監督の今津秀邦は言う。「この映画は動物たちを紹介するのが目的ではない」と…。「北海道に棲む野生動物たちが全ての状況を受け入れ、持って生まれた能力を最大限に生かして命を全うする姿」を映し出したかったと言う。そんな今津が願った世界がスクリーンいっぱいに広がった映画だった。
2月12日(月祝)、円山動物園の動物科学館で映画上映会「生きとし生けるもの」があると知り、朝早くから円山動物園に駆け付けた。
映画は北海道在住の写真家・今津秀邦が北海道に棲むさまざまな野生生物の生きざまを5年間かけて追いかけたドキュメンタリー作品である。
映画は8万羽のマガンが早朝に宮島沼から飛び立つ壮大なシーンから始まった。その様は私も数年前に宮島沼見物に出かけたことがあるので懐かしいシーンであった。
それからさまざまな野生動物が登場する。ナキウサギ、シロザケ、ヒグマ、ユキウサギ、キタキツネ等々…。いずれも北海道に棲む動物であるから、私たちにとってはある意味で顔馴染みの動物たちである。
この映画にはドキュメンタリーによくあるナレーターは一切なく、自然の音だけである。ただ映画の最初と最後に、〔誘い人〕として俳優の津川雅彦が効果的なナレーションを入れている。
印象的なシーンは、小さなナキウサギの甲高い鳴き声、姿を消したかのように雪上を疾走するユキウサギ、定番ではあるがシロザケをくわえるヒグマの姿、シャチが豪快に泳ぐシーン、等々。
被写体として比較的長く登場するのはキタキツネが子育てに励むシーンである。そのキタキツネの子ギツネが陽気に誘われ居眠りするシーンが二度にわたって映し出される。
監修した小菅正夫氏によると、野生動物がカメラの前でこうした無防備な姿を見せることは稀だということだ。それだけ動物写真家としての資質の高さがあるという。
上映時間80数分の間、北海道に生きる野生動物たちが懸命に生きる姿は、ナレーションがなくとも少しも飽きることなくスクリーンを見続けることができた映画だった。
映画上映の後、今津秀邦監督と監修を担当された小菅正夫氏によるアフタートークが行われた。その中で今津監督は、ナレーションを省いたことは「記憶に残る映画にしたい」ということから意識して省いたとのことだった。
また、野生動物をカメラでとらえるには動物との“距離感”が重要だと語った。その距離感とは、①動物と慣れすぎるほど近い間柄、②傍にさえ寄せない警戒される間柄、③いてもいなくても良い間柄、の三つのタイプがあるが、今津氏は③のいてもいなくても良い間柄になることを理想としているとのことだった。その成果が子ギツネが居眠りするシーンを撮ることができたと語った。
映画は、この後ユナイテッドシネマ札幌でも上映されるそうである。