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   桑原靖夫のブログ

混乱必至のイギリス移民・難民政策

2024年05月25日 | 移民政策を追って

Source:CBS


早朝、TVのニュースを見ると、雨でびしょ濡れのイギリスのスナク首相の顔が映った(5月22日午後)。7月4日に総選挙を行うという。意表を突いた発表だった。メディアも大分慌てたようだ。

首相率いる保守党の支持率は長らく低迷しており、秋にでも総選挙に踏み切るかもしれないと思われてきた。上着のひだに水が溜まるほどの雨の中、傘もさすことなくこの発表をしたスナク首相の脳裏には、これ以上先に伸ばしても事態が良くなることは見込めないなら、早く決着をつけようとの思いがあったのかもしれない。前回の総選挙は2019年12月で、イギリス政府は2025年1月までに総選挙を実施する必要があった。

支持率は長らく低迷を続けており、ギリギリまで延ばしたところで、このままでは保守党敗北、政権交代は必至だろう。首相はこの総選挙発表で、なにか有利なことが起こってほしいと、いわば賭けをするつもりで、この挙に出たのだろうか。

スナク政権下、イギリスが直面する重要問題は、経済と移民といわれている。移民政策については、前回記したルワンダ移送案は評判が良くない。ボートでイギリス海峡を渡って来た庇護申請者たちは、イギリスになんとか難民として認めてほしいと思っていたのに、アフリカに移送されるのでは、別の問題が起きてしまう。難民であっても、移住先くらいは自分の意思で選びたいだろう。

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N.B.
イギリスでは、2023年(暦年)には、67,337件(84,425人)の難民申請があった。上位5カ国は、アフガニスタン、イラン、インド、パキスタン、トルコだった。前年比では17%減であった。

小さなボートでイギリス海峡を渡る人たちの10人中6人は、アフガニスタン(19%)、イラン(12%)、トルコ(10%)、エリトリアん(9%)、イラク(9%)と、少数の国に集中している。
2021年から海峡を渡ってイギリスにたどり着いた人のおよそ90%が、庇護申請をしている。しかし、わずかに25%の人々が決定結果を受け取っている。そのうち、8,969人(69%)が保護の対象となった(Source: UK Home Office)。
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時間がかかる審査
アメリカの場合もそうであったが、庇護申請者の審査にはどこの国でも多くの時間を要する。英国の場合、2023年末で、128,786 人が最初の庇護申請の結果待ちだった。2019年当時の51,228人と比較して、ほぼ倍増している。

2021年年初から、内務省Home Office は未処理の案件を一掃するよう指示した結果、かなりの案件が消化されたが、いまだに多くの人々が何らかの決定を受け取ることなく、英国内に留まっている。

2023年末で、庇護を求める人たち111,132人は、イギリス政府の支援が受けられている。そのうち、ほぼ半分の47,778人は臨時の宿泊施設などに滞在することが認められている。庇護申請をしている人々は働くことは禁止されており、政府から最低限の必需品をカヴァーするためとの名目で、1日当たり7ポンド(約1395円)の日当を給付されている。しかし、この額で暮らせる人はどれだけいるのだろうか。

困難さを増す子供の庇護審査





Souce:BBC

イギリス国内に家族の誰かがいる場合、子供の難民申請者はイギリスに来て家族と共に住むことが許されている。しかし、この場合でも事実確認のため、多大な書類と時間を要する。今日の法律ではヨーロッパのいづれかの国に移住したいと願う庇護申請者は、最初に本人が到着した安全な国で申請をしなければならない。しかし、家族が別の地に居住している場合、子供の庇護申請手続きはその国へ移送される。

さらに、イギリス国内に家族がいない子供も多い。その場合、ヨーロッパの移民・難民関係者としては、いかに処理すべきかという難問につきあたる。中にはすでにイギリスへ到着している子供もいる。

随伴者がなく、難民の集団に入って危険な旅をし、ボートに乗せてもらいイギリスまでやって来たという子供も増えているという。その場合、ロンドンの特別なオフィスで申請、記録される必要がある。この場合、当局はなぜ子供がここまで来たか、そして誰と生活するかを掌握しなければならない。そして必要な手続きが終われば、子供は彼らの家族と一緒になることが認められる。

上掲の人形は、これらの複雑な背景を持った子供の難民、庇護申請者について、地域住民の理解を深めるための啓蒙活動の一端と言って良いだろう。移民に対する壁を少しでも低め、国民として受け入れるための活動の一環と考えられる。

ここに挙げたのは、わずかな例示に過ぎず、実際の庇護申請は、出身本国の確認から始まり、極めて多くの煩瑣で複雑な背景と多大な処理手続き、ペーパーワークからなっている。移民・難民問題はとりわけ受け入れ国にとっては、国境線での許認可にとどまらない入国後のあり方にまで関わる難しい問題である。

日本の海岸線の長さは、世界で第6位、約35,000km, イギリスの2,400kmを遥かに上回るといわれる。もし、日本が現在のイギリスの場所に位置していたら、どんなことになるだろうか。インバウンドの増加、人口減少などに目を奪われ、なし崩し的に受け入れるリスクの大きさにも十分配慮すべきだろう。移民・難民政策の難しさは、こうした地政学的位置に左右されるところがきわめて大きいところにもある。

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