ニュースサイト宮崎信行の国会傍聴記

元日本経済新聞記者の政治ジャーナリスト宮崎信行が衆参両院と提出予定法案を網羅して書いています。業界内で圧倒的ナンバー1。

会期末攻防激化、「安保」中谷大臣が砂川判決のプロセスを知らないことが判明 「労働」は強行採決迫る

2015年06月10日 18時28分57秒 | 第189回通常国会2015年安保国会

 会期末攻防が一気に本格化しました。朝の2幹2国(自公幹事長・国対委員長火曜朝食会)で、会期延長が必要だとして幹事長一任。この後、谷垣幹事長が安倍首相(自民党総裁)と会い、会期の延長が必要だと語り合ったと報じられています。ただ、ひょっとすると、当初会期内で閉じるケースを話したこともあるかもしれません。二階総務会長からは「2か月以上の延長論」も出たようです。当初会期で閉じるのが当然です。ただ、1回しか延長できないのならば二階さんの言う通り、2か月以上延長して、自民党総裁選になだれ込むのもいいかもしれません。私は、会期延長絶対反対です。

【平成27年2015年6月10日(水)衆議院安全保障特別委(我が国および国際社会の平和安全法制に関する特別委員会】

 安全保障法制2法案(189閣法72号、189閣法73号)が今週初めて審議されました。

 共産党の宮本徹さんは「自国への攻撃がその国の存立にかかわるのは当たり前だが、他国への攻撃が自国の存立危機事態になったという国の事例が、世界のどこかの国であるのか」と問いました。中谷防衛相は「詳しい質問通告をいただいたが、その部分は通告をいただいていないので答えられない」と答弁。岸田外相は「調べて提出する」と答弁しました。外務省はこれから大変です。

 宮本さんは、72政府統一見解に加えて、安保法制の根拠となっている砂川判決について「在日米軍や大使によって日本の主権を脅かした国家にとって屈辱的な判決だ。それを使うのは許せない。すでに米国公文書館で明らかになっている砂川判決の過程を知っているのか」と問うと、中谷大臣は「報道で知っている。今後勉強したい」と答弁し、事実上知らないことが明らかになりました。

 民主党の辻元清美さんは先週からの「3憲法学者違憲発言」などを振り返り、「やはり一度立ち止まって、法案を撤回し、やり直した方がいい」と繰り返しました。

 寺田学さんは違憲判決が出たら、法律の執行を止めるのか」と問うと、中谷大臣は「止める」という趣旨の答弁をしましたが、この後、答弁揺らぎが続きました。寺田さんは、中谷さんの著作の中で、集団的自衛権は違憲だ、とするような記述があるとし、これについて中谷大臣は「自民党国防部会で5年くらい議論する中で、自国を守るための集団的自衛権の行使は可能だと考えるようになった」との趣旨の答弁をしました。この辺も、国会図書館でみてみたいところですが、会期末攻防で手が離せないので、興味のある人は探してください。

 緒方林太郎さんは「北朝鮮の核実験や、台湾海峡の中台の緊張が過去にあったが、それよりもホルムズ海峡が大事なのか」と問いました。中谷大臣が「重要な影響を与える事態だ」と答弁すると、1999年ガイドライン国会の答弁で、「北朝鮮の核実験も中台緊張も周辺事態にあたらない、との答弁がある」と指摘しました。

 後藤祐一さんは「邦人を運ぶ米艦の防護は、本当に他国防衛にまったく当たらないのか」と問うと、中谷大臣は「大きな集団的自衛権だ」と苦しい答弁。

 安倍首相らは「この法案で、自衛隊のリスクはあるが、リスクは高まらない」との答弁を崩していません。維新の党の高井崇志の質問に対して、中谷大臣は「リスクが無いとは私は言わない」 としながら、高まるかどうかは答弁せず。

 維新の党の吉田豊史さんの「国民に理解できない審議が続いている」として、「そもそも内閣法制局長官は何をしていて、内閣法制局とは何をしているのか」と質問。横畠内閣法制局長官は「法案の審査事務と、大臣らへの意見事務をしている」と答えました。吉田さんが「ホルムズ海峡について法律を整備しろ、と言われても(国民は)分からなくなる。想定するような事態は明文化すべきだ」とし、「憲法が現行法を認める合理性は非戦闘地域の存在であり、これを外すなら新たなものを組み込まないといけない。急迫不正の侵害事実があるのなら、なぜ事前に国会承認ができるのか。 党としての立場が決まっていないので、ハッキリ言わないが、国民に分かりやすく説明できる紙を要求する」と理事会で協議することになりました。

 中谷大臣は立ち往生する場面が目立ちました。寺田さんが憲法について「変えられないのか、変わらないのか、変えることができないのか」と畳みかけたあと、中谷大臣の答弁中に自席から「大臣がんばれ!」との野次を飛ばし、法制局主導の審議にならないよう応援。この後、中谷大臣は、緒方さんに対して「委員も外務省におられたので世界のことを考えておられる思いますが」と2回繰り返し、高井さんに対して「リスクについて心配して、真剣に考えてくださりありがとうございます」と2回繰り返しました。

 午後4時15分ころには、与野党の理事全員が集まり委員長席で場内協議しながら、かなり長時間にわたって、質疑が続くというシーンがありました。

 中谷大臣の発言の中で、リスクについて、「私もPKOで南スーダンとジプチに隊員を派遣したが何があるか分からない(ので日々不安だった)」としました。また、「特措法(時限立法)より一般法(恒久法)にした方が、隊員が普段から訓練でき練度(れんど)が上がる」とした点はうなずけました。

 先週は「3憲法学者違憲発言」がありました。以前の、55年体制中選挙区万年与党自民党では、たびたび学者を軽んじる発言を聞きました。きょうの野党は、理詰め攻勢という感じでしたが、寺田さんの「大臣がんばれ!」の謎の野次と、大串博志さんが「憲法解釈のあてはめ」について、長時間気色ばむ場面があり、議論に厚みを持たせました。

 次回の開催は未定。

【同日 衆議院厚生労働委員会】

 「労働者派遣法改正案」(189閣法43号)、「同一労働同一賃金推進法案」(189衆法22号)。

 40分以上遅れて、渡辺博道委員長が着席しましたが、民主党・共産党の委員らが抗議。強行的に開議すると、第1質問者のとかしきなおみ理事が「30時間以上審議をしてきて煮詰まってきた」と語りました。

 欠席した民主党と共産党の質問時間は、空回し(からまわし)をしたようで、審議時間にカウントされたようです。

 委員会は休憩のまま散会せず、夕刻散会しました。

 連合は、「最後まであきらめない」とし、委員会採決の観測がある、金曜日に国会議事堂で大規模な座り込みを行うことになりました。

【同日 参議院本会議】

 別エントリーントリーの通り、「改正防衛省設置法」(189閣法33号)が投票総数231、賛成154、反対77で可決し、成立しました。10月1日(火)に防衛装備庁新設が決まりました。 

  これに先立ち、「道路運送車両法と自動車検査独立行政法人法改正案」(189閣法46号)が本会議で趣旨説明と代表質問されました。衆院で本会議説明が省略されている法案の参議院での趣旨説明は2回連続。この法案は衆議院で自公民維の賛成多数で送られてきています。ひな壇には公明党の太田大臣のほか、漏れた年金に関して塩崎厚労相が登壇。この間、衆厚労委は与党議員が他の政務三役らに質問しました。これは「吊るし」と呼ばれる国会戦術で、参議院民主党も必死に、「労働」「安保」で国を守るための会期末攻防でアシストしています。

【同日 参議院地方創生・消費者問題に関する特別委員会】

 1週間前の本会議で審議入りした「第5次地方分権一括法案」(189閣法51号)と「地域再生法改正案」(189閣法53号)が趣旨説明され、そのまま法案審査しました。衆議院段階では3法案一括審議だったもう一本、「特区法改正案」は本会議でも趣旨説明されておらず、参議院ウェブサイトでも現時点で付託(おろす)されていないので、つるした状態になっているようです。 

【同日 衆議院内閣委員会】

 参議院先議の「道路交通法改正案」(189閣法38号)が審議されました。採決の結果、全会一致で可決しました。

 なお、警察庁の国会提出法案はこのリンク先で見られます。このエントリー記事の下につけてある、リンク集からは警察庁が漏れています。まあ、先方に直接言うべきですが、会期末攻防ということで、ここに記させてもらいます。

【同日 衆議院法務委員会】

 「刑事訴訟法改正案」(189閣法42号)の参考人質疑がありました。参考人の一人が「なんらかの形で成立させておいてから、手直ししてほしい」との意見が出ました。

【同日 衆議院農林水産委員会】

 「農協法・農地法・農業委員会法改正案」(189閣法71号)と「民主党対案である地域のための農協法案」(189衆法21号)が同時に審査されました。金子恵美さんの質問に対する、福島伸享さんや小山展弘さんの答弁を受けて、金子さんは「閣法は立法事実が明確化されておらず現時点では賛同できない。今のやりとりで衆法の優れた点が明らかになったと思う」と締めくくりました。

 なお、改めてまとめますが、今国会は「参考人質疑国会」となっており、官僚のレクチャーよりも参考人質疑の方がいい、という雰囲気になっています。ただ、農水委で共産党の1期生議員が「参考人もこの法案に反対している」と繰り返す場面があり、党議が決まっているのでしょうが、もう少し発展させて質疑してほしいように感じましたが、やはり官僚のレクチャーよりは、参考人質疑の方がいいのは間違いありません。

【同日 衆議院経済産業委員会】

 前回で質疑が終局していた「不正競争防止法改正案」(189閣法45号)を採決。共産党は「企業秘密の漏えいが、刑事処罰の対象になり、非親告罪になるのは、厳しすぎるのではないか」として反対しました。自公民維の賛成多数で可決。あすの本会議で可決し、参議院へ。施行は公布から6か月以内。この法案も「会社員から会社へ」の流れで、「世界で一番企業がやりやすい国」へと改造されます。その後、一般質疑がありました。

【同日 衆議院財務金融委員会】 

 日銀の国会報告にあわせた、一般質疑がありました。この中で、日銀総裁に不用意な発言(あるいは口先介入)があったようで、円ドル相場が、一瞬にして、2%も円高になりました。アベノミクスで景気が良い、景気が悪いというよりも、景気が不安定になっています。

【同日 参議院 政治倫理の確立および選挙制度改革に関する特別委員会】

 第一委員室で、「18歳19歳に選挙権を付与する公職選挙法改正案」(189衆法5号)の参考人質疑がありました。おそらく次回採決。

【同日 参議院国際経済・外交に関する調査会】

 参考人質疑があり、よく当ブログのTwitterにもからんでくれる、アジア太平洋資料センター理事・事務局長の内田聖子さんが意見を述べ、質疑に応じました。 金子勝慶大教授ら3名が呼ばれました。

 下は昨年10月24日の内田聖子さんのツイートです。


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【同日 法律公布】

 「JR九州株式を売却する改正JR法」(189閣法25号)が平成27年6月10日法律36号として公布されました。1年以内の政令で定める日に施行。来年度に上場へ。

以上。

以上
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