ニュースサイト宮崎信行の国会傍聴記

元日本経済新聞記者の政治ジャーナリスト宮崎信行が衆参両院と提出予定法案を網羅して書いています。業界内で圧倒的ナンバー1。

【国会傍聴記】市役所パート出身の相原久美子さん、新人議員トップバッターとして代表質問 参院本会議

2007年10月05日 22時17分17秒 | 第168臨時会(2007年9月~1月)法案の嵐作戦

(写真は参院本会議で代表質問する相原久美子さん、NHK国会中継から)

 民主党は7月29日に当選したばかりの新人議員が登場。各党新人のトップバッターとしての重責を果たしました。格差問題をめぐり自治労出身の相原久美子さんの質問は内容が濃かったです。

 参院本会議での代表質問2日目。
 昨日は民主党参院議員会長、自民党参院幹事長でした。
 今日は公明党、日本共産党、社民党、国民新党の幹部が党の立場を説明しました。民主党の2・3人目、自民党の2人目の議員も質問しました。

■国会傍聴記 2007年10月5日 参議院本会議■
 福田総理大臣の所信表明に対する各党代表質問
         白浜一良(公明党)
         大石正光(民主党)
         椎名一保(自民党)
         相原久美子(民主党)
         市田忠義(共産党)
         福島みずほ(社民党)
         自見庄三郎(国民新党)■

 民主党の2人は潤沢な持ち時間のなかで、それぞれ政治家としての持論を述べながら、福田首相の政治姿勢をただしました。

↓参議院の審議のもようはこちらをクリック↓



【自治労の相原さんが新人初登壇】

 相原久美子さんは全国比例代表でトップ当選。個人名で50万票を獲得し、民主党2位当選の候補と20万票もの大差をつけての圧勝です。

 相原さんはなぜ強かったのか? それは今年急に知名度が上がった「自治労」(全日本自治団体労働組合)の応援を受けたからです。安倍首相ら与党や一部マスコミが「消えた年金問題」の「戦犯」扱いした自治労ですが、逆境をバネにしたのか参院選で圧勝したのです。

 ちなみに自治労は「連合」傘下の産業別組合(産別)です。自治体職員がおもな組合員です。ではなぜ国の組織である社保庁職員が自治労なのかと言いますと、地方事務官の廃止など説明が長くなるのでこのエントリーでは割愛します。

 相原さんの質問は聴き応えがあるものでした。

 相原さんは北海道で1947年(昭和22年)に生まれた団塊の世代。
 1986年に札幌市役所に臨時職員(非常勤職員)として採用され「国民年金員」として長く働きました。つまりパートタイム労働者だったわけです。自治労がパートを参院選に擁立したのは初めてです。

 民主党は参院選を「国民の生活が第一」とのキャッチフレーズを掲げて、戦いましたが、相原さんは候補者に決まってから、全国を歩いて、生活弱者の声をたくさん聞き、それを今日、代表質問として福田首相にぶつけました。

【ワーキングプア、派遣労働、ネットカフェ―相原さん、市田さん】

 相原さんは「政府は最初に所得再配分政策に取り組むべきだ」と切り出し、経営者が多くの所得を得る一方、報われない報酬で働く人の格差是正を総理に迫りました。
 「(所信表明で)総理が言った通り、地方では構造改革が停滞し、活力が失われていく悪循環に陥っている」と強調。その理由として、「地方交付税の削減により、最低限の行政サービスを提供できない」自治体が出てきていることを示唆しました。ゆゆしき事態ですね。その処方箋として相原さんは「地方への権限、税財源の移譲を進め、地方(自治体)の財政確保と財政調整制度(例:地方交付税交付金など)を政府が保証する」よう要望しました。

 相原さんは自民党本部がつくった「参院選(敗北)総括文書」を取り上げ、「セーフティーネットの確立が必要以上に強調されている」とし、それは現在、働く人の「労働」に対する報酬などの「対価」が正当でないからだと論を進めました。

 そして昨年からその名が浸透した「ワーキングプア」問題について「ワーキングプアとは怠けている人ではなく、懸命に働き続けても生活水準が厳しい」中小の商店主、農家、睡眠時間を削り2つの仕事をかけ持ちするシングルマザーらだとする報道を紹介。「政府はまず、マスコミ任せではなく、政府自身によるワーキングプアの実態調査をすべきだ」と求めました。

 そして具体論として最低賃金の保障に監視、憲法25条に定められた基本的人権である「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利(生存権)」を確保する上で、「平均年収200万円に満たないワーキングプアが生存権を脅かされているのではないか」と疑問を呈しました。

 相原さん自身が長年経験したパートタイム労働者について「1200万人に上るが、『働き方の選択の幅が広がった』と言われているが、(労働者がパートタイムとして働くことを)選択せざるを得ないのだということをご確認ください」と訴えました。

 派遣労働者についても「平均年収は300万円未満」と指摘し、「特に日雇い派遣スポット派遣は、派遣会社から携帯メールが来て、駅前で集合し、一日の仕事の終了後に賃金を得る姿をよく見かける。若者がこのような働き方をせざるを得なくなってきている」ため、「結婚、子どもを産み育てることもできません」と指摘。「将来の生活設計が可能な質の高い雇用が必要だ」と主張しました。

 落ち着いた話し方、まとまった質問内容など感心しました。さすがはトップ当選者です。組織から出てくる参院議員は、専門分野に詳しく時間的にも恵まれています。組織内のたくさんの人材から選ばれているので人柄もいい。仲間の定年の60歳を過ぎたら、あっさり引退してしまうことが多く残念ですが、きょうは「良識の府・参議院」を再認識でき、参議院の質が良くなってきている感じがしました。

○日本共産党書記局長、「雇用格差」に焦点

 雇用の格差については日本共産党市田忠義さん(全国比例)も多くの時間を割きました。「ネットカフェに寝泊まりしながら、日雇い派遣で働く人の実態調査が必要だ。こうした人に家賃補助と生活資金の貸し付けを制度として設ける必要がある」と提言しました。そして「若者を食い物にする日雇い派遣を廃止し、偽装請負を摘発すべきだ」と主張しました。答弁で総理は「悪質な偽装請負事例は摘発する」と約束しましたが、「悪質な」と限定したことが気になりました。(ちなみに市田さんはネットカフェ難民という言葉を使いませんでした)。

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【「日本外交の軸は環境問題」―民主党大石さん】

 民主党からはもう一人、大石正光さん(全国比例)も登壇しました。衆院、参院両方で環境委員長を務めたベテランです。
 大石さんは国連の地球温暖化に関する首脳級会合と、米国主催のポスト京都議定書に関する会議に関して日本の首相が自民党総裁選に伴う政治空白で出席できなかったことを問題視。
 「(地球温暖化問題をおもな議題とする2008年7月の)北海道洞爺湖サミットを前にしてなぜ参加者がなかなか決まらなかったのか?」と質問。これに対する答弁で福田さんは「国連会合には森元首相、米国主催会合には高村外相が出席した」ので問題がなかったとしました。
 大石さんは「日本の国際貢献の第一の課題は環境問題だ」と語りました。日本は環境問題を通じて国際社会で主導的なやくわりを果たすべきだという考え方で、日本の戦略的な外交のあり方として興味深いですね。共感を覚えました。ちなみに大石さんのお父さんは設立直後の環境庁長官を務めた人です。

【福田首相、自民党ヒゲの隊長の「かけつけ警護」発言は「違法」】

 社民党福島みずほ党首(全国比例)は、「所信表明で憲法改正に触れなかった以上、あなたの在任中は憲法改正はしないのですね?」と問いかけましたが、総理の答弁は玉虫色でした。

 また、自民党の佐藤正久参院議員(全国比例、通称・ヒゲの隊長)がイラク復興支援部隊隊長経験者として「他国の軍隊が攻撃をうければ、自衛隊もかけつける」との趣旨の発言をしたことを問題視。
 これに対し、福田総理(自民党総裁)から、佐藤議員にとっては極めて厳しい答弁が返ってきました。
 「いわゆる『かけつけ警護』は現行法令で認められていない初代イラク復興支援隊長のその発言の真意は理解していない」。
 佐藤正久議員の実名を出さなかったところが、かえって恐い感じです。これを聞いて、ヒゲの隊長は本会議場(という新しい戦場でも)冷静沈着でいられたのかどうか、気になります。今後、何らかの火種になるかもしれません。

【舛添厚労相「国民年金の事後追納期間5年間に延長」示唆】

 公明党参院議員会長の白浜一良さん(大阪選挙区)の質問に対して舛添厚労相は「国民年金保険料の事後追納(が可能な期間)を(現行の2年間から)5年間に延長することを検討する」と答弁しました。ぜひ実現して欲しいです。

 自民党の椎名一保さん(千葉選挙区)への答弁で福田さんは「自立と共生」という言葉を再び使いました。海上自衛隊のインド洋での米軍などへの給油活動について、石破防衛相は「日本の石油の9割が中東産で、ペルシャ湾は日本向けのタンカーが毎日、3~4隻通る」として活動の継続に理解を求めました。

 元郵政相である国民新党の自見庄三郎さん(全国比例)は郵政民営化に反対してきた党の姿勢を改めて示し、郵政民営化見直しを求めました

【関連エントリー】
参院代表質問初日(10月4日)輿石東、山崎正昭
福田総理大臣の所信表明演説  (10月1日) 

 来週は衆院第一委員室に舞台を移して、予算委員会の基本的質疑です。与野党の議論はより具体的で活発なものになっていきます。


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