「札幌大学・森林研究所合同公開講座」の後半の講師は、森林研究所北海道支所の平川浩文主任研究員だった。平川氏はさまざまな野生生物の観察研究を続ける中で、コテングコウモリの冬期間の不思議な過ごし方に遭遇したとのことだった。
コテングコウモリは日本各地で生息しているようだが、体重がわずか4~7gととても小さなコウモリで、明るい茶色の長い体毛をもっているのが特徴だという。
翼手類(コウモリ)の特徴である、超音波を出して空間把握や餌探索をすること、逆さにぶら下がること、体温を変えられる(異温動物)ことなどの特徴は、コテングコウモリももちろん有しているという。
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※ 残雪期に雪上で発見されたコテングコウモリです。横の赤い色のものは携帯電話のケースだそうです。
コテングコウモリは通常は樹の枯れ葉の中を棲家にしているそうだ。夏期間などは地上から離れた樹間部に棲む場合もあるが、10月くらいになると枯れ葉の中に移動するらしい。
そのコテングコウモリが多雪地の残雪期に雪上で眠った状態で発見される例が2005年までに7例報告されたそうだ。それが2007~2010年の4年間に6例の目撃例があったという。
残雪期に多くの目撃例が報告された(もちろん平川氏も何度も目撃したようだ)ことから、平川氏はコテングコウモリが冬期間雪中において冬眠しているのではとの推測するに至った。
つまり、雪中で冬眠していたコテングコウモリが融雪期となって雪上に現れたところを発見されたと考えたのである。
平川氏は雪中冬眠の利点を次のように挙げる。(1) 安定した温度 (2) 高い湿度 (3) 少ない撹乱 (4) エネルギー消費が最小 (5) 安全 等々…。
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※ コテングコウモリを手のひらに乗せたところどす。まだ丸くなって冬眠中(?)です。
平川氏は数々の報告事例や科学的知見から自信を得て、2010年の哺乳類学会において「コテングコウモリの雪中冬眠説」を発表したという。
学会として承認はまだされていないようであるが、平川氏の言は自信に満ちているようだった。帰宅してネット上であたってみたところ、平川氏の説はかなり支持されているように感じられた。
正式な承認には、冬期間に雪中で冬眠している実例を発見し、提示することのようだ。何の痕跡もない中での発見は相当に難しいと思われるが、何かの偶然が重なり発見されることを願いたい。
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※ 手のひらの上で目を覚ましたコテングコウモリです。(と云っても目はつぶったままのようです)
私のような部外者、凡人にとっては「ふ~ん、素晴らしい発見なんだろうなぁ…」と思うくらいであるが、観察・研究を続ける科学者にとって未知なるものの発見は大きな興奮を伴うものなのだろうと想像される。
こうした地道な観察・研究によって自然界の謎を解き明かし、科学者たちは私たちに次々と新しい事実を説明してくれていることを改めて認識させられた平川氏の講義だった。