩山一郎、芦田均、斎藤夫らは無所属議員でした。

 さて、読売新聞グループ本社会長兼主筆の渡辺恒雄(渡邉恒雄)さんが、福田首相を通して、大連立を民主党に呼びかけたのはなぜか?
 それは新聞界のドンとして、政権交代を防ぎたいから。
 ではなぜ、政権交代が恐いのか?
 それは新聞の「特殊指定」解除を防ぐため。

 新聞には割引がありません。読売なら、朝夕刊セットで月決め購読料3,925円(消費税含む)という定価しかありません。
 これは1955年の公正取引委員会告示「新聞特殊指定」を根拠としています。なので新聞は値引き合戦による過当競争の心配はありません。
 
 「特殊指定」は2005年以降、何度も解除寸前のところまでいっています。
 自民党には「新聞販売懇話会」という組織があります。
 主力メンバーは日経新聞記者出身の中川秀直さんと毎日新聞販売局出身の大島理森さんです。
 中川さんと大島さんは派閥は違いますが、互いの政治資金管理団体に寄付をしあうほどの仲の良さです。
 その大島さんは国対委員長として、昨日の党首会談の冒頭に同席しました。自民党で同席したのは他に伊吹幹事長だけです。

 というわけで、自民党が政権から転落すれば、新聞の特殊指定が解除されるかもしれない。一番損をするのは発行部数最大の読売です。渡辺さんは日本新聞協会の会長も務めましたし、その後の会長人事も渡辺さんの意向が強いとされています。

 これが私の推論です。

 ところで、慌ただしくて忘れていましたが、今日は単なる土曜日でなく、祝日・文化の日でしたね。今年はなんか早いです。年のせいだけではない感じがします。



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[追記2007-11-06]
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タグ 渡邉恒雄 読売新聞 福田内閣 党首会談 自民党新聞族 再販売価格維持制度 再販維持 日本新聞協会

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